孤島のこと

随分前に書いたものだけれど、気に入っているので。

毎晩、息子と風呂に入るのだが、風呂場には世界地図が貼ってある。

その地図をじっと眺めていると、インド洋の北に島がある。どこの国の島でもないようである。しかし、この程度の地図にさえはっきり分かるくらいだから、大きさとしてはかなりのものである。

調べてみると、この島であった。

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名前は、ポルトーフランセというらしい。フランスが管理しているようである。
 だが、季節風ゆえに波の荒い南インド洋にある、大陸からは彼方に離れた島である。

 私が思い出すのは、『ゲド戦記』に出てきた、こんな逸話である。
『ゲド戦記』第Ⅰ巻にある。
そこは島というようりも、小さな砂州である。
ゲドは、そこに流れ着いた。小屋というよりも、流木を重ねた「囲い」に住む、老人の男女がいた。二人ともろくに言葉も話さない。着ているものは襤褸である。粗末な食べ物しかない。老婆のほうはゲドに関心を抱くようになり、ガルガド帝国の紋章を刺繍した子どもの服を見せる。ゲドは、その二人が高貴な生まれの者で、訳あってここに追放されたと考えた。後に、それは正しいことが分かる。
 その二人の老人は、五,六才のころここに追放され流された兄と妹であった。激しい風がいつも吹き付けるこの砂州に、二人はもう何十年も住んでいる。生きていくのにぎりぎりの知恵をつけたのだろう。それ以外のときは、吹きすさぶ風を避け流木の囲いのなかに、じっとうずくまっていた。何十年ものあいだ。彼らは、五,六才までで覚えた言葉以上のものは使えないだろう。読むものもなかったのだから。着ていたボロは、かつてのドレスだったかもしれぬ。彼らの記憶は、どのようなものだろう。

 ひょっとしたら、今でも「囲い」のなかにうずくまっているかもしれぬ。このインド洋の南にある島を眺めながら、そんなことを思うのである。

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