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ハウ・トゥ・サバイブ ベルリン移民に聞く ジャスィとアスィール(パレスチナ) -4 「ドラッグを用いた占領政策」

・報道されないドラッグを用いたパレスチナ占領政策

E: そうだったんだね。
その君を逮捕した警察はイスラエル人かい?

A: ううん、パレスチナ人。

E: すごく保守的な人がパレスチナでは警官になるの?

J: イスラエルの警察にはいろんな部署があるんだけど、そのうちの一つがパレスチナの警察なの。
Aseelがベルリンから戻ってきた後、最初に逮捕された時、パレスチナの警察は高校生や大学生に対して大規模なドラッグ掃討作戦をやっていて、いっぱい逮捕されたの。
釈放されるには、テーブルの上でも下でも沢山お金を払うしかなかった。
もしくはたまたま上層部と知り合いか。

それ以外の方法はないのね。

A: 父は私のために沢山の保釈金を払ったの。

J: 殆どの人にはそんなお金もなければ上層部とのコネもなかった。
それでも釈放される方法は、ドラッグをやっている仲間を密告すること。
みんな12時間とか20時間とか取り調べ受けて…

A: 私は52時間取り調べされたよ!

J: 取り調べ中に虐待もあって、誰かがAseelの名前を出したの。
その「自白」で名前が挙がって逮捕された人は「特別枠」になって、大金を積むか、トップとコネがなければ出てこられないんだけど、もちろんその罰金は警察の収益になる。
パレスチナの警察部門の人は多くが難民だったり田舎の人だったりで元々お金がない上に保守的なんだよね。
要はパレスチナ人にパレスチナ人を弱体化させて、支配するスキームが出来上がっちゃってるの。

A: 私の卒業論文は「イスラエルがパレスチナ警察とドラッグを利用して如何にパレスチナ人をコントロールしているか、そして如何に抵抗するか」だったのよ。

E: つまり、イスラエルはパレスチナ警察をコントロールしていて、パレスチナにドラッグも供給していて、パレスチナ警察はパレスチナ人を痛めつけてるってこと?

J: その通り。

E:それはめっちゃ酷いな。

J: でもそれは占領政策の一つの要素でしかないよ。

E: パレスチナではどういうドラッグが普及してるの?

J: パレスチナでは元々ハシシ(大麻樹脂)が普及してた。
マリファナも次第に普及するようになったのと同じくらいの時期にハイドロも広がっていった。

E: ハイドロってハイドロカルチャー(水耕栽培)のこと?

J: とにかくケミカルなものよ、ラボで作るの。
元々イスラエルの薬局でも合法的に売られてたものなんだけど、研究が進むにつれてこれは凄く体に悪いことがわかってきたので違法になったの。
犯罪化されたの。
違法になったらイスラエルの薬局からは姿を消したのに、急にパレスチナで大量に出回るようになったの。

A: ハイドロは見た目はマリファナみたいな葉っぱなんだけど、大麻じゃない。
何かの葉っぱにケミカルなものがスプレーしてあって、効果はマリファナとは違う。
2008年ごろにアメリカとかで人気になって、スパイスとかナイスガイとか色んな名前のがあって、とにかく凄く体に悪いやつ。


どうやら日本で脱法ハーブと呼ばれていたもののことのようだ。

A: ただでさえ体に悪いんだけど、イスラエルは私たちにフィットするよう、有害性を強めたハイドロがパレスチナでは出回ってる。

E: でもそれは今でも人気なの?

A:  大量に消費されてるよ。
だってマリファナやハシシは凄く高いもん。
ベルリンよりも高い。
1グラム15から20ユーロくらい?
だけどハイドロは5グラムで7、8ユーロ。
ヤバイでしょ、この値段の違い。
草の10分の1とかよ。

E:  ハイドロが凄く体に悪いって日本語の記事をいくつか読んだことあるよ。

A:  もちろんよ!
クソ体に悪いって研究はいくつもある。
これはさっき言ってた私の卒論でも書いたことなんだけど、エルサレムは世界で一番ヤク中率の高い街なの。
で、そのエルサレムで最も消費されてるネタがハイドロなのよ。

東エルサレムには150万人のパレスチナ人が住んでいて、ウェストバンク(ヨルダン川西岸地区)には350万人のパレスチナ人が住んでるんだけど、エルサレムだけでウェストバンクの2倍のヤク中がいる。
エルサレムだけでよ、たった一つの街だけで。

E:エルサレムに住んでるイスラエル人も含めて?

A:(あぁ知らないのかという表情を浮かべた後に)パレスチナ人には居住地や国籍(パレスチナ国籍かイスラエル国籍かその両方か)で主に5つのカテゴリーがあって、一つはウェストバンクのパレスチナ人。私たちはウェストバンク出身。 
で、1948年のパレスチナ人。(1948年のアラブ・イスラエル戦争後にイスラエルが建国されてからも、それまでの土地に残ったパレスチナ人のこと)
Jassiも1948でイスラエルのパスポートも持ってる。
パレスチナ人のうちの300万人はイスラエルのパスポートも持ってるのね。
もう一つがガザで、200万の人がハマスのもとで暮らしている。
そしてもう一つが東エルサレム。そしてパレスチナを離れて外国に住んでるディアスポラよ。


・パレスチナのアンダーグラウンド音楽シーン

Sama' Abdulhadi | Boiler Room Palestine


E: パレスチナではテクノパーティとかは合法なの?

J: コロナがあるから違法よ。
冗談冗談、コロナ前は合法だった。
音楽は24時まで。

A: 24時以降は家でのパーティになるんだけど、常に警察が来る可能性がある。
Boiler Roomは知ってる?

E: うん。

A: Boiler Roomがパレスチナに来たんだけど、それがBoiler Roomの歴史上、最も視聴された回なのよ。
みんなパレスチナ人がどうやってパーティしてるのか知りたかったのよ。
ちょっと見てみる?

記事の公開前の2020年12月26日にパレスチナのモスクで警察の許可を取った上で開催されたテクノパーティを保守的なパレスチナ人が問題視し、主催者等が逮捕される事件がありました。2018年のパレスチナでのBoiler Roomの動画に映っている人の中には殺害予告を受けている人もいて、非常に緊迫したタイミングなのでほとぼりが冷めるまでBoiler Roomの動画は載せないでほしいとの依頼があったため削除しました。


E: このFrom Ramallah To Jerusalem and Backに爆撃された街みたいなが出てくるけど、ラマッラーは爆撃されてるの?

A: 17年前のラマッラーが爆撃された時の写真とか見たことない?
今も爆撃されてるのはガザよ。
ラマッラーはガザと比べれば一見だいぶ平和に見える。
でも経済的、政治的に、ガザとは違う形で爆撃されてる。

E: 例えば?

A: 例えばドラッグで。

J: 例えばイスラエル軍が路上にいるとか、(ラマッラーのある)ウェストバンクでは。
イスラエル軍はパレスチナに定期的に入ってくるんだけど、時にはパレスチナの中にイスラエル人の居住区を作ったり、時にはパレスチナの周りにイスラエル人しか使えない道路を作ったりする。
戦略的に重要な場所にね。
そうやってパレスチナ人の街や村を物理的に分断するの。

A: パレスチナとイスラエル人居住区にはボーダーがあって、実際、移動の自由はない。
なのでパレスチナの別の場所に行こうと思えば、イスラエルを取らないといけなくて、パスポート検査がある。
私が出ていいかも入っていいかも彼ら次第ってわけ。
イスラエルは経済や資源、水の供給もコントロールしている。
パレスチナにはかつてはシェケルという通貨があったんだけど、今は自分たちの通貨も持っていないの。
基本的にイスラエルは全てをコントロールしてる。
ガザみたいに爆弾が降ってきたりはしないけど…

J: 催涙ガスやゴム弾を持った軍隊がすぐに出てくる。


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Part.5に続く。


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