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第31編 狙われた引っ越し屋

引っ越し屋が狙われた

引っ越し屋はなぜ自分が狙われたのか、わからなかった

「なぜ私が狙われなければならないんだ」

納得がいかなかったが、狙われてしまったのではしょうがない
このお預かりした荷物の中に何か良からぬものが入っているのかもしれない
しかし、引っ越し屋としては引っ越し先に無事に荷物を届けなければ
プロとは呼べない

そうだ、俺はプロなんだ
この荷物だけは、なんとしても届けなければ

私はこの道のプロになって、まだ日は浅いが
丁寧な仕事ぶりで評判となり
仕事の依頼も増えてきた
ここで何かことを仕損じてしまえば
積み上げてきた苦労が水泡と化してまう

考えるんだ
何を間違ったのか

指定された時刻通りにお宅へうかがった
うん、間違いない

運び出す荷物を依頼人さんと確認した
うん、間違いなく確認した

荷物それぞれにきちんと傷がつかないように梱包をした
うん、間違いなく一つ一つ丁寧にやった

運び出しと荷積みは慎重に行った
うん、間違いない
ここは大事だ慎重には慎重を重ねた

トイレをお借りしたが、水は流した
間違いなく、きちんと流した

そして出発

出発予定時間より5分オーバーしていたため
少し焦りはしていたが、オーバーした分は運転でなんとか取り戻せる
ここは大丈夫だ、今そのつもりで車を走らせている

「なにが、なにがいけなかったんだ」

後ろから、車がどんどんと追いついてくる
さっき、信号待ちで追いつかれたのがまずかった
隣に車を寄せられ、こちらの窓を叩いてきた
それを無視して必死に逃げてはいるが、もう限界かもしれない
追いかけてきた車はSUV
軽快な走りで、すぐ後ろに着いている
ハンドルを握る手は汗でびっしょりと濡れている
もうこれ以上の運転は無理だ
汗で手がすべってハンドルがうまく握れない
危険だ、事故を起こしそうだ
くそ、悔しいがこれでは無事に荷物をお届けできない
プロ失格だ

プップー

クラクションの音が鳴り響く

その合図で引っ越し屋はウィンカーを出し、路肩に車をとめた
後ろから追いかけてきた車も同じように停止した

車から人が降り、
コンコンコン、引っ越し屋の車の窓を叩く

引っ越し屋は、ゆっくりと少しずつ少しずつ車の窓を下げ、
そして窓の外へ顔を向けた

太陽の光が逆光となって顔がうまく見えない
引っ越し屋は両目を細め、ひさしを作るように額に手を当てた
見覚えが・・・
確かに見覚えのある顔が微笑み、こちらを見てる

「引っ越し屋さん、引っ越し屋さん、
先に出発してしまったんで、びっくりしましたよ。
新しい引っ越し先の住所、まだ教えてませんでしたよね」

そう言って依頼人は微笑みながら、
新しい住所の書かれたメモを渡してくれた

とんだ引っ越しのプロがいたもんだ
そう言って、引っ越し屋はメモを胸ポケットにしまった

それにしても、
私はこの荷物をどこに運ぼうとしていたのだろうか
そしてどこの誰に狙われていたのだろうか

やはり、この荷物には何か良からぬものが入っていて・・

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