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ツノスポーツコミッションとはなにか。

ここのところ、スポーツ庁主催のシンポジウムでの発表をはじめ、講演会での事例発表やトークセッションなどに声をかけていただく機会が増えました。また、ツノスポーツコミッションに所属するメンバー向けの研修会も行い、成り立ちから事業内容までを中心に、時間もかけてじっくりと伝える機会もありました。その際、これまでのツノスポーツコミッションの活動を振り返って整理する作業に時間を費やしてきました。これを機に、ツノスポーツコミッションとはいったい何なのか、私のnoteでもあらためて整理してみたいと思います。

ツノスポーツコミッションの成り立ち

ツノスポーツコミッションは、2018年のスポーツ産業検討委員会での協議を経て設立されました。スポーツによる地域活性化に取り組みたい都農町の意向をもとに町内団体を中心として構成された委員会で、1年間かけてその必要性や実行するための体制について協議を重ねてきたそうです。当時はまだ私は都農におりませんでしたので、あとから聞いたところではありますが、スポーツ産業検討委員会として出した結論は、どうしても縦割りでしか動かすことが難しくなってしまう行政に対して、そこに横軸を刺す形で取り組める団体・機能が必要だ、ということで、スポーツコミッションを設立することとなりました。

もう少しさかのぼって歴史を振り返ると、2010年の口蹄疫からの復興というストーリーが都農町にはありました。
口蹄疫とは牛や豚などの偶蹄類の間で感染するウイルス性の伝染病で、2010年、都農町に端を発した口蹄疫は宮崎県内全域で感染が広がりました。移動制限や消毒などでは追い付かず、感染拡大を防ぐためにおよそ30万頭近くの家畜を殺処分しなければならない事態となり、経済的にも精神的にも深刻な打撃を受けました。最初に発症が確認された都農町では、畜産関係者だけでなく、町民全体が暗く落ち込む日々が続いたそうです。
そんな中、いつまでも塞ぎ込んでいるのではなく、ボールでも蹴って楽しいことも始めていこう、と、地元の若者有志が立ち上がって始まったのが蹴-1GPというサッカーのPK大会でした。

これが年数を重ねる中で、徐々に盛り上がりを見せるようになり、全国にも広がり始めました。また、肉のグルメフェスタも同時開催されるなど、全国に向けて口蹄疫からの復興を力強くアピールすることにもつながっていきました。
こうした経験があったことで、都農町はスポーツによる地域活性化に対して力を注ごうという判断につなげることができたのだろうと思います。

また、もう1点重要なことは、スポーツ産業検討委員会の設置やツノスポーツコミッションの設立などを主導することになる宮城亮という人物との縁ができたことでしょう。総合型地域スポーツクラブのアドバイスのために九州管内を回っていた宮城が、都農町の総合型地域スポーツクラブに寄ったことがきっかけで、2016年ごろから蹴-1GPの運営に関わることになったそうです。その後、スポーツ合宿の誘致や障がい者スポーツへの取り組みなど、都農町が考える政策について相談する中で、町を上げてスポーツによる地域活性化について取り組んでいく道筋ができました。それがスポーツ産業委員会やツノスポーツコミッションへとつながっていきました。自治体の意向があっても、具現的に計画立案できる人物、計画を遂行できる人物がいなければ話は進みません。都農町ではそれがうまく重なったからこそツノスポーツコミッションが生まれたと言って間違いはないでしょう。

ツノスポーツコミッションが目指すもの

さて、2018年のスポーツ産業検討委員会での議論を経て設立されたツノスポーツコミッションですが、大きな方向性として当初このように掲げていました。

都農町は、東九州一のスポーツコンベンションシティになる。
・都農から、東九州から世界に発信
・スポーツをツールとした産業活性化を目指す

最近では、もう少し一般的にも伝わりやすいように、このように掲げるようにしています。

スポーツで人・事業・企業を呼び込み地域課題の解決を目指す

これまでに全国で170を超えるスポーツコミッションが設立されてきましたが、合宿誘致やイベント開催など、スポーツ観光、スポーツツーリズムの文脈上に設立されたものがほとんどだと思います。
ツノスポーツコミッションも同様にそういった点は踏まえながら、しかしそれだけにとどまらず、スポーツを手段・ツールとして活用した地方創生やまちづくり、そして人材育成を視野に入れてスタートを切りました。サッカー日本代表の森保一監督とその恩師でもある今西和男氏を迎えた設立記念講演会でも「スポーツを通じた人づくり・まちづくり」をテーマに、今後の都農町やツノスポーツコミッションが取り組むべき事業について語っていただきました。

多くの地方がそうであるように、都農町は少子高齢化や人口減少、特に10代後半から20代の若者の減少が大きな地域課題となっています。もう少し踏み込めば、地域産業の担い手不足・後継者不足、若者流出による地域活力の低減と表現しても差し支えないと思います。これは都会にいては体感することができないことかもしれませんが、地方はすでに切迫した状況です。
都農町は「農の都」の名が表す通り、農業が非常に盛んな町です。しかし、農家の高齢化が進み、後継ぎもいない農家も増えています。農業に限らず、町のあらゆる事業所が人材確保に頭を悩ませています。若者の減少が端を発する地域課題は本当に多くあります。

さきほどツノスポーツコミッションが目指すものとして、「スポーツで人・事業・企業を呼び込み地域課題の解決を目指す」と掲げていると記しましたが、都農町における地域課題の解決の一丁目一番地が若者を都農町に呼び込むこと若者が都農町に来る理由をつくることだったのです。そして、それを具体的に進めていくための象徴的な取り組みが、宮崎市を拠点として活動していたサッカークラブJ.FC MIYAZAKI(現在のヴェロスクロノス都農)の誘致およびツノスポーツアカデミーの創設でした。

つの職育プロジェクトとサッカークラブの誘致

サッカークラブの誘致にあたっては、都農町、J.FC MIYAZAKI、ツノスポーツコミッションの三者で「つの職育プロジェクト」に関する連携協定を締結しました。記者発表の際のリリースにその概要がまとめられています。

都農町と株式会社J.FC 宮崎、一般社団法人ツノスポーツコミッションの三者がそれぞれの資源や機能などの活用を図りながら、都農町への移住・定住を促し、都農町の農業・商業・工業・福祉等、労働力が不足しているあらゆる分野における町内事業所等での職場体験を通し、自分に適する職業を見つけた若者が町の新しい活力になっていくことを目指します。
株式会社J.FC 宮崎が運営するサッカークラブ J.FC MIYAZAKI の拠点を都農町へ移転することでトップチームの選手およびアカデミー(高校生年代)の選手に移住してもらい、スポーツ選手として活動しながら、都農町の様々な職業を体験し、将来の自分に本当にあった職業スキルを身に付けることで、引退後も継続して都農町での定住を促します。

つの職育プロジェクトに関する協定締結事業発表会リリース

あくまで大きな枠組みとしてのプロジェクト概要であって、実際にはそこからより個別具体的な事業を展開しているため、この文章だけではプロジェクトの全体像を理解するのは難しいだろうと思います。しかし、協定締結の際の記者会見での河野正和町長と当時ツノスポーツコミッションの代表を務めていた宮城亮のコメントを見ていただくと、その方向性はイメージしていただけるかと思います。

都農町ではJ.FC MIYAZAKI様に試合会場を提供するなどの応援してきたわけですが、そのお付き合いをする中からいろいろな話し合いができるようになりました。お互いの課題、不安を解決するような力を合わせた取り組みができないかというようなことを議論をしてきたわけですが、この「つの職育プロジェクト」をシステムとして押し上げることができることになり大変うれしく思っているところでございます。お互いの弱みを強みに変えていこうという画期的な取り組みだと思います。
また、このような取り組みが成功すれば、全国の似たような「地方」と呼ばれる人口減少に苦しむ自治体に、一筋の明かりになりうるのではないかと大いに期待しているところであります。
夢を追いかける若い人たちの支援ができるということはとてもうれしく思いますし、そのことが町の活力につながっていくと確信しています。この取り組みがJ.FC宮崎様と始まることによって、高齢者の皆さん、定年退職した後、人生100年と言われる時代に、心配している皆様方にも明かりを示すことができる取り組みになるのではないかと期待しているところです。
一般社団法人ツノスポーツコミッションの皆様には、都農町にこのような組織を作っていただき、さっそくこのような大きな取り組みを間を取り持っていただけることをうれしく思いますし、感謝申し上げたいと思います。

2019/8/7 つの職育プロジェクトに関する連携協定締結記者会見
都農町長 河野正和 コメント

都農町は人口減少とともに若い労働力が減ってきているという現状があります。都農町は農の都というように農業が盛んであったり、最近ではふるさと納税では全国上位になるくらい栄えてきてはいますが、急激に仕事が大きくなったりすると若い働き手が必要になったり、高齢化が進むにつれて支える側の若い世代が必要ではないかという中で、何か策はないかということを考えてきました。
一方、J.FC MIYAZAKIでは宮崎県からJリーグを目指し、若い選手たちが夢を追っていますが、環境を聞けば朝練習をした後、それぞれバラバラに仕事に行き夜まで働いており、練習会場も転々としている状況でした。
そうであれば、選手たちみんなに都農町に来てもらうことで、若い選手たちが都農町で過ごし、練習や試合をすることで、都農町としては活気が出ますし、選手たちにとっては整った環境の中でサッカーができ、都農町で安定した仕事があれば、仕事までの移動時間の短縮などの面も含め、自分たちの好きな夢に集中して向かえる環境をつくることは大事なのではないかと考えました。また、選手を引退した後のセカンドキャリアの面でも、選手の間に様々な職業経験を積むことで、セカンドキャリアに生かすことができるのではないかと思います。さらに、サッカーをしながら仕事をすることで、選手ならではの目線で商品開発ができたり、選手の地元での商売につながったり、サッカーを支える側の仕事についたり、と新たなアイデアや魅力の発信につながるのではないかと考えています。
ツノスポーツコミッションとしては、観光やイベント等による交流人口の増加ももちろんですが、それらを行うことで産業活性化、事業・企業誘致を行い、移住者の人口を確保していこうと考えています。この「つの職育プロジェクト」を通して、海外、他県から都農町に移り住んで参りますので、労働力確保や交流人口増加など町のいろんな課題に対して取り組んでいきたいと思います。今後はアカデミーの子どもたちも含めて、スポーツを通して都農町に若い世代を呼び込んできたいと思っております。また、リーグ戦や各種大会等で県外にも行きますので、その際には町のPRもできればと考えております。

2019/8/7 つの職育プロジェクトに関する連携協定締結記者会見
一般社団法人ツノスポーツコミッション 代表理事 宮城亮 コメント

ツノスポーツアカデミーの設立

つの職育プロジェクトにも付随しますが、もう一つの核となるプロジェクトがツノスポーツアカデミーの設立でした。
当時、都農町内唯一の高校、都農高校が2020年度で閉校することが決まっており、町内の高校生は全員町外の高校へ行くこととなります。また、近隣から都農高校へ通っていた高校生もいなくなります。これにより、高校生がもたらす活気がなくなることはもちろん、都農高校の生徒が担っていた地域事業者でのアルバイトも募集が難しくなっていくという、事業者が直面する悩みもありました。そこで、新たに学校をつくるようなイメージで、スポーツを使って高校生を都農町に集めるため、ツノスポーツアカデミーの構想を練りました。
ツノスポーツアカデミーでは、「よき社会人であれ」というコンセプトのもと、「スポーツ」「生活」「教育」「職育」の4つの柱を中心に少年期から青年期までの若者を育てる、地域(都農町)を巻き込んだ独自のプロジェクトとし、具体的には、次のような考え方で運営することとしました。

1.スポーツ

プロコーチの指導や質の高いトレーニング環境を提供することで、真剣にスポーツに向き合い、個々の夢や目標に向かって取り組みます。またスポーツの専門性をもって都農から世界に触れる機会をつくり、可能性の幅を広げます。

2.生活

都農町の支援を受けて運営する選手寮で、夢に向かってチャレンジする仲間と集団生活することで互いに切磋琢磨し、チームワークや社会性を育みます。また、トレーニングジムやトレーナールーム、アスリート向けの食事提供など、発育発達に合わせた身体づくりに適した環境を提供します。

3.教育

通信制高校との提携により、個々の能力に合った学習支援を行います。また、決められた学校教育だけでなく、目標に向けて自分が学びたいことを学べるようにサポートし、自発的な学習、自ら学ぶ力の習得を促します。

4.職育

地域の事業者との連携により、様々な職業を経験することで、自分自身の新たな可能性の発見やスキルの習得、職業観や金銭感覚を養います。また、スポーツでの目標達成だけでなく、様々な職業人と接することで、キャリア設計、人生設計の準備を行います。

これらを実現するため、まずは誘致が決まったJ.FC MIYAZAKI(現ヴェロスクロノス都農)の下部組織との連携によるアカデミー設立を目指しました。Jリーグを目指すクラブは下部組織の整備が必要不可欠です。当時、J.FC MIYAZAKIはU-18(高校生年代のチーム)と小学生向けのスクールはありましたが、U-15(中学生年代のチーム)はなく、U-18もさほどうまく運営されている様子ではありませんでした。そこで、都農町に移転するタイミングでツノスポーツアカデミーとして、上記の考え方へ移行、新たにU-15チームの創設も含め、大幅に変革していくことになりました。(現在はまだサッカーだけですが、いずれは他の種目や女子チーム、障がい者スポーツなどへの横展開も考えています。)

先に示したように、ツノスポーツアカデミーは、一人のスポーツ選手である前によき社会人として、地域社会の模範となり、地域を引っ張っていく人材を育てよう、というプロジェクトです。そのために、スポーツだけではなく、生活、教育、職育といった様々な角度からアプローチし、総合的に人材育成に取り組んでいきます。さらに言えば、ただ単にアカデミーに所属する若者を育てるだけでなく、若者にとってチャレンジしやすいまちづくりを目指すものでもあるのです。

地域おこし協力隊の活用

ツノスポーツコミッションが地域課題の解決に向けて取り組むのに対し、行政としての都農町は、つの職育プロジェクトに関する連携協定に基づいた支援を行っています。一言で支援と言っても様々ありますが、都農町が行うのは金銭的支援ではありません。環境整備や仕組みづくり、制度の活用といった支援が中心です。

たとえば、ツノスポーツコミッションが主にアカデミー向けに管理・運営している寮(都農町の名所、矢研の滝から拝借して「矢研寮」といいます)は、高齢者入居施設として作られたままほとんど使われていなかった施設を町がいったん買い取り、ツノスポーツコミッションに貸すという形を取っています。また、都農町の公共施設である藤見公園と、閉校となった都農高校の施設もアカデミーの子どもたちの練習場として使用させてもらっています。ほかにも、都農町から受託する事業もあります。
このように様々な形で都農町からの支援を受けているのですが、中でも特徴的なのは、総務省が設計した地域おこし協力隊という制度を大いに活用しているところかもしれません。

参考までに総務省のホームページの地域おこし協力隊に関するページを載せておきます。興味がある方はご覧ください。

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。

総務省ホームページ

簡単に言うと、都会から地方へ移り住んで活躍してください、という趣旨で、具体的な活動や条件は自治体に任せられていますが、それにかかる経費を規定の範囲内で総務省が財政措置します、というものです。(誤解があるといけないので正確に知りたい方は総務省ホームページを読んでください。)

都農町では、2019年、ツノスポーツコミッションをスタートさせるタイミングでこの制度を使うことになりました。これにより河野佑介と私の2名が、個人委託という形で都農町と直接委託契約を結び、地域おこし協力隊の活動としてスポーツによる地域活性化に取り組むことになりました。
こうして、この計画を主導してきた宮城に、河野、私の2名を加えた3名が中心となって、ツノスポーツコミッションの立ち上げ、運営、つの職育プロジェクトやツノスポーツアカデミーの設立を進めてきました。

2020年になると、いよいよサッカークラブを都農町に誘致し、本格的につの職育プロジェクトやツノスポーツアカデミーが始動することになります。これに合わせて都農町がさらに大胆に地域おこし協力隊の制度を活用するように準備をしてくれました。ツノスポーツコミッションがつの職育プロジェクトにかかる地域おこし協力隊を団体委託という形で20名規模で受け入れて、事業を企画、管理、運営していくというものです。
具体的な活動範囲は以下のように設定されています。

  1. 移住・定住対策に関すること

  2. 労働力対策及び人材育成に関すること

  3. 魅力創出及び情報発信に関すること

  4. その他町長が必要と認めた活動

具体的な活動の紹介は別の場に譲るとして、これを実行していくために受け入れる隊員の役割を大きく3つに分類して設定しました。

  1. つの職育プロジェクトの事業企画スタッフ

  2. つの職育プロジェクトの実働メンバー

  3. ツノスポーツアカデミーの育成スタッフ

1.つの職育プロジェクトの事業企画スタッフ

事業企画スタッフは、地域の課題をもとに抽象的な活動範囲の中で、自分たちが持つ資源や外部の資源を活用しながら、仮説、検証を繰り返して事業を組み立てていく役割を担うとともに、実働メンバーの管理を行っていきます。地域の課題や他の地域での事例などの情報収集はもちろん、企画提案から外部との折衝、内部調整、仕組みづくりなど、業務の幅が多岐にわたります。もちろん決められた事務もきちんとこなす必要があります。このように事業企画スタッフの担う役割は非常に重要で、漠然としたイメージを具体的な形に落とし込んでは修正するという繰り返しなので、不安定性、不確実性の高い難しい業務とも言えます。ツノスポーツコミッションにおいては、事業企画スタッフの成長が著しく、今の形で事業を進められているのは彼らの成果と言ってもいいと思います。

2.つの職育プロジェクトの実働メンバー

実働メンバーは、事業企画スタッフの管理のもとで具体的に事業を実行していきます。詳しくは書きませんが、農業支援事業や空き家対策事業、PR事業等を展開しています。都農町が地域おこし協力隊の制度を活用するうえで最も特徴的なのは、この2番の実働メンバーの多くを、誘致したサッカークラブでプレーする選手が担っていることでしょうか。午前中はサッカー選手としてトレーニングに励み、午後から協力隊の活動として地域課題の解決に向けて具体的な事業にあたっています。制度上、午後の地域課題解決の部分が活動範囲であって、午前中のサッカーは活動範囲外、つまりプライベートな時間に行う活動(クラブから選手としての報酬が発生する選手もいると思いますが、副業可能な制度ですのでそれも問題ありません。)として区分されます。この捉え方が非常に難しいのですが、彼らはプライベートに区分されるサッカー選手としての活動において、地域に対して非常に大きな価値を持っています。それは若者が目標に向かって熱量を持って取り組む姿勢から生まれる地域活力や、選手としてのキャリアに付随する発信力です。一方で協力隊の活動範囲においては、専門性が高いというわけではありません。むしろ、一般社会での経験が浅いメンバーも多いので、活動内容によっては不向きである場合もあります。ただし、その役割上、地域の方々との接点が非常に多くなるのですが、そこで発揮するコミュニケーション能力や、協力隊としての活動だけでなくサッカー選手としての姿も知ってもらえることで、活動にもサッカーに興味を持ってもらえ、どちらも応援する、支援する、一緒に地域の課題解決に取り組む、という動きになってくるのです。サッカー選手だけでは、あるいは協力隊としての活動だけでは生まれなかった非常に大きな相乗効果が生まれます。これは、スポーツがコミュニケーションやコミュニティ形成のツールとして機能し、地域活性化に寄与することを示しています。

3.ツノスポーツアカデミーの育成スタッフ

育成スタッフは、一般的なスポーツクラブの指導者とは異なります。先にも記しましたが、ツノスポーツアカデミーは「よき社会人であれ」をコンセプトに、「スポーツ」「生活」「教育」「職育」の4つの柱で若者を育てる取り組みです。ですので、スポーツの専門性が高いことは大前提として持ちながら、寮生活におけるサポート、個人の目標に向けた教育のサポート、キャリア設計や人生設計につながる職育のサポート、といった多面的なアプローチが必要となります。Jリーグのクラブで育成年代のコーチや管理者の仕事を経験してきた人、海外のクラブで指導しながらライセンスを取得した人、教員として仕事をしてきた人、福祉関係の職に就いていた人、長く現役のサッカー選手としてプレーしてきた人、地域クラブの運営や審判など裏方業務に携わってきた人、営業職を経験してきた人など、様々な分野からスタッフが集まりました。このようなスタッフが毎日一人ひとりと向き合いながら、成長するきっかけを与え続けていきます。
また、職育や教育活動などで地域の大人あるいは自分たちよりも年下の子どもたちと関わりますが、家庭でも、学校でも、チームのメンバーでもない、まったくの第三者とかかわる機会は若者の成長において非常に貴重な刺激となります。この機会をコーディネートするのも育成スタッフの重要な役割となっています。
このように子どもたちに「よき社会人」を目指す機会を提供し続けるのですが、その前にまずは自分が「よき社会人」でなければならないという、誠実さと謙虚さとひたむきさが十二分に求められる仕事です。

これから

ここまで、ツノスポーツコミッションの成り立ちや背景、考え方を中心に現在の状況をしたためてきました。具体的な事業内容はここでは触れていませんが、ここまで読んでいただいた方は、もしかするとツノスポーツコミッションの現状がものすごくうまくいっているように感じられたかもしれません。ところが現実は、常に仮説と検証、言い換えれば失敗を繰り返しています。
事例発表をしたり、対外的に説明したりする際には、現状うまくいっていることからさかのぼって整理したものを資料に落とし込んだり話をしたりしていますので、それだけ見るときれいな川のようにスムーズに流れているように見えるものです。ですが現実を見てみれば、むしろうまくいかなかったことの方が多いくらいですし、今も試行錯誤しながらなんとか前に進めていることばかりです。企画しても実現しなかったもの、実現したけれど単発で終わってしまったもの、効果が見込めずやめたもの、誰かにとって不快な思いをさせてしまって中止したもの、そういったいくつもの失敗が積み重なっています。同時に、意外な形で意図しなかった効果が生まれることもあります。後付けとまでは言いませんが、大まかな方向性の中で、最終的に辻褄があったことはきれいに表現されるものです。得てしてそういうものだと思いますし、それでいいと思っています。大事なのは、誠実に、謙虚に、ひたむきに事にあたることと、その結果を受け入れて次につなげることだと考えています。これは今西和男さんからの教えでもあります。

サッカークラブの誘致やツノスポーツアカデミーの設立によって、多くの若者たちがスポーツを目的に都農町へやってくるための仕組みを作りは成功したと言っていいかもしれません。ですが、まだ第一段階を終えただけです。今取り組んでいる第二段階では、この仕組みを充実させていくととともに、彼らが都農町に来たことに付随して生み出される効果を発揮していかなければなりません。その点ではまだ何も成し得ていないのです。それが成果として表れる、あるいは効果がなかったとわかるのは、もうしばらく先の話になると思います。ただ、だからと言ってのんびりやるつもりもありません。できる限りのことをできる限りのペースでやっていきます。人材育成、移住定住対策、労働力対策の3つのテーマで仕組みづくりにチャレンジしていきたいと思っています。住民、行政、事業者等、それぞれの資源やアイデアを持ち寄って取り組めば、きっと地域にとっていい影響が出てくるだろうと信じています。

さいごに

ここ半年ほどの間に、ツノスポーツコミッションの取り組みが全国的に注目していただけるようになりました。象徴的な出来事はスポーツ庁主催のシンポジウムに呼んでいただいて、事例発表およびパネルディスカッションに登壇したことですが、これは私が地域スポーツ協力隊ネットワーク(LSN)に参加したことがきっかけでした。そこから、日本スポーツ・ツーリズム推進機構、スポーツ庁につながり、都農町での視察を経てシンポジウム登壇へとつながりました。さらに、このシンポジウムに参加したことで、農水省、総務省、非常に共感性の高い民間事業者とも深く話ができるようになりました。これまで地域の中でコツコツと動いてきましたが、そこで収まっていては広がらなかった視点、情報、関係を得ることができました。ありがとうございました。

私たちツノスポーツコミッションは、都農町への視察受入や活動事例紹介、講演、研修会などには大変前向きです。また、次世代の育成や地域でスポーツによるまちづくりを実践していく人たちを増やしていくことついても非常に高い関心を持っています。
自治体や各地域の地域おこし協力隊、スポーツによる地方創生やまちづくりに興味をお持ちの方や団体がいらっしゃいましたらぜひお声かけください。大学や専門学校などの教育機関、具体的に実践する人材を育成したい団体等とも相性が良いのではないかと考えています。
何かのきっかけで、思わぬ形で連携できたり協働できたりすることがきっとあると思います。直接的ではないにしても、お互いの求めるものに適した関係者を紹介し合うこともできるかもしれません。違う地域でも同じ方向性で取り組むこと同士がかけ合わさると、また新たなコミュニティが生まれて、その中で循環していくものもあると思います。
ある意味で地域に縛られる活動だからこそ地域を越えたネットワークが必要ですし、スポーツと名がつく組織だからこそスポーツ以外の組織とのネットワークが必要となります。

また、この記事ではよその地域の方に向けたメッセージが強めになっていますが、都農町内や都農町近隣でツノスポーツコミッションの取り組みに興味関心を持っていただいている方もまだまだいらっしゃるのではないかと思っています。遠慮無用ですのでお気軽にご連絡ください。せっかくなら創り上げている今の段階から、ぜひ一緒に地域の課題解決に向けて取り組んでいきましょう。

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長文にもかかわらず最後までお読みいただいた皆さま、どうもありがとうございました。



【おまけ(内容別過去記事まとめマガジン)】


自分の真意を相手にベラベラと伝えるだけが友情の行為ではないということさ。それがわたしの提唱する真・友情パワーだ…(キン肉アタル)