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読書人間📚『ゲイ短編小説集』大橋洋一監訳


『ゲイ短編小説集』大橋洋一監訳

本書で選ばれた作品が属した時代は19世紀末、1889年〜20世紀初頭、1936年。
オスカー・ワイルドが同性愛裁判(1895年)により有罪とされた時期と重なる。



▶︎『幸福な王子』 オスカー・ワイルド
童話です。子どもに読ませたいお話。
師弟関係の愛か、同志としての友情か? 私は後者の感覚で読みました。翻訳者の大橋洋一さんは前者と捉えています。


▶︎『ゲイブリエル-アーネスト』サキ(H.H.マンロー)
「同性愛パニック」の典型的な小説 と言います。
初めて、その言葉を知りました。「ゲイパニック」とも言うそう。


▶︎『プロシア士官』 D.H.ロレンス
老人が、若者をこれでもかと虐める醜悪さは、好きだから傷つけるというお子さま的思考の性愛物語。舞台はプロシア。ロレンスは敵国、ドイツ軍隊への同性愛嫌悪(ホモフォビア)を隠さず描いています。ですが、これほど痛ぶるのは愛ではなく快楽。同性愛に嫌悪するのではなく、鬱屈した欲望が私は醜いと感じます。ナチス・ドイツ、同性愛者の惨殺行為、ホロコーストを思えば、許さない意思を表すロレンスの社会派作品と言えます。


▶︎『W・H氏の肖像』オスカー・ワイルド
ワイルドはシェイクスピアの『ソネット集』にはことさら愛着があったと言います。本作は発表後、4年にかけて加筆し、倍近い長さの中編小説にしましたが、その原稿はワイルド逮捕後の財産差し押さえに一度紛失します。


▶︎『ルイーズ』 サマセット・モーム
モームが本書に2作もあったので購入したようなもの。この作品のどこがゲイ小説かと言うと、モームは、実は女性嫌悪(ミソジニー)。それを考慮しても普段、私はモームの捻られた筋が好きで読んでいますが、ここに登場する主人公の女性を随分性悪に描いている事こそが同性愛者の感性に結びついた作品だと解説者は言います。


▶︎『まさかの時の友』 サマセット・モーム
思いやりのあるその雰囲気は表面上のもので、心はサディスト、若者の美しい肉体への嫉妬のお話。私は本作に同性愛要素を感じませんでしたが、解説者は暗号を破る作品だと言います。モーム自身、まだ同性愛的欲望を公然し表明する余地がなかったのでは?と。モームがミソジニーだと言うのも私にはあまり感じられません。それほど、文学としてナチュラルで、際立った悪臭は無いということです。



解説ではとても深く考察されています。
私としては単純に惚れた腫れたの、人間の性愛を読むだけに至りましたが、同性愛を文学の面から読み解く本書は金額もさることながら、ずっしり重みがありました。
『レズビアン短編小説集』もあります。


解説 大橋洋一
平凡社ライブラリー

カバー図版 ©︎Russell Bush "AFFECTIONATE MEN:A PHOTOGRAPHIC HISTORY OF A CENTURY OF MALE COUPLES(1850's to 1950's)"
ST. MARTIN'S PRESS.
カバー・マーブル制作=製本工房リーブル
装幀  中垣信夫

🌝声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都 
音楽療法(医療行為は行わない)の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。

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