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「金継ぎと時間」漆でなおす、手間ひまをかける

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2023.11~12に鹿児島県にて行われた展示会「金継ぎと時間」のキャプションを公開します。 なぜ、伝統的な漆を使った器の修繕をし、時間や手間をかけるのか、について、金継ぎ師が7… もっと読む
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美しく直した器と暮らす

美しく直した器と暮らす

金継ぎはもともと、大名が拝領するような、高価な器を修繕するためのものでした。
たとえば江戸時代、長屋住まいの庶民は、金継ぎでなく、釉薬で割れ目を埋めて、再度低温で焼く、「焼継ぎ」という修繕方法が主だったようです。

なので、金継ぎは、漆芸の技術を持った、特に蒔絵師が副業で行っていたもので、「蒔絵」の技術を
施して、陶磁器を修繕します。

漆芸自体は、奈良時代頃、中国大陸から伝わった痕跡が残って

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使いながら時間を重ねる

使いながら時間を重ねる

金継ぎには、金だけでなく、銀や錫や漆など、いろいろな仕上げがあります。

中でも、銀仕上げは純銀を使うので、シルバーのアクセサリーと同じように、経年変化をします。
環境によって、黄色味がかったり、褐色になったり、黒ずんだり。
 ※銀丸粉は、シルバー磨きクロスを使って、ご自分で再び輝きを取り戻すことができます。
銀消し粉は、すぐにはがれてしまうので、クロスを使うことはできません。

器によっては

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直しながら使う営み

直しながら使う営み

私が金継ぎを始めた大きなきっかけは、「陶磁器は割れたら終わり、じゃないんだ!」という
驚きでした。
日々の暮らしにおいて、気にいっている器ほど、割れると悲しいから、食器棚の奥にしまい込む。
それが普通だと思っていた私には、希望の光に見えました。

昨年より開講している金継ぎ講座で、漆で器を修繕することができるようになった生徒さんたちが、
「好きな器を日常で使えるようになりました」とおっしゃいます

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直す人にとっての、心の養生

直す人にとっての、心の養生

これは、金継ぎや漆芸をする側からの見方になるのですが、本当に、心の養生であり、修行・
修養であり、冒険の旅でもあるな、と、日々思います。

「直す」という行為は、とても心地のいいものです。
過程の大変さとは別に、壊れて、存在意義を失ったものを、自分の手で直し、また命を吹き込む、
というのは、直し手にとっても、心の養生となります。

さらに、「漆で」なおす、と、そこに、ままならない相手、のような

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見立て―茶の湯の世界

見立て―茶の湯の世界

実は、金継ぎは、室町時代、茶の湯の文化が醸成されるのに伴って、発達しました。
私は茶道の心得はまったくないのですが、金継ぎの勉強のため、いくつかの本を読んだりしました。

どうやら、「茶会」というのは、トータルコーディネートの世界のようです。
たとえば、その日の茶会の趣旨が「北の地へ旅立つ友を送る茶会」だとしたら、掛け軸は、友情を描いた漢詩の一説、花は、別れを惜しむ意味を持つ花、花入れはかつて友

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世界でひとつ

世界でひとつ

修繕をしていて、形も年代も傷も、まったく同じ、というものは、これまでありません。

また、その直し手が、器や傷にどんな印象を持ち、どんな風に直すか、どんな線を描き、
どんなボリュームで塗り、仕上げの微細な調整はどうするのか。
直し手の違いによっても、まったく同じ修繕の器というのは、世界中にひとつも存在しません。

たとえばすぐに買い直せる規格品のマグカップが、傷を得て、それに修繕が加えられたこ

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大切にする

大切にする

漆を使って器を修繕すると、とても手間(=労力)+ひま(=時間)がかかります。
「最先端の技術で、魔法みたいに、一瞬で器をなおすことができたらいいのに」と、早ければ早いほど、より価値がある、とされるのが、現代社会の常識です。

でも、そんな世界に生きていながらも、人間は、ずっと昔から、人間です。
手間やひまをかける、ということは、合理性とは別の、何かに対して、「大切にする」という行為そのものだと感

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