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夏はぼやけて見えたままで

核を覆い閉じ込める無気力が大きく大きくなっていく
身を小さく寄せて、外側よりもちょっとあたたかい体温の流れを感じて生きていると安心したいのに、上回りたがっている気温にうんざりしてしまい、外側がどうでもよくなってしまった

以前は、いや数日前は、意味もなくウインドウショッピングするのも楽しかった
その名残で、惰性に身を任せて中古衣服を見てみた
興味が反応しなかった、ベラベラとハンガーを摺らしながら、音ばかりに意識が向かう

情を波に乗せた音楽を聴いたら、なりふり構わず涙が出てしまいそうで、ノンブラリを聴いていた
やさしい音楽は、たとえ温度計が故障していたとしても、ほのかに体温を上げてくれる

海が遊び人を押し返して静まった夜に、波打ち際をゆっくり見たくなってきた、睡眠用BGMの模倣では味わえないさざなみで、思い切り寝過ごしてみたくなってきた

でも、せっかく行くなら写真を撮りたいな
まだ一眼レフカメラ買えてないから、なぁ、と、また後回しにしようと頭が働いている

写真フォルダには、データ転送したフィルムの写真が、誰かに見せたり、SNSで共有したりしなかった、自分しかアクセスしないデータが残っている
極めて純粋な、自己顕示欲はあるのに、まるで自慢したいかのような自分を認められないから、“公開”ができないでいる

溜め息をこぼさない代わりに、ずっと胸の辺りに空洞があって、ピースが7個ぐらい足りてなかったジグソーパズルを必死にやっていたみたいなさみしさを連れて、ピースを探さないで、そんなちょっとおかしい出来事を当然である自然のものだと納得させて、さみしいな、と、少しだけ頭の片隅で考えていたりする、けれど、さみしがり屋だと思われたいわけでもないから、一人が得意で楽だってことにして、さほど距離感が近いわけでもない、けれど視界には入れても許される外側の誰かの発信を目にしたくて、ツイッターやインスタを開いたりする

この夏は、もう海水を触らないだろう、視界にも入らないだろう、ペーパードライバーなままだろう


メガネをかけていても焦点が合わないままで、ぼやけてしまった坂道を、ペダルを踏み込まずに自然の力だけでゆるやかに下りながら、生ぬるい風が気持ち悪いと思った

2022年も夏を過ごしてみて、また夏を得意になれなかった
思い思いに、各々が夏を満喫していたかのような写真を眺めて、ごめんねと口ずさんでから、薄いベージュの長袖シャツに袖を通した

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。