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恩田陸の新作「スキマワラシ」は、ストーリーも舞台のアートもおもしろい!

恩田陸の新作「スキマワラシ」では、現代美術を楽しむ読み方もあり!
史上初・直木賞と本屋大賞を同時受賞した、恩田陸の「蜜蜂と遠雷」では音楽の描き方がすごかった。
今回の物語では、現代美術をのぞき見る。

花モダン (2)

小説やまんがを読んで、その世界に興味を持つことは多いのではないかと思う。

「蜜蜂と遠雷」は、音楽コンクールが舞台。出てくる曲をyoutubeで聴きながら読んだ。そういう人は多かったはず。
クラシックは詳しくないけど、もともと好き。それにプラスアルファのドキドキがあった。

物語世界の現代美術

「スキマワラシ」では、骨董と現代美術が交差する。
そこに幻のような少女「スキマワラシ」が登場するファンタジー小説だ。
「スキマワラシ」は「座敷童子」に似た、現実にはいないのに「見える」存在。

不思議な能力を持った弟と、骨董商の兄が登場する。兄弟は古いものなどを探しながら、あちこちを回る。やがて弟の能力に導かれるように、解体現場や取り壊し予定の建物を訪ねていく。
あるとき、ギャラリーに転用された古い家に入る。そこで展開されていたのが、花をモチーフとした現代美術。3人目の登場人物・醍醐覇南子(だいごはなこ)はその現代美術の制作者だ。
彼女はさっぱりとして元気で、魅力的だ。ドロドロとした取りつかれたようなアーティスト(映画に出てくるような・・・勝手なイメージでごめんなさい)ではない。

覇南子が出てくるのはもう物語の半ば。
それまで長い伏線(?)が張り巡らされている。一人語りを囲炉裏端で聞くような感じ。もっと現代的だけど。「うんうん」「へ~、おもしろいね」とうなずいていると、ここまで来る。
ちなみに462ページもあって、読みではある。

そこからあとは物語世界に一気に引っ張られる。
水中に引っ張りこまれてゴボゴボするみたいに。
息を止めて、一気読み。

物語は読んでいただくしかない。

見たくなる、体験したくなる

私はこの小説を読むと現代美術の入口に立つ、といった。
別に小説の中では、現代美術を紹介したり、解説したり一切していない。
そういう意味では「蜜蜂と遠雷」のほうが親切に解説されている。

ただ、舞台に出てくる現代美術が楽しいのだ。
見たくなるし、体験したくなる。

覇南子の花をモチーフにした作品。ドアと窓。
廃墟を利用した創作展示・・・。

私は昨年、友人に誘われて瀬戸内トリエンナーレに行った。
これがめちゃくちゃおもしろかった。すばらしかった・
いずれ詳しく書きたい。
廃屋を利用した展示もたくさんあった。これとか↓

廃屋ネオンs

海の近くでないと成立しない作品もあった。
波の音を大きな創作物の中で聴くとか。↓
ラッパの奥にある建造物の中で聴くのだ。

波の音を聞く (2)

そこでないと成立しない作品。インスタレーションってこういうことかと体で感じた。
展示空間を含めて作品とみなす手法のこと。
なるほど。

私は美術を専門に勉強したわけではないし、現代美術を好きになったのは最近だ。
夫が大学から好きで、出会ってから一緒に行くようになった。
たとえ夫が好きでも、ハードロックにはなじめなかった。でも現代美術は楽しくなっちゃったのだ。

だから息子は小さいときから連れて行った(つきあわせた)。そこで知ったのは、現代美術は子供向きだということ。
考えないで、見る、楽しむ、体験する。
そうじゃないものももちろん多いし、現代の問題を反映していたりもする。だが息子は小学校に入る前から、現代美術館や屋外展示を見ながら遊んでいた。

そんな楽しみ方を教えてくれる小説でもあった。

現代美術なんて興味ない人は、ストーリーに引き込まれる。
現代美術が好きなら、その舞台も興味深い。

新しい世界を旅する

もしかしたらこの小説を読んで、興味を持てたら、あなたの世界が一つ広がる。

自分の知らない世界に足を踏み入れるわくわく。ここのところ、あまり体験していない気がする。
この小説は久しぶりに思い出させてくれた。
旅に出た気持ち。

今までよりも、もっと旅に出たくなったけれど・・・
旅をした満足感も味わえた。



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