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おにぎり文化人類学

子供時代は遠足や運動会のお弁当といえば、おばあちゃんやおかあさんが握ってくれる「おにぎり」が定番だった。ところが近頃は外国人観光客がおにぎりショップで長い列を連ねているのをよく見かける。この食材の魅力は、どこにでもポータブルに持ち運べて、ほしいときに食べることができるところにある。ではこのおにぎり、おむすびと呼ぶこともあるが、どうなんだろう。『広辞苑』には、“おにぎり”とは「にぎりめし。 おむすび」と記載されている。逆に “にぎりめし”で調べると、「握り固めた飯」、“おむすび”は「女房語で、にぎりめしのこと」と記載がある。 おにぎりの名の由来は、魔除けの意味が込められた「鬼斬り」である、という説もある。すると、おばあちゃんやおかあさんにおにぎりを握ってもらう風習は、家族の安全・安心を祈って持たせたものだったのかもしれない。

広辞苑第七版による、おにぎりとおむすびの定義:


  • おにぎり: 「にぎりめし」の俗称。ご飯を握り、主に海苔で包んだもの。形は三角形、円形、俵形など様々で、中には具が入ることも多い。

  • おむすび: 「おにぎり」と同じ意味。主に関西地方で用いられることが多い。「むすび」とは、「結ぶ」から派生しており、神聖なものや縁起を担う意味も含まれている。

日本人の暮らしに便利を添えてきた「おにぎりの文化人類学」

おにぎりは日本の食文化の中で非常に重要な位置を占めており、その歴史は古く、古代から現代に至るまでさまざまな形で根付いている。おにぎりは米飯を手で握って三角形やたまご形などに形成し、海苔で巻くスタイルが基本だ。季節や好みで具材や形状は、地域や個人の好みによって自由に設計できる。文化人類学的には、おにぎりは食べ方や作り方、そしてそれが持つ象徴的な意味によって、日本社会のさまざまな側面を反映している。

  1. 家庭との結びつき: おにぎりは一般的に家庭で作るものだった。特に母親や祖母が家族のために作ることが多い。これにより、家族間の絆や愛情の表現としての役割がある。

  2. 季節感と地域性: おにぎりの具材や味付けは季節や地域によって異なり、その地の文化や風土を反映している。例えば、地方の特産品を具材に使ったり、地域独特の味付けをする傾向にある。

  3. 食文化との結びつき: おにぎりは日本の食文化の一部として、祭りや行事、ピクニックなど様々な場面の風物詩である。そのため、日本人にとっておにぎりは日常生活や文化的なイベントにおいて重要な役割を果たしてきた。

  4. 身近な食の象徴: おにぎりは手軽に持ち運びができるため、昔から旅や野外活動のお供として親しまれてきた。そのためおにぎりは、自然とのつながりや、日常生活の中での便利さという文化的な価値を持っている。

これらの要素からもわかるように、おにぎりは単なる食べ物以上の意味を持つ歴史的・文化的な象徴であり、日本の食文化や社会の一部として重要な位置を占めている。

アニメが外国人のおにぎりブームの火付け役だった

おにぎりが外国人に人気になるきっかけとして、アニメが大きな役割を果たしていると考えられている。おにぎりが登場する代表的なアニメ作品は…。

ジブリ作品: スタジオジブリの作品では、おにぎりがしばしば登場する。例えば、『となりのトトロ』ではメインキャラクターがおにぎりを持っているシーンが印象的に描かれている。

ドラゴンボールシリーズ: 『ドラゴンボール』シリーズでは、主人公たちが戦闘中や冒険中におにぎりを食べる場面がちょくちょく登場する。

魔法少女まどか☆マギカ: この作品では、主人公たちがおにぎりを食べるシーンが一般的な食事として描かれている。

名探偵コナン: おにぎりが登場するエピソードがいくつかあり、主人公のコナンがおにぎりを好んで食べるシーンが印象的に描かれている。

鬼滅の刃:善逸がおにぎりを炭治郎に半分に分けるシーンがある。

千と千尋の神隠し:「人が握ったおにぎりは食べられない」のセリフがある。

これらのアニメ作品は日本の食文化を外国の視聴者に紹介する一環として、おにぎりが自然に登場することで、外国人にその魅力を伝えるきっかけとなっている。

昔ばなし「おむすびころりん」に見る、おにぎり文化論

【おむすびころりん】@まんが日本昔ばなし
登録:昔ばなし

【おむすびころりん】@まんが日本昔ばなし

おにぎりブームにより、おにぎりは海を越えて進化した

海外のおにぎり専門店で提供される斬新なレシピには、日本ではお目にかかることがない発想のレシピある。たとえば、かつて寿司が海外で流行した時、カリフォルニアロールに進化したのと似ているかもしれない。海外のおにぎり専門店で人気あるレシピの一例をご紹介させていただく。

  1. スモークサーモンとアボカド: クリーミーなアボカドとスモークサーモンをカップリングしたおにぎり。アボカドの風味とスモークサーモンの豊かな味わいがベストマッチと好評である。

  2. スパイシーなタコス風: タコスの具材をおにぎりにアレンジしたもの。タコスシーズニングやシャキシャキのレタス、トマトを具材に使い、メキシコ料理の要素を取り入れている。

  3. キムチとチーズ: 韓国のキムチとチーズを組み合わせたおにぎり。キムチの酸味とスパイシーな味覚がチーズのコクにとけこんだ一品である。

  4. バッファローチキン: バッファローソースで味付けした鶏肉を使ったおにぎり。ピリ辛でアメリカンな味覚と好評である。

  5. マンゴーとアボカド: 甘酸っぱいマンゴーとクリーミーなアボカドを組み合わせたフルーティーなおにぎり。彩りも美しく、季節感が楽しめる一品である。


アメリカのおにぎり専門店「Onigilly」
ハワイのおにぎり専門店「いやす夢」
おにぎり専門店「FUN FUN」
パリのおにぎり専門店
マレーシアのおにぎり専門店、8店舗展開

海を渡った「おにぎり」、カラオケのように各国に定着するだろうか…

このように文化人類学的におにぎりを考えてみたが、日本にはいろいろな国の食文化が定着しており、もはや海外発ということすら忘れているものもある。パンやカレー、ラーメンなど、数えきれないほどある。逆に日本製のテクノロジーも海外で定着しているケースもある。顕著なものは「カラオケ」である。システムはカラオケでも歌われる曲は、その国のヒット曲であることが多い。おにぎりも似たような定着がありえる。ごはんを使った「おにぎり」であっても、中に入れる具材はその国の伝統的な食材が好ましい。こうしてカラオケしかり、おにぎりしかりで受け入れられるようになることは、一番身近な国際交流である。これは互いの文化を尊重しあう平和的交流に違いないとつくづく感じている。

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