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平生とミルクフランス 1

太陽が高くに位置している時間に、執拗に照らしてくる窓ガラスと視点をずらすように、昼下がりの焦燥に駆られて自転車で駆けた。
勾配に負けそうな成長途上の馬力を時代の風のアシストが支えながら両輪がギュンギュンと回る。両足が踏み締めていたはずのコンクリートの触り心地を、サドルとハンドルを媒介物として繊細に感じながら、下り坂でペダルから足を外して向かい風と対になる。

駅の改札とロータリーには向かうべき対象を胸に秘めて歩く人々。日曜日であっても関係なく、女子高生は制服を着て改札前のベンチに腰掛けつつ、流行りものの共有に花が咲いている。向かいの個人経営の花屋は閑散しているが、人の気配を隠し通すほどの見世棚に、花が故の毒性が漂っている。ペダルを強く踏み締めて、歩行者を抜き去った。

駅から歩けば5分も必要になりそうな小道に自転車で2分で到達すれば、意識して通りかかったことがなければ見覚えもない商売が開店している。
この辺りは美容院が多いと聞いたことがあったが、予想以上に軒並み美容院で、クオリティでの差別化と客の獲得の前に、店の個性色と価格帯で足切りされてそうな店もある。佇まいがなんとなく匂わせている。

美容院激戦区の店前の看板のパーマの金額だけ比較しつつも、目的もなく平らな道を歩行者と同じスピードで進む。地面を足で蹴り飛ばしながら前に進む。

激戦区の区域から外れる寸前の建物の中に、美容院とは一線を画した、ビビッドなオレンジの壁で、メニューとこだわりのコーヒーの案内が貼られた木製の看板が通りに置かれたパン屋があった。

目的なく自転車で走っていたというのも、この突拍子のない出会いを心待ちにしていたのだ。行き帰りに利用し過ぎて、景色に新鮮さすら感じられない駅から遠ざかれば、何か見つかってくれるだろうと楽天的な考えで家を飛び出したのだから。

景色を眺めて反応待ちだったアンテナに信号が届く。自転車の鍵を抜く。かごに入れたバッグを取り出し、パンの匂いに引き寄せられて店に入る。再び窓ガラス越しに太陽に当たるも、あの昼よりも鋭角でこちらを照らしてくる。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。