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ベルリン演劇の講義11

慶應義塾大学久保田万太郎記念講座 現代芸術1
第11回授業(7月11日)

1、前回のフィードバック
ゲストを呼んでお話をうかがったことで、理解が深まったという方がおられたようで、よかったです! 

「クラシックバレエを習っていたので、やっぱり鍛え上げられたバレエダンサーの踊りの方が美しいと思ってしまう。その辺にいる普通の人が踊ってるところを見ても、あんまり良いとは思えない。」というレポートを書いてくれた学生がいました。ご自身で苦労して技能を習得した経験があればそう感じて当然ですし、高い技術に裏打ちされた、クラシック・バレエの名作はもちろん素晴らしいものです。前回、トーマス・レーメンさんも、「ルイ14世の始めたアカデミー・ロワイヤルのバレエはとても芸術性の高い、新しいものだった。クラシックバレエの形態も時代ごとに大きな変遷があった」という話をされていましたが、バレエの歴史は本当に奥深い。
しかしながら、バレエの世界でも、「人間の体の美しさに優劣はない。国籍・人種・ジェンダーに関わらず」という考え方が現代には主流になりつつあることには、ぜひ注目しておいてもらいたいです。私は昨年ベルリンの国立劇場で、Alexander Eckmanの「LIB」というバレエを見て、とても感動しました。スウェーデン出身で、パリ・オペラ座でも作品を発表している著名な振付家の新作です。
「LIB」Alexander Eckman/ Staatsballets Berlin 
https://www.youtube.com/watch?v=VOJBDgF6y5c

鍛え上げられた、世界トップクラスのバレエ・ダンサーが、長い毛皮(「スターウォーズ」のチューバッカのイメージらしい)を纏って、「Talking Heads」の曲で、普通の人には絶対できなそうなとんでもない動きをするのを見て、バレエってこんなに進化してるんだ!と衝撃を受けました。

2、バウハウスと「文化の盗用」

最終回前なので(私の趣味に走った)楽しい音楽劇を見ましょう! 
私が2018-2019年にベルリンで見た中で、一番好きだった演劇です。これは、Volksbühneというベルリンでもっとも有名な劇場で行われたものですが、他のほとんどの Volksbühneの演出家が、芸術大学出のエリートであるのに対し、この演出家Schorsch Kamerunは、Die Goldenen Zitronenというパンクバンドのボーカリストです!

ドイツのハンブルクという街には、政治的なパンクのシーンがあるのですけれども、彼らはそこから抜きん出て、1980年代にドイツの知的な音楽スターとして有名になりました。でもパンクバンドなので、音楽業界と提携せずに自分たちでレーベルをやっています。
ボーカルのSchorsch Kamerunは、作家・演劇の演出家としても活躍しています。彼は、Christoph Schlingensiefというドイツの1980-2000年代を代表する演出家、映画監督と深い交流がありました。本当はドイツ演劇の講義ならば、Schlingensiefを紹介するべきなんですけれども、彼はもう日本でも有名になっていて、美術館や映画館で特集が組まれたり、本やビデオも出ているようなので、興味があったら調べてみてね。ピナ・バウシュも、シュリンゲンジーフも紹介しないという、じつはすっごく変な現代ドイツ舞台芸術講義でした!

で、この演劇「Das Bauhaus - ein rettendes Requiem(バウハウス、救いのレクイエム)」は、ドイツが誇る世界最高のデザイン学校「バウハウス」100周年記念として行なわれたものなのですが、1919-1933年まで開校されていたその「バウハウス」のお葬式をするという趣向です。
Bauhausはもちろんドイツが世界に誇る最高の芸術学校なのですが、2019年にBerlinのHaus der Kulturen der Welt (通称「世界文化の家」)という美術館で、'bauhaus imaginista'という展覧会をやっていました。Bauhausが世界に与えた影響を再考するという趣旨ですが、その中でBauhaus初期のデザインに、アジア・アフリカ・ラテンアメリカといったいわゆる第三世界からの「文化の盗用(cultural appropriation)」が多数あったのではないか、という問題を検証する展示がありました。
例えば、バウハウスの講師であった芸術家パウル・クレーの有名なあるスケッチは、北アフリカ、チュニジアのカーペットの柄から「インスピレーションを受けた」ものです。当時チュニジアはフランス領でした。見ると、本当にカーペットの柄をただ模写しただけのような....しかし、こういったあんまり名誉とは言えない歴史を再検証する展示が、HKWという大きな美術館で行なわれていることに私は大きな感銘を受けました。

ちなみに、バウハウスで教員をしていたOskar Schlemmer(オスカー・シュレンマー)という芸術家、彫刻家、デザイナーはダンス作品を発表していました。シュレンマーは、建築の観点から人間の身体の動きを考察、現在のコンテンポラリーダンスに多大な影響を与えました。建築デザイナーだけでなく、いろんなアーティストがいたのがバウハウスです。

そんな感じで、伝説の芸術学校Bauhausに関しても、ドイツでは最近再検証が盛んです。2019年には、バウハウスが「女性活躍を謳っていたけど実際はどうだったの?」とフェミニズムの観点から再検証したテレビドラマ「Die Neue Zeit」が人気だったそうです。

以上を踏まえて、課題映像「Das Bauhaus - ein rettendes Requiem(バウハウス、救いのレクイエム)」を見てみてください!
この演劇、まずは劇場ロビーで観客全員にワイヤレスヘッドホンが配られます。観客は、劇場後方でライブ演奏されているSchorsch Kamerunの歌とバンドの音楽を耳もとでずっと聴きながら、ロビーや通路、舞台上など劇場のあらゆる場所を歩き回って見られる、というわけです。バウハウスにちなんだ様々な場面が展開されていきます。集団で出演しているのは、Volksbuhneの青少年俳優グループ。プロの俳優のアンサンブルの下に、研修中の10代20代、学生の皆さんと同年代の青少年俳優グループがあるんですね。ドイツ語がわからないと思うけど、あんまり気にせず、楽しんで見てください。バウハウスの土地の権利の問題とかドイツの政治家の話なんかもしているみたいで、内容は複雑です(私も全部わかっていない)。でも私はどんな巨匠の演劇よりもこれが一番好きでした!これ見る前に、「Die Goldenen Zitoronen」のコンサートにも行ったので、ただ音楽のファンなだけかもしれませんが...。

●もう一つリンクを貼った課題映像「小鳥女房」は、私が2017年に上演した四人芝居です。私の活動についても知りたい方がいるようだったので、(あと日本語のビデオの方が、やっぱり反応が良いですね。)ご紹介しておきます。こちらの方が興味ある方はどうぞ。東京のマンションで、「籠の中の鳥のように」孤独に在宅ワークをしている主婦が、フェミニストのテロリストグループに勧誘される話です。「小鳥女房」は戯曲の書籍をネットの生協で扱ってもらっているので、ご興味あったらご購入ください。 https://www.honyaclub.com/shop/g/g19287590/

今回はどちらか一方のビデオを見るだけで構いません。そろそろ期末課題前で忙しいと思うので、見てみたい方を楽な気持ちで見てください!

第9回課題
1、「Das Bauhaus - ein rettendes Requiem」
Regie: Schorsch Kamerun、Berlin Volksbühne、2019年6月20- 22日
https://www.youtube.com/watch?v=9cN5ypn-ALM

2、「小鳥女房」
(noteではリンクなし。詳細:www.swanny.jp
作・演出 千木良悠子、渋谷ユーロライブ、2017年11月
出演 山田キヌヲ、小林麻子、岡部尚、田中偉登

以上、二つの映像を見て、気づいたこと、考えたことを書いてみましょう。
授業支援システムの「レポート」欄から送ってください。匿名でいくつかピックアップして次回の授業で取り上げ、話をしていきます。どちらか一つ、興味のある方で良いです。来週もまた同じ課題を出します。動画は録音したり第三者へ譲渡したりしないこと。授業用に視聴するのみでお願いします。


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