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『パーフェクト・デイズ』を観た感想

 ヴェンダースの『パーフェクト・デイズ』を観た感想を。  私がいたく好きな、村上春樹の初期の短編「午後の最後の芝生」を思い出してしまった。この短編小説は、大学生がバイトで芝刈りをする一日の話である。そして芝を刈るなかで人に出会う。そういう話である。この主人公は芝を丁寧に刈る。まるでルーティーンのように。それは、『パーフェクト・デイズ』で主人公の平山の生活に張りめぐらされているルーティーン、そしてトイレの掃除の仕方、それらと共通のものだった。  出発点となる問いはこうだ。 ル

    • 映画『福田村事件』を観てくる

      映画『福田村事件』を観てくる。 ストーリーは説明するまでもない。関東大震災後、千葉県福田村で、誤った虐殺が生じたことを扱ったものである。架空の登場人物も設定されている。 ある意味、とても単純な映画だった。いや、単純に見えるようにきちっと作り込まれているというべきだろう。 それゆえ、観る側は、全編にわたって、「あなたならどうする」と問われているようにしか思えない。正解は、簡単である。 寺田寅彦が次のように述べている。 「・・・震災のあと、朝鮮人(ママ)ママ朝鮮人が井戸に毒を入

      • 『君たちはどう生きるか』の感想

         一言でいうと、私はたいへん感動した。ただし、静かに。  これは老齢の宮崎駿氏が、生きることを肯定した映画であると直感した。  前作『風立ちぬ』のコピーは「生きねば」であった。そして堀辰雄の『風立ちぬ』が、例の「風立ちぬ、いざ生きめやも」ではじまっていることも知られている。  老齢の宮崎が、「さあ、生きよう」と、若い観客ではなくて、自分自身に言っているのである。  ここから言えることは、生きるということを選ぶことに、年齢は関係ないのであり、ひとはいくつになっても「生きること」

        • 順番について

           ご飯を食べられるようにするには、水の中にお米を入れて、その水を沸かさないといけない。そしてそれを口に放り込む。その逆ではダメである。生米を口に放り込んで、お湯を飲んでも、ご飯にならない。──この面白くもなんともない説明が好きだった。  これで言いたいのは、物事には順序が大事だ、ということなのである。  高校生の頃、将来の夢は「離婚すること」などと吹聴していた。長じてどうなったかは措くとして、離婚するためには結婚しなければいけない。その逆はあり得ない。順序が大事である。  

        『パーフェクト・デイズ』を観た感想

          ある学会誌のJ-Stageへの登載作業をして思ったこと。

           ある学会誌をJ-Stageへと登録する作業をしつつ思ったこと。    ある学会に所属しているのだが、その学会の学会誌をJ-Stageへと登載する作業を担当した。作業が単純だったので、それをしながら、あれこれ思いをめぐらせた。  ほぼ登録作業を終えて、この学会誌はJ-Stageで検索できるようになった。もちろん、私は、他の学会に入っているわけだが、そこのいくつかの学会誌はリポジトリがない。これが何を意味するかということである。  学会誌だから、会費を納入している学会員には

          ある学会誌のJ-Stageへの登載作業をして思ったこと。

          歌の正解にふれる

           夕焼け空を眺めながら、屋上で洗濯物を取り込んでいると、繰り返し思い出すのは、ユーミンの「ひこうき雲」である。私はこの曲を、女の子が空に憧れて、空に飛び出して、そして死んだことを歌った歌だと理解している。きっとその子は、空を飛びたかったし、自分が飛べると思って疑わなかったのだ。だから、飛んでみたら死んだ。n魔女ではないのだから。そして、これは実際にあった話しだ、ユーミンが若い頃に知っていた子が、こうして死んだのである、それをユーミンが歌にした。そう私は理解している。  三階建

          歌の正解にふれる

          恋の成就について❤

           仕事が終わって休憩のため散歩に出る。ブックオフに入ってなんとなく本棚を眺めていると、こんな本があった。『高慢と偏見とゾンビ』。まさかと思うと作者は、オースティンともう一人。裏をめくってみると、こういうあらすじが。なんだ?「戦士ダーシー」って。 思わず買ってしまう。  本を持って歩きながら、思い出したのは『若きウェルテルの悩み』の、フリードリヒ・ニコライによるパロディだ。ニコライはゲーテより年長の啓蒙主義者で出版業者。これは、年のいった分別のある人物と血気盛んな若者の

          恋の成就について❤

          真理の賞味期限

          真理というのは普遍的なものでなくてはならないけれど、実は同時にきわめて個人的なものでなければ無意味だというところがある。     これは、僕があるカトリック系の大学で講義をやった後の学生との懇親会で、学生が話していたことと関係する。その男の子は横にいた女の子と、「太陽はいったい誰のものか」ということについて議論していたのだ。太陽とは、神様のことを指している。神様は、私だけのものではないけれど、でも圧倒的に私だけのものであるということがなければ、信仰は成り立たない。     教

          真理の賞味期限

          ショーペンハウアー協会の関東地区大会というのに出てみた

          先日、ショーペンハウアー協会の関東地区大会というのに参加してみた。前半は、論文の発表があって、それも面白かったのだが、後半は読書会だった。ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』の翻訳のある個所を読んでそれについて検討する、というもの。  その議論がなかなか面白かった。ショーペンハウアーは言う。人生が短いことを、喜ばないヤツなんていないぜ、と。人生は短いからいいんだ、と。  どんな楽天家でも、ひどい状況、たとえば衛生状態の悪い病院、監獄、拷問部屋、奴隷小屋を目の当た

          ショーペンハウアー協会の関東地区大会というのに出てみた

          希望について

          昨晩、ランニングをした。  いつだったか、授業で哲学対話をやったとき、ある文脈で「希望」というコトバが出た。  「希望」なんて、なんだか陳腐で月並みな気がして、口に出すのも恥ずかしい、というように感じた。  だが、ある社会状況のなかに生まれ落ちて、その社会状況のなかでは、明日の自分を、今日よりもよりよいものだと夢見ることが、絶対できないなら、それは希望がないことだろうと思う。明日ってものがあって、それを少しでも自分で動かせる、っていうことがないなら、それは相当ツラいもの

          希望について

          孤島のこと

          随分前に書いたものだけれど、気に入っているので。 毎晩、息子と風呂に入るのだが、風呂場には世界地図が貼ってある。 その地図をじっと眺めていると、インド洋の北に島がある。どこの国の島でもないようである。しかし、この程度の地図にさえはっきり分かるくらいだから、大きさとしてはかなりのものである。 調べてみると、この島であった。 名前は、ポルトーフランセというらしい。フランスが管理しているようである。  だが、季節風ゆえに波の荒い南インド洋にある、大陸からは彼方に離れた島であ

          孤島のこと

          手術報告

          もう随分まえの話である。 しかし、ようやく書き置く気になれたので、ここに記しておく。 がん治療は早期発見が大事。私の場合は小細胞ガンでした。 2012年 11月28日 近所の石沢内科にてレントゲン検査。影がある。そのまま西新宿のメディカルスキャニングで検査。  ・医師の話を、いまだ真に受けていない。 12月3日  石沢内科にて、癌の疑いありとされる。東京医大予約。  ・最もはじめに思ったのは、「めんどくさい!」ということであった。    12月6日  東京医大呼吸器外科

          手術報告

          自己肯定感について         生まれて1年半で自己肯定感は形成される!

          ある子育て中の母親中心のMLに書いた文章。父親なんだけど。 -- 前略  ご無沙汰しております。  もう、半分部外者なのに、このMLに書きたいことができてしまって、書いてしまいます。  例のごとく、長いです。  途中で、適当に読み捨ててください。  ではいきます。  先日、息子の小学校で「自己肯定感」についての講演会がありました。  「マザー・サポート・ネットワーク」というところの飯田さんという方のお話でした。  「自己肯定感」という言葉はしばしば聞きますが

          自己肯定感について         生まれて1年半で自己肯定感は形成される!