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これは犯罪ですか。

どうも。遺伝性のあわてん坊主、別名サザエさんです。
祖母→父→私→息子と、脈々と受け継がれているこのウッカリ血脈。
私の知り得るのはこの四世代ですが、私で二十代目となるこの寺の過去帳を見つめながら「一体どのご先祖がこの特性を引き継いで来られたのか?」と思いを巡らせます。

これまで数えきれない失敗&失態で周囲に迷惑をかけながら生きてきましたが、なんせ忘れっぽいので(!)その失敗さえすぐに忘れていく始末。
しかし迷惑を被った側の人間はいつまでも覚えているようで、家族や友人からもよく過去の失敗談をネタに冗談(たぶん)まじりに攻められます。
正直、だいぶ盛ってるよね?と思いながら、他人事のように聞いています。

かく言う私も他人の失敗はよく覚えているもので、今回何から書こうかな?と思ったとき真っ先に浮かんだのは、他人の失敗。
昔、仲間3人で出かけた旅の珍道中での出来事です。私もその場にいたので共犯は共犯なのですが。

あれはおそらく12年以上前だったはず。だから時効ということを前提に、よかったらお付き合いください。


鹿児島へのコンサート旅

私は普段、二胡という中国の民族楽器を弾く同い年の女性とペアで音楽活動をしている。女子十二楽坊なんかでも見かけられると思いますが、ホントに弦が2本しかない、バイオリンとも三味線とも違う、女性の歌声にも似たあの弦楽器。

彼女は、私が言うのも何ですが、うっかり界カーストの頂点に君臨している。(この場合、頂点なのか底辺なのか?)
私たちはとても仲良しで、彼女からは「あんたよりは私の方がマシ」と言われ、いやいやそのままそっくりお返ししますよ、と私も答えている。何百回と。もはや挨拶。

そんな私たちだけでは手に負えないようなコンサートの依頼があったとき、頼りにしている友人がいる。彼女は公務員兼ピアノ弾き。
公務員というのは基本副業禁止らしいので(今は違う?でも当時は確実に)、彼女にはいつも食べ物や何かしらのブツで御礼をしていた。

そんな感じでしか御礼ができないから、よっぽどの時しか依頼はしないが、
私たちの中では彼女が一番しっかりしているので、今回の旅は安心だと思っていた。
本人もそれは承知していて、
「電車の切符は私が3人分手配して用意しておくね」と自ら申し出てくれた。ありがたすぎて私たちは手を合わせた。「アンタたちに任せたら心配で寝れない」とも言っていた。

そして出発の日の朝がきた。駅にやってきたピアノ弾きは、

なんと、

左腕を包帯でぐるぐる巻きにし、三角巾で肩から吊っていた。

骨折したらしい。

ピアノ、弾ける?!

大丈夫なのか?怪我したのに何故来たのか、どこで何してそうなったのか???

そうこうしているうちに新幹線が来てしまい、私たちはアタフタと乗り込み、3列シートに座るなりぎゃあぎゃあと他の2人は問い詰めた。

しっかり者のピアノ弾きは私たちのため、切符を少しでも安くとろうと、わざわざ付き合いのある旅行代理店を通して予約をし取りに行ってくれたらしい。何か、割引があるとかで。(今はスマホアプリで取る方が簡単だし安いかもしれないが)

彼女の話はこうだった。

仕事が終わったあと、代理店が閉まる前に急いで車を運転して行った。しかもその日は雨が降っていた。若干渋滞もしていた。閉まってしまう!と慌てたせいなのか、雨で足元が滑ったのか、車を停めて出たところで、

何もないのに派手に転んでしまった。

とっさに、手をついてはいけない!指が!!と思った彼女は、腕からアスファルトについてしまい激痛が走った・・・。

それでも何とか切符をゲットしなければと痛みに耐えながら、店員さんに心配されつつ支払いをすませ、そのまま病院へ向かい骨折と診断された。それが出発の2日前。

友よ…、なーぜー、歯を食いしばり、君は行くのかそんな~にしてまで~♪
というフレーズが浮かんだ。

骨折までしたのに、来てくれるなんて!言ってよー!来れなくなったとしても、どうにかしたのに!迷惑かけるとか思わなくていいのに!
とワーワー言う私たちに向かって彼女は言った。

「だって!久しぶりに一緒に行きたかったんだもん!」

「・・・」

な、なんと!なんと可愛いことを言う!

「右手は守ったから問題ない。左手も指は動くから、普段どおりは無理でも体を傾ければ少しは弾ける。ベースラインを指1本で抑えるくらいなら!」

そうかそうか!ありがとう!いや、そう言ってくれるのなら私たちも救われる。でも決して無理はしないで。忙しいあなたに切符の手配までさせてしまった私たちを許して。荷物はお持ちします。ともに向かおうぞ、いざ薩摩の国へ!

今、ハタと気づいたのだが、当時はまだ鹿児島までは新幹線が開通していなかった。
調べてみると、九州新幹線・鹿児島ルートが全線開業したのは、2011年3月12日だそうだから、私たちの旅はそれよりも以前だったということになる。やはり最低でも12年以上前なのは間違いじゃなかった!あながち私の記憶にも正しいことはあるのだ。

話が少しそれたが、とにかく当時私たちは福岡から鹿児島へは在来線を使った。新幹線は偉大だ。その何年か後に再び伺った時はあっという間についたが、当時は結構時間がかかった。

その日はリハーサルをして1泊し、翌日が本番だった。
おかげさまでコンサートは滞りなく終わった。
私と二胡弾きの彼女は、本番前後は周囲が不安になるほどのウッカリやビックリを繰り広げるが、自分で言うのも何だが本番だけは別人のように落ち着いた演者となる。
それに加えて、腕を肩に吊り下げながらも素晴らしい演奏を繰り広げたピアニストのおかげもあり、私たちは身に余るほどの拍手喝采をいただき、ご機嫌のまま鹿児島をあとにした。

今回は骨折してしまったが、通常はしっかり界に生きているピアニストは、土日と重なるからと在来線も指定席をとってくれていた。割引も使えたから。(診療代がかかってしまったけれど)

お土産も買い、いざ在来線へ!!
指定席車両に乗り込み、切符の指定席番号を見て席へ向かった。

アレ?ん?

すでにどこぞの乗客が座っておられるぞよ?私たちの指定席に。

もう一度切符の指定席番号を確認する私。間違ってない。

うん、こういうことってたまにあるよね。空いてるからって座る人。
それか、単に番号間違えてるパターンね。

大丈夫、落ち着いて話しかけてみよう、

「あの~?」

と、私が一声出すか出さないかの瞬間、

ピアノ弾きが私の腕をひっぱった。右手で。

小さな声で、こっち来て、ちょっとこっち!と泣きそうな、でも半笑いのような顔で言う彼女。

何何なに?

私と二胡弾きは隣の車両との結束部分まで連れ出された。

「やってもた・・・。切符、日にち間違えとる・・・」

え!!まじで!?

切符をもう一度よく見ると、確かに日にちが翌日になっていた。
ああ。友よ・・・。

ごめんごめんごめん!謝る彼女。
だけど何だか笑えてきて、笑ってるうちに涙まで出てきた。
一番しっかりしてるアンタがしでかすとは!
いやいや、私たちでもここまではしたことない。
日にち間違えるとか!あははは!

いや~・・・。

で、どうするよ?
取り直すの?切符。車掌さんに言うの?もう動き出しちゃってるけど?

ヒソヒソ声を潜める私たち。すると、二胡奏者が言った。

「とりあえず、このまま自由席に座ってようよ」

顔を見合わせる私たち。
3人分の電車賃、バカにはならない。

もし、車掌さんに見つかった時には正直に謝って払いなおそう。車掌さんって、指定席は確認して回ることあるけどさ、自由席なら来ないかも。それにそもそも、さっき改札通れたよね。駅員さんも、日にちまでは見てなかったんだね、ふっつーに通してくれたもんね。

「けどさ、もしこれがキセルだ!犯罪だ!ってなったらさ、新聞に載っちゃうの公務員だよね!あと、僧侶もか!私は何でもないから平気だわ~」と、二胡弾きはのたまわった。

・・・とにかく、なんか、もう座ろうよ。一応私たちさっきまでコンサート頑張って疲れたし。自由席に座らせてもらおう。犯罪者になるかもしれないのに、おばちゃん初心者くらいの年齢だった私たちは、疲労にも、想定外の出費にも打ち勝てなかった。

いざ、自由席へ!!!

そして自由席は見事に混んでいた。ピアニストの予想通り、週末だったので混んでいた。それでもかろうじて奇跡的に残っていた空席の3席を見つけ出し、もちろんバラバラだったので離れて座った。

私は離れて座る2人の姿それぞれを未だにハッキリと覚えている。

ウッカリ者だが同時にドッシリと動じない心も持ち合わせている二胡の彼女は、座ると早々に眠ってしまっていた。すごい度胸だ。笑えた。

そして一方ピアニストは、、、笑えるほどの姿勢の良さで、背もたれにもたれることもなく、たまにチラッと周囲を警戒し、キョロキョロしていた。それが逆にあやしくて車掌さんに目を付けられるのではないかと心配するほどだった。笑えた。

そうして終点に着くまで、車掌さんが私たちに声をかけることはなかった。

私たちは無事、電車を降りた。

しかし!お気づきだろうか。
そう、これから改札を通らなくてはならないのだ。
入る時はラッキーなことにたまたま通れた。今度は乗り換えだ。
改札はもうすぐそこに迫っている。
どうしよう・・・となっているピアニストに二胡奏者は再び言った。

「見て!改札口何個もあるのに、駅員さん立ってるの1か所だけだよ!他のところはみんな、なんかそこの箱に切符入れて出て行ってる!」

確かに!しかも、人が多くてざわざわしてるし!

私たちは、私たち史上最大の犯罪を犯してしまったのかもしれない。
人ごみに紛れて、その波に流されるフリをして、駅員さんの立っていない改札の切符入れに翌日の日にちがしっかりと刻まれた切符を投入し、足早に出て行った。。。


今もその時の光景がアリアリと目に浮かぶ。
ピアニストは改札を通り抜けた後、なぜか横歩きでピョンピョンと飛び跳ねながら小走りしていた。地に足がついていない人を私は初めて見た。

だがしかし!よくよく考えてみれば!

次は新幹線。
自動改札を通るか、駅員さんに切符を見せるかの二択。。。

私たちの逃亡劇(別に逃亡してたわけぢゃない)も、もはやこれまで。

私たち3人は、ここまでの健闘をたたえ合い(!?)、駅員さんに打ち明けるべく、腹をくくった。

「ここは私が」と、先ほど公務員と僧侶の肩書をかわいそうにと嘲笑った二胡奏者が交渉をかって出てくれた。
傍らで私は、泣きそうになっている骨折までして日にち違いの切符を手に入れた公務員ピアニストを励ましていた。

ほどなくすると、駅員さんと話していた二胡奏者が満面の笑みで駆け寄ってきた。

「大丈夫だってー!切符、今日に変更してくれたよ!!」

え!な、なんと!!

「なんか普通に変更できたよ?手数料さえいらなかった!」

そ、そうなのー!?

ピアニストは安堵のあまり本当に泣いていた。大げさ!
泣き笑いだったけども!

後で調べてみたら、1回までなら無料で変更できるようだった。もちろん、指定席は空いていたらの場合に限るし、日にちももちろん変更できる期間は決まっているけれど。(ルールは変わることもあるだろうから気を付けて!)

そもそも、なぜ私たちは変更できるかなど、間違いに気づいたとき調べてみなかったのだろう。慌てすぎだ。ああでも、あのころはまだ、誰もスマホじゃなかったな・・・。グーグル先生がいたならば。。。

そして赤い目をしたピアニストは
「昨日の日にちと間違えてなかっただけ、よかった・・・私」
と、さめざめと呟いた。










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