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組織設計・運用実務③ 人員計画の立て方

今回は、人員計画の立て方についてまとめていきます。人員計画には、「要員計画」「定員計画」「人員計画」など狭義の考え方がありますが、今回の記事ではざっくりと会社の人員をどう計画したら良いか?という観点でまとめていくこととします。

人員計画は、向こう3~5年における事業計画を実現するための組織プランです。中期の事業計画が実現する頃には理想の組織が出来上がるように組織設計をしたうえで、遡って無理のないようにマイルストーンとしての年次ごと人員計画を作成するのです。

現状、多くの会社では「事業計画上、売上を伸ばすために営業を○人増やす」「現場から人手不足と申請が上がっているから○人増やす」といった話が多いのではないでしょうか。事業計画を達成するための売上も大切ですし、現場も日々動いており業務量も求められる品質も変化しています。

特に、後者の現場業務を詳細に織り込んで人員計画を立てるとなると、すべての業務に対して何にどのくらい時間がかかっているか?を整理しなければならないでしょう。本来、業務改革を組織的に行なうならばそうすべきともいえますが、私の経験上、人員計画はおろか、そこまで見える化した労力に対して、悲しいかな、売上や利益にはあまり直結しないものです。(それなら、関係者が集まって「無駄な仕事は辞めよう」と思い切ってバッサリ削るほうがコストダウンと心理的な余裕につながります。)

ということで、人員計画については大局的な視点に立って、(精緻に厳密に作成するのではなく)経営者や現場管理者が頭に入れておけるほどの「目安」として作成していくほうが良いといえます。

その際、組織図の中に「どの部署に何名」などと描いていただいても結構ですが、図として表現すると数字としては加工しづらくなるため、表として作成していくと良いでしょう。

1.人員計画の作成の仕方

そこで、表1のように現在の人員状況を作成していきます(簡単にイメージできるように小さい会社規模にしています)。まずは雇用形態や役職(または等級)に分けた縦軸と、部署名に分けた横軸で表現していきます。慣れてくれば、もっと組織実態に照らして細分化すると、よりイメージがつかみやすいでしょう。

表1.現状の人員体制イメージ

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表次に、表2のように3年後の人員状況を作成していきます。その3年の間に事業や組織が変化している可能性はあるわけですが、現時点で明らかになっている事業展開や組織編成があればそれを織り込み、そうでない場合は現状の部署を踏襲していくと良いでしょう。

表2.3年後の人員体制イメージ

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すると、表3のように現時点から3年後までの組織の推移を作成することができます。
こうすることで、例えば他の地域に支社を展開させる計画があるとすると、転勤が可能かつ業務の企画・運用が可能な人員を在籍させる必要がありますので、そうした人材を採用し育成する計画を今のうちから立てることになります。

表3.3年後に向けた人員計画

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この表3を作成するうえでポイントが2つあります。

一つは、「退職者と新規採用者(退職補充)」という要素を盛り込んでいるところです。これにより、退職者数・採用数の把握と採用コストの把握ができます。実際にまとめてみると、経営者が「え?うちって、こんなに人辞めてるの?」などと驚くこともあります。そうした実態把握が経営の認識上、大切だったりします。

もう一つは、「昇格」と言う要素を盛り込んでいるところです。これにより、人材を計画的に育成して「昇格できる状態に仕上げなければならない」という人材育成計画の必要性を理解することができます。

特に、多くの企業では「課長や係長といった階層別のポジションを担える人を何年後までに何人作らなければならない」という、この時系列での人員計画・育成計画の視点が抜けているのです。(それに加えて、「課長とはどんな人であるべきか?人物像やスキル、必要経験は?」といった定義も抜けているといえます。)

そこで、採用と育成は、表3の人員計画に紐づいて考えていくことになります。
新規採用が採用人数、昇格が育成人数というイメージで捉えます。各等級に合致する従業員を外部から全て採用するのか、または内部から育成していくのかの考え方によっても方針は大きく異なります。

また、年度が変わる度に中期の事業計画を見直していくことになるため、人員計画も自ずと見直すことになります。組織運営を行う中で、従業員の退職が続いたり、思ったような育成ができないために、人員計画の立案まで考えが及ばないというケースもあるでしょうが、事業計画を実現するためには人員計画作りは必須と考えてください。

2.採用計画

現状の人員体制をあるべき人員計画に近づけていくために、具体的に組織図に落とし込んだうえで採用を行うことになりますが、人員計画だけだと売上高に対して実際にどのくらいの人件費が増加するのかがわかりません。

人員計画を理想で組んでしまうことによってうまく使いこなせずにあぶれてしまい利益だけを圧迫する、という状況は避けたいところです。

そこで、わかりやすい指標として売上高人件費率(売上高に占める人件費の割合)または労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)を使用し、現状と中期計画とを比較します。同程度であれば問題ありませんが、割合が高いと利益を圧迫し、割合が低いと人員を酷使することになります。

「従業員が増えると効率化が図られるので割合を下げるべきだ」と考える方もいますが、多くの場合は人数が増えた分だけ「コミュニケーションコスト」「教育訓練コスト」「組織化に伴う事務負担コスト」が増加することになるため、同程度として考えることを推奨します(限界利益によっては異なりますが)。

先の事例にならい、以下の表4のように人件費を算出します。現時点の売上高が10億円、3年後の売上高目標を20億円とすると、売上高人件費の割合はいずれも14%程度となり、妥当だということがわかります。

事業計画の伸びベースで見ると、採用人数としてはこの差分を採用するということになります。しかし、実際のところは「自己都合退職者」「定年退職者」「産休・育休取得者」等のマイナス分(一時マイナス分)を考慮する必要が出てきますので、以下の計算式となります。

新規採用者数=
事業計画の伸びに応じた採用人数 + 退職者・一時休業者の補充人数

つまり、上記から導かれる新規採用者数に応じた募集費を計上しなければならない、ということになります。

表のケースであれば、3年間の事業計画上の増員は25名、仮に年間5名が退職するとすれば3年間で15名ですので、3年間で計40名を採用することになります。
全て人材紹介を利用して採用すれば(仮に一人当たり120万円かかるとすると)、4,800万円(年間1,600万円)が費用として計上されることとなります。募集費を抑制しようとすれば、「無料媒体・web求人への出稿による募集を行う」「従業員の紹介等による募集費のかからない採用を行う」「退職者をできるだけ減らす」ことが一番の得策となります。そうすることで、抑制した募集費を元手に販促費や次世代サービスへの投資を打つことも可能になりますし、従業員へのボーナスに充てることも可能になります。


表4.現状の人件費イメージ

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表5.3年後の人件費イメージ

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3.育成計画

育成については、さきほど表3に示したように、昇格させるに足る人材育成を行う必要があります。表中では、一年目に4名、二年目に7名、三年目に7名を昇格させることとなりますので、それに見合った一定の力を身につけさせます。

表3.3年後に向けた人員計画(再掲)

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「役割が人を作る」という言葉の通り、実際にその立場に立ってみて分かることも多く成長につながるわけですが、それと同じくらい、立場に適応できず組織力が下がったり、従業員が退職したりします。
ですから、いきなり昇格させて一つ上のポジションに放り込むということは避けるべきです。適応できない原因としては、本人の適性、努力、能力の問題もありますが、「上の立場に立つ」ということを一定以上伝えていないことが大きな要因といえます。

これは、「上の立場に立つということはな…」と話して聞かせることを指しているのではありません。日頃から本人に「判断や意思決定」「部下・後輩育成」「組織的な調整」「業務の管理・人を使っての業務」を疑似体験させて上司がフィードバックすること(=権限委譲)が重要である、ということです。

この疑似体験により、一定の経験値(=判断基準や要領)を得たタイミングで昇格させると、実際にその立場に置かれたことによる責任の重さや重要性を実感できるようになる、ということなのです。これが人材育成の基本として経営トップや経営幹部が押さえるべきこととなります。

以上の基本があって初めて、教育研修体系が機能するようになります。ロジカルシンキング研修や管理者研修などの単発研修を外注したからといってすぐにできるようになるわけではないということです。人間の能力はそんなに簡単に開発できるものではなく、それらの研修は気づきや学びのきっかけに過ぎないということをしっかり理解したうえで、日ごろから現場において人材育成を行うようにします。

昇格の判断についてですが、実際の業務が全てできるようになるのを待っていても、実際に上の立場に立って指揮命令しているわけではありませんので、完璧に実力がつくことはありません。「このくらいで一旦昇格させてやらせてみよう」という適度な判断が必要になります。これは早すぎても従業員本人の気持ちがついていきませんし、遅くても本人の意欲を削ぐことになるため、タイミングが非常に重要になります。本人の意向がどうなのかを掴んでおく必要があるので日ごろからのキャリアパスに関する情報収集を心がけると良いです。

また、表中の役職に関する必要な管理能力を以下に簡単にまとめますので目安にしてください。
一般であれば、定型業務を反復させることで習熟度を高めて一人で成果を上げられるようにします。主任であれば、習熟した定型業務を一般社員がより早く習熟するようにお世話をします。従業員がそういう行動を取るように会社側が業務を組み立てたり、日ごろから指導したり、評価の指標にすることで人材育成の仕組みを構築します。

この目安は本来、会社が各階層に求める人物像から作成されるべきものです。この人物像を元にして、教育体系や人事制度における等級制度(等級ごとの人物像)・評価制度(等級・職種ごとの評価項目)に紐づくことになります。

①一般  
 定型業務を正確・迅速に行い、効率よく成果を上げる
(自分のことができる)
②主任
 定型業務に習熟して成果を上げ、一般社員に業務を
 教える(人のお世話ができる)
③係長
 定型業務の改善提案を行い、より成果が上がるようにする
(改善・企画できる)
④課長
 組織運営・管理を中心に行い、組織全体で成果を上げる
(マネジメントできる)
⑤部長
 事業運営・管理を中心に行い、事業全体で成果を上げる 
(事業管理できる)
⑥取締役
 企業全体の運営・管理を行い、企業の業績を上げ理念を実現する

以上、簡単ではありますが、人員計画の立て方をベースとして、採用計画と育成計画についてお伝えしました。こうした考え方に立って、自らの手でパソコンとにらめっこしてみてください。新たな発見があるはずです。

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今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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