千木良悠子

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  • ベルリン演劇の講義

    2020年春学期に行った慶應義塾大学文学部「久保田万太郎記念講座」の記録です

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人形たちの恋なき「グリース」(映画「バービー」の感想です)

SNSで『バービー』の感想や批評を見ると、やたら寓意を読み解こうとする人が多い。フェミニズム映画だ、という前情報に構えるあまりに、「妊娠出産が、弱者男性が、ポリコレの行き着く未来は」と、もはやストーリーを離れて考察ばかりして、何の話だったか混乱している方もいるように、お見受けしました。 一体、ストーリーも把握せず、フェミニズムも知らず、フェミニズムやポリコレと絡めて批評できるのでしょうか? 向こうの映画人はインテリよ〜。フェミニズム映画を「フェミニズムや女性論は一旦置いとい

    • ベルリン演劇の講義12(最終回)

      慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第12回授業(7月18日) 1、前回のフィードバック レポートをありがとうございました。その中から3点(noteでは引用なし)をピックアップして話していきます。 <1> こうやって授業で話したことを、さらに考えるきっかけにしてくださったというのは、とても嬉しいです!  「文化の盗用」は、現代で芸術批評を行う際に非常に重要なキーワードです。日本は近代化の際に、西洋諸国の影響で生活様式や言葉など、様々な文化を大きく変えざるをえま

      • ベルリン演劇の講義11

        慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第11回授業(7月11日) 1、前回のフィードバック ゲストを呼んでお話をうかがったことで、理解が深まったという方がおられたようで、よかったです!  「クラシックバレエを習っていたので、やっぱり鍛え上げられたバレエダンサーの踊りの方が美しいと思ってしまう。その辺にいる普通の人が踊ってるところを見ても、あんまり良いとは思えない。」というレポートを書いてくれた学生がいました。ご自身で苦労して技能を習得した経験があればそう感じて当然

        • ベルリン演劇の講義10

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第10回授業(7月6日) 1、前回のフィードバック 別紙1・別紙2(noteでは公開なし)に前回のレポートをまとめました。田中奈緒子さんとトーマス・レーメンさんから、のコメントが入っています。かなり丁寧に、心を込めて書いてくださっているので、よく読んでください。また、みなさんのレポートを踏まえ、田中奈緒子さんとトーマス・レーメンさんに質問を作ってお渡ししました(別紙3)。こちらもじっくり読んでください。ドイツで活躍されるアーテ

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        人形たちの恋なき「グリース」(映画「バービー」の感想です)

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        • ベルリン演劇の講義
          12本

        記事

          ベルリン演劇の講義9

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第9回授業(6月29日) 1、前回のフィードバック ●まず「Zugabe」。「1時間も拍手をし続けるって大変そう」「でも観客もお金をもらうっていいアイディアだと思う!楽しそう!」といった意見がありました。私自身の経験を話すと、なんの前情報もなくこの芝居を見に行ったので、お金がもらえるという字幕が出て来た時には、とても驚きましたし、せっかく来たからには参加しよう、と思って、めちゃくちゃ頑張って最後までずっと拍手し続けました。もち

          ベルリン演劇の講義9

          ベルリン演劇の講義8

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第8回授業(6月22日) 1、前回のフィードバック 前回はTheater Thikwaの「Mit Andren. Worten.」を見てもらいました。「障害がある人たちが、主体的に演劇を楽しんでいる」「多様性が重視されている」とレポートに書いてくれた方が多かった。演者が他の演者をサポートしてあげている様子から「他者への思いやり」を連想した方もいたようです。「日本でこういう活動がもっとメジャーになればいいのに」と書いてくれた人も

          ベルリン演劇の講義8

          ベルリン演劇の講義7(補足・Thetaer Thikwa青少年グループの稽古)

          「Thikwa Jugendtheatergruppe」、ある日の通常稽古 1、悲しい or 嬉しいと、体はどんな感じがする? その気持ちになって歩いてみる。 重い⇆軽い 小さい⇆大きい 硬い⇆柔らかい 緊張⇆リラックス ゆっくり⇆速い 疲れてる⇆元気 2、全員で輪になり、以下のような言葉を一つ決めて、リレーするように順番に、時計回りに言っていく。言う時は必ず横の人にアイコンタクトをする。 「Ich bin raus!」(やーめた!=皆の議論の輪から一抜けするとき言う

          ベルリン演劇の講義7(補足・Thetaer Thikwa青少年グループの稽古)

          ベルリン演劇の講義7

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第7回授業(2020年6月15日) 1、前回のフィードバック コンテンポラリー・ダンス、やっぱり難しかったでしょうか? Meg Stuartの「Until Our Hearts Stop」について、「ありのままの肉体を見せるダンス」「動物のように自然な動きをする」と書かれたレポートが多かったですが、前回の講義で解説した通り、たとえ裸になって汗を流していたからと言って、その人間の身体を「ありのままの自然の姿」と断言できるかという

          ベルリン演劇の講義7

          ベルリン演劇の講義6

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第6回授業(2020年6月8日) 1、「UNTIL OUR HEART STOP」の感想レポートから 私が予想していた以上に、「難解」と思った人が多かった模様。これは演劇かダンスか?と首をひねった方もいるようですが、コンテンポラリー・ダンスのジャンルに入るものです。「何を表現しているの?」と悩んだ人も。「感性で受け止めろってこと?」と困惑した方もいるようです。しかし、実はヨーロッパ、特にドイツの舞台芸術はめちゃくちゃ理屈っぽい

          ベルリン演劇の講義6

          ベルリン演劇の講義5

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第5回授業(2020年6月1日) 1、前回のフィードバック 今週のレポートも、どれも素晴らしく、楽しく読みました。江本純子さんからのSNSやバーチャルに関する質問にも、答えてくれてありがとうございます。パーソナルな経験を印象的に書いてくれた受講者もいました。学術論文だとパーソナルな経験は直接は盛り込めませんが、このようなオリジナルな感覚や視点はどんなジャンルの文章においても土台となる重要なものです。さらに思考を発展させ、創造的

          ベルリン演劇の講義5

          ベルリン演劇の講義3

          慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第3回授業(2020年5月18日) 1、前回のフィードバック 前回よりレポートの数は少なかったのですが、どれも丁寧に見てくれていて感激しました。どのようなレポートを書けばいいのか?という質問があったので、別紙(noteではリンクなし)にさらなる考察のきっかけになりそうな文章を選んで載せてみました。書いてもらえるだけでも万々歳なのですが、とりあえずは自分がどんなふうに対象を見たのか、視点のあり方がよく伝わる文章を書くよう心がけ

          ベルリン演劇の講義3

          ベルリン演劇の講義2(補足・だいすき!マウス「憲法」特集)

          以下のリンクは、ドイツの子供番組「だいすき!マウス」、2019年5月26日の憲法特集で放送された動画です。 https://www.facebook.com/watch/?v=887094911841829 ’Die Sendung mit der Maus/ Sachgeschichte: Grundgesetz’ (以下、大まか〜な翻訳) 「私は人を観察するのが好きです。いろんな人がいますよね。体が大きかったり、小さかったり、若者、お年寄り、女性、男性。違う国から来て、

          ベルリン演劇の講義2(補足・だいすき!マウス「憲法」特集)

          ベルリン演劇の講義2

          慶應義塾大学 久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第2回授業 (2020年5月11日) 'Grundgesetz' Maxim Gorki Theaterのビデオを見る課題のレポートを、ありがとうございました。どのレポートも大変素晴らしかったので、いただいた全てを別紙1(noteではリンクなし)にまとめました。(毎日少しずつ、楽しみに読みました。ありがとう〜!)ドイツ語がわからなくて困った方が多かったようですが、前回説明した通り、台詞はほぼ全て「ドイツ基本法」の引用です。ビデ

          ベルリン演劇の講義2

          ベルリン演劇の講義1

          慶應義塾大学 久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第1回授業 (2020年5月4日) 2020年春学期の「現代芸術1」を担当する千木良悠子です。SWANNY(www.swanny.jp)という劇団を主宰しており、劇作、演出等を担当しています。2018年7月から2020年の3月まで、ベルリン文学コロキウムという団体の助成を受けてベルリンに滞在しました。この授業では、私が主に渡独中に出会った舞台作品の、貴重な資料を紹介していきます。舞台芸術に限らず、アートを観る目を養うためには、

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