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マラウイで作った粘土ホイッスルと、算数「体積」のモデリング教材

「粘土でホイッスル作り」で学び合い

自分の授業の空きコマに、知り合いの先生が「粘土でホイッスル作りを教えるからおいでよ」と誘ってくれたので、見学することにした。
粘土はもちろん、川から自分たちで集めたもの。(→『マラウイの図工の粘土はどこから来るの?教材屋さんがない国の粘土事情』

教員養成大学といえども、そう簡単にプリントを印刷して配れる環境ではないから、作り方の手順書のようなものが配られるわけではない。黒板に分かりやすく説明が書かれるわけでもない。実技ということもあり、大学の先生の経験とアイディアを伝えていく、いわゆる口伝スタイルだった。

先生が手本を見せながら、ものの数分でホイッスルの形を作った。学生の注目を集める中、息を吹き入れると、粘土のホイッスルから見事に高い音が鳴った。拍手喝采で一通り盛り上がった後、「さあ、やってみましょう」となった。

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形を整えた後、竹を小さく割いた棒で穴をほじっていく。先生と同じように作っているつもりでも、なかなか音が出ない。そんな中、教室の中で数人のホイッスルから音が鳴り始める。自然と、音が鳴った学生の所に他の学生が群がる。コツを聞かれ、得意げに話す学生。それを聞き逃すまいとする学生もいれば、音が鳴ったホイッスルを勝手にじろじろ観察し、自分のホイッスルを改良する学生もいた。最終的には、8割くらいの学生が、粘土から音を鳴らせた。

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学生たちは、在学中に1年間の教育実習に行く(2018年当時)。そこで使える知識・技能をここで学ばなければならない。音が鳴るホイッスル作りの技能は、身につけたいと強く思ったのだろう。

当然のことながら「学び合い」という教育用語はマラウイで普及しているわけではない。動機付けと目的がしっかりあれば「学び合い」なんて言葉がなくても、自然と始まるものなのだと知った。

◇ ◇ ◇

算数「体積」のモデリングで粘土活用

ホイッスル作りや土器づくりで見ていた、粘土の活用。そこからヒントを得て、算数で活用することになろうとは、思ってもいなかった。

2018年に始まったマラウイの教員養成課程の新カリキュラム。その算数科授業法の教科書の一番最初に載っていたのが「概念理解(Conceptual Understanding)」だった。マラウイの算数教育では、最重要とも言われている課題だ。

意味も分からず、公式にただ当てはめて、答えを出すのは、概念理解をしていないということになる。具体物などを使って(モデリング)、意味を理解しましょう、というもの。

例えば、体積の単元では、学生でも公式【縦×横×高さ】に機械的に当てはめて計算して、答えを求めて終わり。ちなみに、かけ算が苦手だからその答えも、間違いだらけなのだが。

意味を理解せず、機械的に計算をしているだけだと「1000㎤はどのくらいの大きさ?」と聞かれても、答えられなくなる。イメージをつかむためにも、具体物の操作というのは重要だ。日本ならば、1㎤の小さな積み木セットが教材としてあったり、パソコンソフトでブロックを操作させたりすることができる。

ここマラウイでは、教材は自分で作るしかない。
木材はあるが、小さなブロック状の木片を削りだすのは、それなりの道具がなければなかなか難しい。身近にある、形を加工しやすいもの。そこで、あの粘土を思いついた。粘土ならどこにでもある。長さが測れるものさしがあれば1㎤のブロックを作ることができるはず。試しに自分の部屋で作ってみた。きれいな立方体はできなかったが、多少いびつでもしょうがないだろう。大きさをそろえるのは想像以上に難しいのだ。

いざ、大学の授業に持っていこうとしたとき、気がついた。定規を持っている学生が少ないことに。長さはどう測ればよいのだ。今、自分が学生のグループ数分の定規を仕入れて用意すれば、大学の授業としては成り立つ。しかし、現場では、どうすればいいのだ。定規なんて高級品を、ほとんどの小学生は持っていないだろう。経済的に余裕がない学生たちが、児童への貸し出し用に、大量の定規を購入するなんてことはあり得ない。マラウイ目線で見ると、持続可能性ゼロだ。

マラウイではいつもそうだった。思いついたアイディアをすんなり使えるほど、甘くはない。無いものが多すぎるのだ。

そうだ、1㎝四方の紙片を作って配れば、定規代わりになる。ナイフと紙切れ、1本の定規さえあれば、現場でも実践可能だ。

文章にしてしまうと、数分のうちに思いついてしまいそうなアイディアだが、「定規がないどうしよう」から、「紙片を配ればいい」に至るまで、数日かかった。それほど、私の頭は「定規」というモノに固執して抜け出せなかったのだ。

その後、1㎝四方の紙片をたくさん用意して授業に臨んだ。グループごとに1㎤のブロックをたくさん作って、なんとか【5㎝×5㎝×5㎝=125㎤】の具体物でのモデリングができた。

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ものづくりの達成感は記憶保持にもきっと役立つだろう。学生たちは1㎤のいくつ分かが体積、という概念理解で学び直してくれただろうし、何かしらの形で現場で生かしてくれたら、と思う。

金型を作って大量生産を試みたものの…

さらに、演示用の少し大きめのブロック作成用に、金型を作ってみた。金型を一つ作れば、きれいなブロックが大量生産できるのでは、と考えたのだ。金属加工をしている廃材加工場から、金属の角パイプを見つけ、立方体ができるような長さにカットしてもらった。

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ところてんのように押し出すと、なかなかきれいな立方体が出てきた。ところが、粘土の粘性が強くて完全に乾くまで取り出せず、完成に時間がかかることから、実用化まではできなかった。

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