見出し画像

ひとり親作文コンクール準優秀賞作品「子供から大人へ。」


幼い頃から、父を憎んで生きてきた。
私を、そして母を捨てた父を。

父とは20年近く会っていない。
気付けば家の中から消えていて、消えた事に慣れた頃、正式に離婚した。
それ以来、父とは一切会わずに暮らしてきた。

母は、離婚したのは父のせいだとずっと言い続けてきたので、私もそうなんだとずっと思っていた。父が勝手に私達を捨てて出ていったのだろうと。私達は被害者。そんなことさえ感じていた。

それでも小さい頃の父と遊んだ思い出が蘇り、ふと今どうしてるかな。会いたいな。と思うことはあった。私が大人になっていくにつれ、当然だが父も年を取る。いつまで生きていられるかわからない。生きてるうちに一度くらいは会いたい。
しかし20年も会っていない。今更、とゆう気持ちもある。お父さんは私達を捨てた。家族のことなんてどうでもいいんだ。もしかすると私の事を覚えてもいないかもしれない…。
会うことを想像しては、存在を否定されてしまうことが怖いくて会いに行けなかった。とっくに新しい家族もいるかもしれない。だとしたら益々会えない。どうしよう…。

そんな風に思い悩み、時間だけが過ぎていく日々が続いたある日。
SNSで一通のメッセージを受信した。
差出人は、まだ両親が離婚する前に仲の良かった私の従兄弟だった。彼とも20年近く会っていない。まさかのメッセージだ。
彼の話によると、父は今でも自分の実家で暮らしているとのこと。
たったひとりで。
そして、うつ病を患ってるとのことだった。
せめて新しい家庭を築いていたり、一緒に暮らしてる人がいるなら、私も救われたのに。父を悪者にして生きていけたのに。ひとりで、それもうつ病で苦しんでるなんて。
ずっと父を憎んでいた想いがこのとき、ふっとどこかに行った気がした。

勿論、離婚は子供にとって大きな傷を付けることになる。実際私は傷付き、それは大人になった今でも消すことのできない古傷として残っているのは事実だ。たまに、どうしてもその傷が荒れて痛むときもある。
しかしあれから私は大人になり、色んな恋愛をしたり、恋愛でなくとも沢山の人との出会いの中で、人それぞれの価値観の違いや、他人と一緒に暮らす難しさなども経験した。今だからわかることが沢山ある。もしかしたら離婚は父だけが悪かったのではなく、父と母、両方の問題で、きっとそれは仕方の無いことで。少なくとも、どちらが悪い、どちらが被害者ということではなかったのではないかと。母もまた、父を悪者にしなければ、たったひとりで父親役まで担うことができなかったのだろう。父も母も、一度は愛した人と別れたのだ。傷が付いていない筈がない。

現在私は、母が私を産んだ年齢になった。いいタイミングなのだと思う。この夏が終わった頃、父に会いに行こうと思う。
会うことで、子供の頃にできた古傷が、温かいものに変わるかはわからない。もしかしたらぶ厚いかさぶたを剥がしてしまうことになるかもしれない。それでも、その傷もまた、今よりもっと大人になったとき、いつかは癒えるのだろう。

今だからわかる、大人の事情。大人の気持ち。
20年振りに会う父は、どんな顔をするだろうか。あんなに怖がっていたはずなのに、今では会うのが楽しみで仕方ない。




----------------------------------------------------


この作品は、去年2019年の夏。

【ひとり親作文コンクール】という公募で、「おとな部門」にて準優秀賞をいただいたものです。
公式サイトにて作品が掲載されていたので、自分のnoteにも載せました(*^^*)



----------------------------------------------------

後援が厚生労働省だったり、主催である【ひとり親家庭支援プロジェクト実行委員会】にも、NPO法人の団体や元国会議員さんが入っているなど、なんだかとても堅いというか、しっかりしてそうな印象のコンクール。

社会福祉的なことに無知な私は、ひとり親(母子家庭)で育ったにも関わらず、恥ずかしながらこうゆう団体があることも知らなかったのですが…。
私が好きな作家さんのお知り合いが実行委員会にいらっしゃったらしく、ツイッター上でリツイートしていたことで情報が入ってきたことで、応募させていただきました。


サイト内の、〈こちらをクリック〉を押すと、第3回目の作品だけでなく、1回目、2回目の作品や3年間のコンクールの総括、活動内容などを見ることがきます。
小学生や中学生の〈ひとり親〉の子たちの、まっすぐな作文も掲載されていますので、是非。


画像1


授賞式では、講演会やシンポジウムなどもあり、〈ひとり親〉で育った私はとても勉強になりましたし、こういった活動の団体があることに感動もしました。
長くなってしまうので、そのときの様子や感じたことはまた別の機会に書きたいと思います。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました☆





-----------------------------------------------


以下、超こぼれ話。興味ある方のみ読んでください。

自慢じゃないけどこの作文は、約2日で書いたもの。

締切は2019年の8/31。

当時、8/29から、出演舞台の公演期間。

作文募集の情報を知ったのは、8/29の夕方...。

つまり、知るのも書くのも送るのも、


本番期間中、真っ只中だった。


心身ともに忙しい舞台公演期間中。

果たして私は、どのようにして作文を書いてたのでしょうか??


いやー、人間、やればできるもんですね(白目)

この時の様子も、今度書こうと思います…(笑)




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?