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朝の連続長谷部小説【これが夢なら醒めないで】

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エピローグ

エピローグ

―――あれから一度も夢を見ることはなかった―――――

陽が落ちるとまだ風が効いてくる、そんな黄昏時。長谷部は、故郷・・と呼べるほど遠くに住んでいるわけではないが、慣れ親しんだ街角に降り立った。小走りで駅前ロータリーから南へ突き進むと、目的地が見える頃には身体が温まっていた。馴染みのない黄色い看板が、小さいながらも、新しい事もあってか堂々と掲げられているように見える。そんな居酒屋の入り口の前に立っ

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最終章 大脱走

最終章 大脱走

 会場中に響き渡る大ブーイングの傍ら、二人の男達は、抜き足、差し足、忍び足。客席からひっそりと、姿を消していた。そう、長谷部と香西課長は誰よりも早く換金所を目指したのである。
「Congratulation,Congratulation・・・」
妙に上がらないテンションの英語と共に、現金1000万超が、長谷部達に手渡された。換金所のスタッフもまた、黒いスーツにサングラスだったが、あのおっかない黒服

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第16章 リベンジマッチ

第16章 リベンジマッチ

 目の前の光景に圧倒されていた長谷部だったが、ふと、視界に見覚えのある背中を捕らえ、目を細めた。間違いない、二階部分の隅でスロットマシンに興じていた猫背の中年は、香西課長そのものだった。
「絶妙なタイミングだなおい。」
香西の元へ歩いていくと、やっぱりといえばやっぱりなのだが、残念ながら、負けているのは明白だった。相変わらずこの男は悲痛な面持ちをしている。
「課長。お待たせしましたっ。」
スロット

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第15章 スーパージェスコ

第15章 スーパージェスコ

 長谷部と三谷は屋上の柵にロープを括り付けると一人ずつ、するすると降りることにした。望美の働いていた四階喫茶店へは、思いのほかスムーズに入ることができそうであった。これも下準備通り、彼女が窓の内鍵を解除してくれていたからである。
「よっ・・と。」
三谷がまず先に片手でロープを掴んだまま、窓に手をかけ、足場を確認しながら中へと吸い込まれていった。イテッという声が響く。どうやら着地に失敗したようだ。長

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第14章 種の行方

第14章 種の行方

 遅れること半日。長谷部は煙草の香り漂う一室で立ち尽くしていた。もうかれこれ何時間こうしているのだろう、そう思わずにはいられないほど、激しい『詰め』に遭っていたのだ。
「もうやめろ、やめちまえ。やる気ないんだろ?ん?」
支店長はそう言い捨てて、個室を後にした。長谷部は一人、取り残される。
「やる気なんて一度もないさ・・。」
ため息すら出ることはなかった。10秒もしないうちに、遠くの方から支店長の怒

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第13章 現実

第13章 現実

 夕陽が眩しかった。西の空は真っ赤に燃えて、いつまで経ってもこの街を照らしているように見える。日に日に夜は短くなり、また新しい一年が始まろうとしていた。春分は過ぎたのだ。思えばこの一年間、何をしていたのだろう。間違いなく23年の人生の中で、一番無意味に過ごしていたと、長谷部は心の底から感じている。
「ほら、買ってきたぜ。」
三谷がルートビアとグミを持って視界に現れた。それらはコンビニのビニール袋に

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第12章 セカンドチャンス

第12章 セカンドチャンス

 4畳半ほどの洋室は、外の寒さとは裏腹に、異様な熱気に包まれていた。
「・・・これ案外イケるな。」
明らかにしなびた饅頭をほおばり、三谷は壁にもたれかかっていた。香西は無表情で椅子に座り、机に肘を乗せ頬杖をついている。くたびれた野郎どもが三人、各々の時間を過ごしていた。時計の針は既に1時15分を指している。もう深夜だ。香西課長の書斎、というのにはあまりにも粗末すぎるこの小部屋に、長谷部たちは潜伏す

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第11章 人生の主人公

第11章 人生の主人公

 その扉を開けた瞬間、冷たく、しかし澄んだ風が体の中まで吹き抜けた。そうだ、忘れかけていたが今は3月の夜なのだ。
 あの黒服がどこまで追ってきたかは分からない、それでも長谷部は未だに全速力で走り続けていた。それなのに、だ。出口を出て三谷の逃げた方向へと駆け出そうとすると、今度はまた守衛らしき男が二人、こちらに向かってくるのが見えたのである。
「なんだよ・・。」
長谷部は回れ右をして折り返し、南東の

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第10章 VSジャスコ(後編)

第10章 VSジャスコ(後編)

 熱い、それでいて息苦しい。そして・・真っ暗だ。冬服に全身埋もれた長谷部は動悸が収まらなかった。全速力で走ったせいもあるが、動揺していた。こんなに新鮮な空気のありがたみを感じたのは初めてである。何が起こっているんだ・・?
「おい、三谷・・。」
長谷部は三谷に聞こえるかわからないほどの僅かな声量で呟いた。が、しかしすぐに返事は来た。
「おう・・俺もよくわかってないんだ・・・。ただ、トイレから出て戻ろ

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第9章 VSジャスコ(前編)

第9章 VSジャスコ(前編)

PM9時。ジャスコ4Fの寂れたゲームコーナーでは、平日から二人の男がはしゃいでいた。昼間時間を潰し、たむろする大した趣味のない老人連中は、とっくのとうに帰宅し今頃はきっと、何の意味もない一日を終えようとしているのであろう。それはともかく、長谷部は珍しく浮かれていた。
「予習ってこういうことかよ。・・まあ悪くないけどな。」
100円を投入し15枚のメダルと交換している三谷に向かって長谷部はにやつ

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第8章 交渉

第8章 交渉

 香西は時計を眺めていた。午後4時15分。約束の時間から15分、未だに『やつ』が現れる気配はない。来店客が訪れるたび、怯え、姿勢を正し、横目で観察する。しばらく経ち、それが違うと気がつく。こうやってもうどのくらい過ごしたのだろうか。香西は疲れていた。

 昨晩のことだった。帰宅途中、電車から降り、携帯電話を確認しようと、歩きながら恐る恐るポケットに手を入れたその時、ちょうど着信が鳴り響いたのである

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第7章 招待状

第7章 招待状

 長谷部は大きなため息をついた。目的地に着いてしまったのである。相変わらずの大きさ、丁寧に手入れされた芝生、そしてレンガ造りの2階建て。ただ一つだけ昨日と違っているのは、愛車の白いクラウンが停められていなかったことだった。外出中なのだろうか。
「ほへー、思ってたよりも豪邸じゃん!」
三谷は興奮した様子で邸宅の隅から隅まで覗き込み、観察していた。事あるごとに、おお!だとか、
すげえ!だとかこぼしてい

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第6章 課長の秘密

第6章 課長の秘密

 雨に打たれ、濡れに濡れた二人は悲鳴を上げながら長谷部のアパートへと転がり込んだ。
「寒い寒い寒い。ひー。」
着ていたジャンパーを脱ぎすて、三谷は大げさに震えながら騒いでいる。彼は、かなりくたびれたジーパンにスタジャンを羽織るスタイルだったのだが、このジャンパーがもともとダボっとしていたこともあって、水を含むとかなり重そうに見える。長谷部は三谷にバスタオルを放り投げた。
「サンキュー。」
三谷は礼

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第5章 三谷という男

第5章 三谷という男

 「おい・・長谷部、見てみろ。」
三谷は前を向いたまま、眩しさのあまり目をこすっている長谷部に声をかけた。
「駅・・?」
分岐した地下線路にポツンとたたずむ駅を見て、長谷部は首をかしげた。
「ああ、こりゃすげえぞ。」
三谷は興奮した様子で、光るホームへと走っていった。長谷部はそのあとをトボトボとついていく。
「よっと。早く来いよー。」
軽々とホームに登った三谷は、キョロキョロとあたりを見渡した。何

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