半沢直樹のキャリア観

遅ればせながら、半沢直樹を観た。

評判通り、とても面白かった。


だけど職業病か、どうしてもキャリアの観点でみてしまう。

そこでひとつの疑問が生じた。


半沢は、なぜブレずに自分を通すことができるのか。


ということだ。


特に物語終盤、これでもかというほどの逆境が襲い掛かる。

それでも半沢は、どんな状況においても自らを曲げることなく、

どんなに酷い仕打ちを受けながらも、戦いを挑み続けた。


転職全盛時代、自分の想いをより叶えられる環境に移るという手もある。

しかし半沢はそれを選ばない。

どんな苦境に陥ろうとも、自らの手で銀行を良くしていこうと奔走する。


今日はそんな半沢直樹のキャリア観を、

キャリアコンサルタント経験者としての視点で分析してみようと思う。



キャリアの軸

まずは、面接でもよく聞かれる「キャリアの軸」。

これは働くうえで絶対に曲げたくない、自分の価値観といえる。

会社に置き換えると、「経営理念」にあたるものだ。


それが伺えるシーンが第9話にあった。


半沢がホテルで極秘に会合をしている

中野渡頭取、大和田取締役、箕部幹事長のもとへ乗り込み、

銀行と政治が絡んだ過去の不正を世間に公表するよう

頭取へ直談判するシーンである。


「たとえ世間からの信頼が地に落ちても、我々自身の信念を捨てなければ、銀行は必ず立ち直れるはずです。必要なのは頭取の覚悟です。どうか本来あるべき銀行の姿勢を示してください。あなたがそれを示してさえくれれば、我々銀行員は、襟を正し、一丸となって失った信頼を一から取り戻していきます。通すべき筋を通してこそ、我々は顧客のために頑張れるのです。」


覚悟を持ってそう伝えるが、

半沢はその場で帝国航空の担当を外され、

頭取から「出ていけ」と一喝される。


しかし半沢は幹事長からの土下座要求を拒否し、こう言ってのける。


「頭取、、私は銀行を信じています。我々は、金融の力で、世の中の懸命に働く人たちの助けになるのだと。私だけじゃありません。この銀行に勤めるほとんどのバンカーが、その正義を、その使命を信じています。だからこそ我々は、己に厳しく、謙虚に、自分達でなく世間の利益となることを最優先にと心がけ、真摯に励んできたんです。あなたのしたことは、懸命に働く全銀行員への裏切りに他ならない。到底許すことはできない!」


頭取、取締役、そして政治家である幹事長を前に

これほどの啖呵を切れる覚悟もすごいと思ったが、

相手が誰であろうと、働くうえで絶対に曲げてはならない軸を

半沢は持っているということが、

とても伝わってくるシーンである。


ちなみに半沢は、航空会社の再建に関わった際も、

「再建は、どうせ政府がやるんだ。銀行の出番など…」

という航空会社役員に対し、強い口調でこう言っている。


「帝国航空を見くびらないでいただきたい!」
「確かにこの会社は満身創痍かも知れない、だがまだ死んじゃいない。現場の社員達は、戦後の日本の空を守ってきた誇りを持って働いている。経営状態が悪化した今も、世界の航空会社の満足度ランキングは常に上位だ。安全性、サービス、スケジュール、機材整備、すべてにおいて高評価を得ている。現場の一人ひとりが汗をかいて守り抜いてきた伝統の証だ!」


また先ほどのシーンでは幹事長に対しても、

政治家のあるべき姿を叫んだ。


「政治家とは、国民それぞれが自分の信じる理念のもとに、この国をより良くするために選んだ存在です。あなたの本当の役割は国民への奉仕のはずだ。にも拘わらず、その使命を忘れ、国民の想いと、願いと、未来への希望をあなたは裏切り、踏みにじった。私を銀行員として抹殺したいのならどうぞご自由に。だが、銀行の正義を信じるすべての銀行員のために、そして、この国の正義を信じるすべての国民のために、あなたの悪事はきっちりと暴かせていただく!」


総てに共通しているのは、

「自分たちではなく、世間の利益を最優先にする」

という想いだ。


銀行であれば、世の中の懸命に働く人たちのために、

航空会社であれば、サービスを利用いただく顧客のために、

そして政治家は、すべての国民のために。


自分に対しても、そして周囲に対してもブレることのない軸を、

半沢が持っているのだということが、これでわかると思う。


では半沢はなぜ、このような想いを抱いているのだろうか。

その答えは、season1にあった。



キャリアの軸をつくる基になる原体験

本人の価値観をつくる強いベースとなっている経験のことを、

キャリア用語で「原体験」という。


ここでは、半沢の原体験を探っていきたいと思う。


半沢は、なぜ銀行員になったのか。

そこには、亡き父親とのエピソードが大きく影響している。


半沢の父は、夫婦で「半沢ネジ」というネジ工場を経営していた。


しかし半沢(直樹)が中学生の時、

取引の半分を占めていた狛田工業が倒産し、

見切りを付けた産業中央銀行から

融資を打ち切られたことで絶望し、首吊り自殺をしてしまう。


父は、

「このネジが日本を支えてるんや。人と人とのつながりを大切にし、ロボットみたいな仕事だけはしてはいけない」

という言葉を半沢(直樹)に遺すのだった。


半沢はこの時の経験と、

銀行を変えたいという想いから銀行員を目指したのだ。


辛い状況のなか、

「自分が銀行を変える、父のような人を救うんだ」

という強い想いを持ったことが、

半沢にとって働くこととイコールになったんだろう。


これが、半沢にとっての原体験である。



想いを体現するための、3つの信念

これは会社の経営理念を見ていても思うことだが、

どんなに崇高な思いを持っていても、

それを持ち続けること、

それを体現し続けることは非常に難しい。


しかし半沢は、ある方法で想いを体現し続けている。


それをあらわすシーンが、第4話にあった。

会社に不満を持っている後輩社員に、半沢は言う。


「気に入らないか。じゃあ、戦え。」


しかし言葉の真意を掴みかねている後輩に、こう伝える。


「戦うとき敵がいつも正面にいるとは限らない。気が付いたら戦いが始まっているときだってある。だがな、一番厄介なのは敵が自分自身のときだ。」
「大丈夫だ。信念さえ持っていれば問題ない。組織や世の中はこういうものだという強い想いだ。剣道でいえば、自分の型になるのかな。」


そして後輩に促され、半沢は自分の信念を紹介する。

1.正しいことを正しいと言えること

2.組織の常識と世間の常識が一致していること

3.ひたむきで誠実に働いたものがきちんと評価されること


「当たり前のことに聞こえますが」と言う後輩に、

「その当たり前が今の組織はできていない。だから誰かが戦うんだ。」

と諭す。


そしてその原因を、

「自分のためだけに仕事をしているからだ。仕事は客のためだけにするものだ。ひいては世の中のためにするものだ。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は、内向きで、卑屈で、醜く歪んでいる。」

と分析する。


大原則とあるのが、キャリアの軸となっている半沢の想い。

「仕事は客のため、世の中のためだけにするものだ。」

ここは一貫している。


そして、それを日々忘れずに体現するために、

3つの信念を設定していることが分かる。


抽象的な想いを体現できているかどうか、

日々の仕事のなかでチェックできるレベルに具体化している。


つまり仕事をしながら、

自分は言いたいことを言えているか、

組織の常識と世間の常識は一致しているか、

ひたむきで誠実に働いたものがきちんと評価されているか、

ということをチェックしているのだろう。


最後に、半沢は後輩にこうアドバイスする。


「これからお前は色んな相手とと戦うことになるだろう。だがな、最初の敵はいつも、自分自身だ。勝敗は時の運だが、決して自分の構えを崩すな。


想いを持ち続けること、想いを体現することの

難しさを知っている半沢だからこそ、

自分の構えを崩さないことを最も大切にしていることが伺える。


そして、その体現を常にチェックするために、

3つの信念を設定し、それを念頭に置きながら行動しているのだろう。



どんな環境も活かして、前に進む

強い想いを持ち、

それを体現することにこだわりを持っている半沢だが、

自分でコントロールできないところへの柔軟性も持ち合わせている。


これも理想のキャリアを実現するための重要なポイントだ。



プランドハップンスタンス理論というものがある。


1999年、スタンフォード大学のクランボルツ教授が、

成功を収めたビジネスパーソンを対象に

キャリア分析を行った結果、実に8割の対象者が

「現在の自分のキャリアは予期せぬ偶然に因るところが大きい」

と答えた。


つまり、自分ではコントロールできない「偶然」が、

自分のキャリアを成功に導いているというのだ。


プランドハップンスタンス理論は、上記から

「キャリアは偶然によって左右されることが多く、

これらの偶然を前向きに捉え積極的に活用することで

キャリアをより良いものにすることができる」

というものである。


また、偶然の出来事はただ待つのではなく、

意図的にそれらを生み出すよう積極的に行動したり、

自分の周りに起きていることに心を研ぎ澄ませたりすることで、

自らのキャリアを創造する機会を増やすことができるとされている。


ではどうすれば、より良い偶然を引き寄せながら

それを活用していくことができるのか。


クランボルツ教授は、

それを実現するために必要な5つのスキルを紹介している

1.好奇心:たえず新しい学習の機会を模索し続けること
2.持続性:失敗に屈せず、努力し続けること
3.楽観性:新しい機会は必ず実現すると、ポジティブに考えること
4.柔軟性:こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
5.冒険心:結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと


説明が長くなってしまったが、

半沢がどのようにこの理論を体現してきたのか、

今回のドラマ内での半沢の仕事に対する姿勢を、

それぞれに照らし合わせてみていこう。


1.好奇心:たえず新しい学習の機会を模索し続けること
不本意な出向のなかでも、証券について、そして顧客について強い興味を持って勉強をし続ける。分からないことがあれば現地まで飛んで、話を聞く。どんな仕事に対しても、好奇心を忘れず「知りたい」という思いを強く持って進む半沢の姿勢がうかがえる。


2.持続性:失敗に屈せず、努力し続けること
航空会社の再建案を提示した際、ある人物の裏切りにより従業員たちにリストラの計画が漏れてしまう(しかも不都合な部分だけを切り取られたかたちで)。そんな窮地に立たされた際も一切諦めることなく逆襲の一手を探し続ける半沢。最終的には裏切り者を見つけ出し、従業員達の信頼回復に成功する。どんな逆境においても努力し続ける姿勢が、成功を生み出している。


3.楽観性:新しい機会は必ず実現すると、ポジティブに考えること
好奇心、持続性を担保しているのがこの楽観性だろう。日本語での楽観は「なんとかなる」と訳されることが多いが、本来の意味は「なんとかできる」というものらしい。「倍返しだ!」という名ゼリフの裏には、「必ずなんとかできる」という強い意志が感じられる。


4.柔軟性:こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
これは半沢には当てはまらないように見えるが、絶対に曲げないものとそうでないものをしっかり使い分けている。証券会社に移ってからは銀行員としての常識は捨て、証券会社の常識を理解し行動に移している。だからこそ、「新しい場所」でうまくいく方法を見いだせているのだろう。


5.冒険心:結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと
どんな相手に対しても、どんな案件に対しても自分を貫くという迷いのなさが半沢にはある。たとえそれが役員であろうが、頭取であろうが、政治家であろうが。また、国を支える航空会社であろうが。自分が信じた道を進み、自分が信じる結果を出すまではとことん行動し続ける。冒険心という言葉では物足りないほど、前進し続けることが半沢の真骨頂に思える。



さて、第4話の終盤、

中野渡頭取が大和田取締役に半沢を指してこう呟く。


「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材というのは、そういう者のことをいうんだろうね。」


望む環境ではない場所においても、

腐ることなく目の前の機会を最大限活かしながら、前に進んでいく。


その姿勢を評して、大銀行トップが半沢に最大限の評価を与えたのだ。


結論~なぜ半沢は、ブレずに自分を通せるのか~

半沢は、なぜブレずに自分を通すことができるのか?


ドラマを見て感じた疑問は、

分析してみたことによって下記3つの理由から解説できる。


1.働くうえで最も大切なことは何なのか、言語化している
「金融の力で、世の中の懸命に働く人たちの助けになる」
「自分たちではなく、世間の利益を最優先にする」


2.その軸を行動レベルに落とし、行動基準としている
3つの信念
「正しいことを正しいと言えること」
「組織の常識と世間の常識が一致していること」
「ひたむきで誠実に働いたものがきちんと評価されること」


3.プランドハップンスタンスの姿勢でしなやかに
5つのスキルで、目の前で起こる偶然をすべて活用する
「好奇心/持続性/楽観性/柔軟性/冒険心」



最後に、証券会社を去る半沢が

仲間たちに送ったメッセージをご覧いただきながら、

ぜひ今日の気づきをひとつでも活かしていただけたら嬉しい。


僕も自らの理念を、信念をしっかりと落とし込み、

日々の行動に反映させていきたい。


「勝ち組、負け組という言葉がある。私はこの言葉が大嫌いだ。だが私が銀行からここに赴任したときによく耳にした。銀行は勝ち組、俺たち子会社の社員、プロパーの社員は負け組だと。

 それを聞いてもちろん反発する者もいたが、大半は自分はそうだと認めていた。だが今はどうだ。君たちは大銀行が総力をあげてもなし得なかったことを成し遂げた。負け組だと思っていた君たちがだ!

 大企業にいるからいい仕事ができるわけじゃない。どんな会社にいても、どんな仕事をしていても、自分の仕事にプライドを持って日々奮闘し、達成感を得ている人のことを本当の勝ち組というんじゃないかと、俺は思う。

 ここは若い会社だ。君たちは40代から20代。大半は就職氷河期で苦労をした人間だ。そうした事態を招いた馬鹿げたバブルは、自分たちのためだけに仕事をした連中が顧客不在のマネーゲームを繰り広げ、世の中を腐らせてできたものだ。その被害を被った君たちは、俺たちの世代とはまた違う見方で組織や社会を見てるはずだ。そんな君たちは10年後、社会の真の担い手になる。君たちの戦いは、この世界をきっとよりよくしてくれるはずだ。

 どうかこれからは胸を張って、プライドを持って、お客様のために働いてほしい。たとえ相手が銀行でも遠慮することはない。君たち世代の逆襲を、いや、、君たちの倍返しを!私は心から期待してる。」(半沢直樹)


Masaki


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