夕立に誘われて風になった
窓に狭まれた奥の世界の変化に気付いて20分は、雨音しか聞こえてこなかった。水滴が地を打つ弾みは痛々しく聞こえてしまう。
夕立が降り止み、二輪車のタイヤとチェーンの音が部屋に到着する。滑りがいい道を駆け抜ける二輪が倒れてしまわないかとヒヤヒヤしている。
道路までは距離があって、高さの違いもあって、なんとか目で見られる距離だけど、それは窓から外を覗かないと気づかない。
部屋の椅子に腰掛けてパソコンに向かってはいるものの、音情報が何もかもを掌握している。
外の様子が気になり出してたまらないのだ。
すぐそこの道路は、通行量が多いわけでも傾斜があるわけでもないし、ハンドルを左右にぶんぶん振り回したりしない限りは何の問題もなく通り過ぎて消えていくはず。
雨の日は明らかに外に出る人が減る。曇りのち雨の天気予報を見ていれば、わざわざ自転車で出かけようとは思うまい。
信号の前でブレーキ音が響いているから余計に紛らわしい。赤に切り替わる寸前に焦ってブレーキをかけたら、部屋の中にいる人に緊張感が走るからやめてほしい。
パソコンのウインドウは見るのをやめて、窓の鍵を開けて顔を出す。
涼しい風が吹き抜ける。
暑さで逃げ場のない夕暮れ時に手助けアイテムが出てきた。
玄関を飛び出し、びしょびしょになった二輪をタオルで拭き取った。
17:42
夏の日の長さを利用して二輪を漕いだ。
「私は風になりたかった」
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。