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お姉ちゃんの結婚式に、みんなで行こうね

何日も前から天気予報ばかりを気にしていた。日曜日がどうか晴れますように、と願いながら。

4月23日、日曜日。
この日は長女の結婚式だった。

長女は結婚して約1年になる。
結婚式はしないかもしれないと言っていたが、昨年末に

「春になったら、家族だけのこぢんまりした挙式をしようと思ってる。ゆう(二女)も大丈夫なところだからね。

と長女から連絡をもらった。
親に晴れ姿を見せようと考えてくれたのだろう。費用は入籍の際にいただいたお祝いの範囲内でやりくりするし、段取りも二人ですべてやるから心配いらない、と娘は言う。そういうところ、あの子らしいなぁと思った。

私の時代とは違い、自分たちで自由に選んで作るような現代の結婚式のスタイルが、ちょっと羨ましく思う。当日、式場に行ってみるまで何もわからないゆるさに、なんだかクスッと笑ってしまった。

二女がベッド式の車椅子のまま入れる式場を、夫婦であちこち探しまわってくれていたようだ。しかも、二女の身体の負担にならないように、なるべく少人数で、家からもあまり遠くない場所を。
その娘夫婦の気持ちが嬉しかった。



式当日の朝、空は晴天。
あたたかくて、前日までの強い風もない。黄砂も大丈夫そうなクリアな色の空にホッとした。

夫が朝食の時にボソリ、「眠れなかった。」と言う。
図太さの塊のような性格なのに、式のことを考えて寝付けなかったらしい。

「まさか寂しいの?結婚してもう、1年も経つのに。」

と聞くと、

「言葉にはできやんけど、なんかもう、会えやんような気持ちがする。」

と言う。
長女は近くに住んでいて、いつでも会えるんだけど、そういうことではないらしい。

長女が彼と暮らすためにうちを出たときには、彼女の茶碗を見るたびに寂しく思った私だったが、結婚式に関しては、花嫁姿を見られることが楽しみだなぁと思うだけで、今さら寂しいとは全く思わなかった。

男親は違う感覚なんだろうか。
娘の結婚式には、やっぱり特別な想いがあるようだ。

「籍を入れるときは幸せになるんだなぁってホッとしたけど、結婚式となると考えただけでも鼻の奥がつんとする。」

と言って、夫は目が真っ赤になっていた。
つられて私も涙ぐむ。

そういえば夫は、長女が生まれた時に花嫁姿を想像して泣いていた。そのときは「気が早いわ!」って笑い合ったが、今まさに、その日を迎えたんだなぁって、しみじみと思った。

「あのさぁ、俺の革靴って先が尖ってないけど、ダサいかな?」

と、鼻を啜りながら急にとぼけたことを言ってくるので、そんな夫にティッシュを渡しながら私は応えた。

「父さんのことは誰も見てないよ。でも、バージンロードを一緒に歩いたら、ヒールの長女の方が父さんよりも背が高いかもね。

残念ながら、我が家にシークレットブーツはない。


さぁ、あと1時間で家を出発する時間だ。
二女もおめかしおめかし。
赤いチェック柄の可愛いワンピースを着せて、髪をアップにして、前髪はドライヤーでバッチリセットして。
目が大きくてまつ毛が長いから、アイメイクは必要ないかな。

今日は、二女もきれいにしてやりたい。
しっかり眠って体調も万全。大事な時に照準を合わせるのは彼女の得意技だ。

「ゆう、みんなでお姉ちゃんの結婚式に行こうね!」と言いながらリップを塗ると、目をぱちぱちさせて、二女も25歳の女性の顔になった。




*****


古い大きな屋敷を改装して作られた黒壁の敷地内に入ると、森の中のような、緑いっぱいの空間が広がっていた。


ガーデンウェディングの会場



ガーデンウェディングなので、青空と緑の木々のなかで、真っ白い長女のウェディングドレス姿が映える。
あたたかい太陽の光も、今日の日を祝福してくれているようだ。

両家の家族だけの、手作り感がいっぱいのアットホームな挙式には、若い夫婦のこだわりと配慮が散りばめられていた。

バージンロードを夫と歩く長女がきれいで、我が子ではないような感覚になる。
長女の手が、夫から旦那様へ…。

あらためて、間宮くん(娘の旦那様)と娘の幸せを願った。



二女もずっと笑っていた。
彼女が外気に触れることは久しぶりだ。
気持ちよさそうに、優しい春風に吹かれている。
息子は二女のそばから離れることなく、そっとサポートしてくれていた。


皆がマスクを外して笑い合うのも、久しぶり。
はじめましての間宮くんのごきょうだいたちも、二女に挨拶をしてくださる。
間宮くんのお母さんも、「ゆうさんが笑顔でよかったですね。嬉しそうで感激しました。」と、おっしゃってくださった。

子どもに障がいがあると、どんな親でもやっぱり、きょうだいの結婚に多かれ少なかれ不安を抱いてしまうものだ。



長女の結婚の時にも、私が勝手に胸の中でいろんな心配をしてしまった。結婚式に向けても、親としての拭えない「ごめんね」が心の隅っこに常にあった。
それらの、遠慮とも引け目とも言えないような涙味のもやもやが、すーっと消えていくような気持ちがした。

彼のご家族があたたかくて、それが嬉しくて、自分の内側からふわっと安堵の涙が溢れた。
そして、「あぁ、ゆうを連れてこられてよかったなぁ」って、やっとそう、心から思えた。


式が終わり、長女がウェディングドレスの裾を少しまくりあげて、私ににっこりする。
ドレスで隠れて見えなかったが、彼女は自分と身長が変わらない父親のために、ヒールではなくぺったんこのパンプスを履いていたのだ。

目を合わせて、ぷぷっと2人で笑った。

長女、たいへんよくできました!
こんな幸せな時間を、私たちにプレゼントしてくれてありがとう。



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