紫葉柚月 (旧kibu)

「生きたい」スイッチ🍀が入って自分軸を持つようになってから、人生が好転。年150冊以上…

紫葉柚月 (旧kibu)

「生きたい」スイッチ🍀が入って自分軸を持つようになってから、人生が好転。年150冊以上本を読む活字中毒。地方文学賞2回受賞 読書感想文 最優秀賞3回 優秀賞5回受賞 食品会社勤務のフルタイム会社員。ライター 小説@kibu24615128 #山口拓朗ライティングサロン

最近の記事

オレンジの記憶【全3話】3

モートは眠っているレーリーを抱きかかえて裁縫屋に連れて行った。 疲れて眠っているだけだ、2時間もすれば目を覚ますから寝かしてやってくれというと、女店主は、うさん臭そうに信じようとはしなかった。 けれど、モートがいくばくかの金を握らせると無理やり納得したようだった。 「さて。これで魂が肉体にもどっているといいんだがな」 屋敷にもどると、モートはわき目もふらずに魔法陣の部屋に直行し、呪文を唱えるとルーの胸に手を当てた。 「ダネル、魂が戻った反応があるぞ。俺は行く。あとはよろ

    • オレンジの記憶【全3話】2

      僕らは土人形のあとを追って、モートと僕は、商人の街エルダリアを訪れていた。 ダネルはモートか、僕の腕に乗っているか、空を飛んで、僕らについてきている。 しかし、順調だったのはそこまでだった。 街の中心部から外れたで、土人形はピタリ動かなくなってしまった。 「あー、ここまでかぁ」 モートは土人形を手に持つと、首を振った。 「仕方ない。ここからは俺がこいつと一緒に目的のものを探す」 「目的のものってなんですか?」 「まあ、見てのお楽しみだ」  街中を進んでいくと、モート

      • オレンジの記憶【全3話】1

         霧が立ち込める山奥の細い道を、アッシュフォード家の一団がゆっくりと進んでいた。  うっそうと茂る木々の間から、10月というのに、冷たい風が吹き抜け、僕たちの行く手を阻むかのように揺れている。 先頭を歩くのは、使用人である僕、マディだ。 心配と不安、そして少しの好奇心が入り混じった気持ちで周囲を見回しながら、そろりそろりと歩いていた。 その後にご主人のエドワード様と奥様のクラリッサ様が続く。 エドワード様は疲れた表情で杖を頼りに一歩一歩進んでいて、クラリッサ様は心配そう

        • 雷の刻印【全8話】 8.雷の刻印

          次の日。 フェンデルが旅立つ朝、イコルは見送りに出てこなかった。 「イコル様から、お気を付けてとの伝言を預かっています」 侍従が無表情のまま、淡々と短くフェンデルに告げた。 「私こそよろしくお伝えください。このご恩はきっといつか果たしにまいります。」 フェンデルは深々と頭を下げると屋敷を後にした。 私は昨日の夕食の席から姿を見せないイコルのことが気がかりではあったが、まずはフェンデルを見送ろうと思った。歩きだすフェンデルの後を私はスタスタとついていく。 「見送って

        オレンジの記憶【全3話】3

          雷の刻印【全8話】 7.雷の魔女と黒猫

          私はこの間までそこらへんを歩いているただの黒猫だった。   ある日、私は見つけたネズミを追いかけて、森の奥深くに迷い込んでしまった。やがてたどり着いたのは見上げるほどにそびえたつ古くて立派な屋敷だった。   こわごわ足を踏み入れた黒猫の私を屋敷の若い女主人は見つけると嬉しそうにつぶやいた。   「なんて見事な毛並みの黒猫でしょう。そうよ。この子にしましょう。この子に決めたわ」   そう言ってかわいらしい笑顔を向け、私を抱き上げた。あとで知ったのだが、この女は魔女だった。 彼

          雷の刻印【全8話】 7.雷の魔女と黒猫

          雷の刻印【全8話】 6.再会

          「いい加減、仕事したらどうだい?」   いつも隣に停泊している船のおかみさんが新品の船の甲板で寝転がって空を見ている俺にあきれたように言う。   「やめとけやめとけ、こいつは『恋の病』ってやつにかかってるんだから」   今度はおかみさんの旦那が俺をからかうように言う。   「うるせい!放っておいてくれよ!」   事件から二か月が過ぎた。彼女のおやじさんから俺の大事な船が流されたお詫びだと、大きな船が届いた。  手切れ金のつもりなのだろう。その巨大な船からは、これ以上娘に関

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          雷の刻印【全8話】 5.解毒

          朝早く子分が倉庫の鍵を開けると、リザルがただ一人だけ座って、泣きじゃくっていた。 「娘、あのアキアーノはどこに行った!」 子分は驚き、娘に向かって怒鳴った。 「あの人は……優しい言葉をかけて私をだましたのです。私からシークレットチェストの合言葉を聞くとあの窓から私をおいて逃げたのです……なんて……なんてひどい人……」 そういって、縄はしごが垂れた窓を指さすと、リザルはまた泣きじゃくった。 「大変だ、ボスっ!」 血相を変えて子分は出て行った。子分が出ていくのを見て、

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          雷の刻印【全8話】 4.閉じ込められた二人

          鐘の音が船の窓から流れ込んできて、俺は目が覚めた。 鐘の音……」 うつらうつらしていたリザルもその音に反応したのか、ゆっくりと起き上った。 あれはムジュル島にある教会の鐘の音だな」 「教会……」 リザルは小さく息を吐くと、吸い寄せられるように鐘の音が聞こえてくる窓の方向に身体を向けた。 薬のせいで自由がきかないのかゆっくりとした動作ではあったが、ふらつきながら座り直すと、静かに祈りだした。 その行動に俺は面食らった。 (こんな時にお祈りか。世間知らずのお嬢様って

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          雷の刻印【全8話】 3.呪いの惚れ薬

          自慢じゃないが、俺の容姿はよくもなく、悪くもなく、ごくごく平凡なはず。 いい男ね、という酒場の女のお世辞を除けば「イケメン」なんて言われた試しはない。 大体、「イケメン」という言葉自体、俗語だし、このお嬢様が使うには妙な違和感があった。 この娘、何を言いだすんだ……そう思ったその途端、俺は「フェンチル」というとんでもない薬の正体を思い出した。 俺の記憶が確かなら、この「フェンチル」という薬は、強烈な「惚れ薬」なはずだ。 確か、恋しい男に振り向いてもらえなかった魔女の呪

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          雷の刻印【全8話】 2.上客

          その日の客は特別だった。ホッシビリタに住む、二十歳そこそこの娘と、その娘についている年老いた執事の二人が今日の客だ。 ホッシビリタといえば、街を歩けば金持ちに当たるほど、大金持ちがゴロゴロと住んでいる街だ。 あらかじめ、執事のじいさんがどの船がいいのか下調べにやってきたとき、たばこ屋のばあさんのところで勧められて俺を知り、指名してきたのだ。 今日のスケジュールはこんな感じだ。 丸一日、俺の船を貸切り、屋敷のあるホッシビリタまで海路で迎えに行き、そこからジンシア島の市場

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          雷の刻印【全8話】 1.腕のアザ

          「じいちゃん、腕がヘンなんだ」 俺はじいちゃんに訴えた。 「どれ見せてごらん」 じいちゃんが俺の服の袖をめくると大きな痣が現れた。まるでケガのあとのように見えるけれど、このアザは生まれた時から肩からひじのあたりまで、ギザギザの形で俺の腕にでっかく張り付いている。 じいちゃんは袖をめくるといつものように、触ってあちこちを見てくれた。 「特に問題ないぞ。これはただのアザで、傷ではないんだ。医者に見せても特におかしいところはないはずなんだがな」 それでも俺はじいちゃんに食い

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          ホシヲキクモノ【全9話】 9.ウイルス

           ユニバーサルガーディアンズが誇る最先端の科学技術を駆使して開発されたワクチンが地球に投与され、年月が流れた。  リタは以前にも増して地球との対話能力を高めており、その能力を使って地球と再び交信を試みた。  スターライト・セントリー号の指揮室に静けさが漂う中、リタは目を閉じ、意識を集中させた。高度なテレパシー技術がリタの脳波を強化し、彼の意識が徐々に地球のエネルギーと同調していく。その瞬間、リタの心に地球の声が響いた。 「私どものワクチンをあなたの身体に投与しましたが、お

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          ホシヲキクモノ【全9話】 8.N.Yにて

           ロイは誰もいない廊下のベンチに座り込み、頭を抱えていた。ここの静けさとは反対に、一本先にある廊下からは、ストレッチャーを運ぶ音や、人の叫び声が聞こえてきて、耳を塞ぎたくなるほどの喧騒が続いていた。 「空いている病室はないか?」 「ドクターはどこに行ったの?」 「また救急患者が到着します。約十分後です!」  まるで戦場だ……。ロイはそう思った。    ここはニューヨークの私立病院だ。  昔は総合病院だったが、今は市の依頼でアーテムウイルス患者専用病院になっている。時々、

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          ホシヲキクモノ【全9話】 7. ニュース

          「それでは次のニュースです」   ノーザン・ニュース・ネットワーク(NNN)の定刻のニュース番組内、十九時十分。   折り目正しく原稿をめくる知的なキャスターが、淡々とニュースを伝えている。 「アーテムウイルスを介した病気が流行しはじめてから約二年が過ぎましたが、この病は人間だけでなく、自然界にも影響をもたらしている模様です」   キャスターの説明のあと、画面が切り替わり、録画された映像に初老の男性が映る。 「瑞穂市の山本さんは悠木大学の観測データの回収依頼を受け、白木

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          ホシヲキクモノ【全9話】 6. 二人

          「それでは本日の会議は終了します。お疲れ様でした」  進行係の女子社員が、画面の向こうでお辞儀をする。 「お疲れ様でした」  彬はふう、と一つため息をつくと静かにノートパソコンを閉じ、立ち上がって伸びをした。 「さて、今日の仕事も無事終わりましたよ」  自宅の窓の外を見ると、海に向かって美しい夕日が落ちかけているところだった。リビングの椅子から立ち上がると彬は冷めたコーヒーを飲み干した。  アーテムウイルスの流行から、彬の会社の業務のほとんどはオンラインに切り替えられた。

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          ホシヲキクモノ【全9話】 5. 家族

           20××年、地球は原因不明の病気に見舞われ、世界中の人々が自宅に引きこもる日々が続いていた。  その中で、一つの家族もまた、新しい日常を過ごしていた。 「今日もパパとママとボクはお家にいたね」 「そうだよ、大輝。恐ろしい病気が流行っているからお外には出られないんだ」 「でもね、ボクはパパとママと一緒にいられてうれしいよ。だってパパとママはいつもお仕事で忙しいんだもの」  大輝が心からの笑顔を翔太に向けた。幼い子供には世界の事情などわからないのだろうな、と翔太は息子の言葉

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