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ベルリン演劇の講義1

慶應義塾大学 久保田万太郎記念講座 現代芸術1 第1回授業
(2020年5月4日)

2020年春学期の「現代芸術1」を担当する千木良悠子です。SWANNY(www.swanny.jp)という劇団を主宰しており、劇作、演出等を担当しています。2018年7月から2020年の3月まで、ベルリン文学コロキウムという団体の助成を受けてベルリンに滞在しました。この授業では、私が主に渡独中に出会った舞台作品の、貴重な資料を紹介していきます。舞台芸術に限らず、アートを観る目を養うためには、多数の作品に触れること、作品の文脈を理解することがまずは重要かと思います。春学期、オンラインのみの授業となりますが、受講者が芸術鑑賞や芸術批評に関するオリジナルな視点、感性を育てるきっかけの一つになれば嬉しいです。(この授業から近未来の「アートの目利き」の人材を多数輩出する、という崇高な目標を密かに掲げています!)

1「Grundgesetzgirlの一日」
ドイツ演劇と日本の演劇の違いはたくさんあるが、もっとも大きな違いは政治や現代ドイツ社会に関する言及が作品内に必ずと言って良いほどあるということ。純粋にエンターテイメントのみという作品はとても少ない。ドイツ人の友達も普段からしょっちゅう政治の話をしている。この違いはどこから来るのかと常日頃思っていたが、気がつけば子供番組ですら憲法(=ドイツ基本法)の話をしている!

★まずはこの動画を見てください。
2019年5月23日は、ドイツの憲法にあたる「基本法=Grundgesetz」の制定70周年。ドイツの大人気子供番組「Die Maus Sendung(だいすき! マウス)」でもGrundgesetz記念日特集が組まれた。「ルナは一見、普通の女の子。だが事件が起こると....ドイツの正義を守るため、Grundgesetzgirlに変身する!」 
https://vimeo.com/338652064

***以下、映像に登場する 'Grundgesetz(ドイツ基本法)' の抜粋の抄訳●第12条 誰であろうとも、一定の労働を強制されてはならない。
(全て許されています。(女性の)宇宙飛行士、(女性の)裁判官、(女性の)連邦首相なんていかが?)
●第5条 すべての人は言葉や文書、絵や写真で自分の意見を述べたり、広めたりする権利を有する。
(→「検閲は行われない! 何か言いたいことがあれば、心配しないで言って!」)
●第3-2条 男性と女性は同等の権利を有する。
(→男の子のして良いことは、女の子もして良い。)
●第3-1条 すべての人は法の前に平等である。
●第2条 すべての人は自分の人格を自由に発展させる権利を有する。
(→こんなトンデモナイ格好の人が歩き回ってても全然良いってこと! その人がありたいようにあって良い。)
●第1条 人間の尊厳は不可侵である。
(→つまり、どんな人も唯一無二で、尊敬に値するってこと! 
不正があるところにGrundgesetzgirlは居合せる。というか、ほとんどいつもいる!彼女が寝坊してるか、ゲームでハイスコアを叩き出そうとしているときは、あなたたちが必要です。そして、あなたたちは善のために戦います。)

<任意の質問>
→日本国憲法について学んだのは何歳の時だったか覚えていますか? 憲法が自分たちを守ってくれるスーパーヒーローだという発想に共感できましたか? 感想を教えてください!
(下欄の「課題」に付け加えて書いて送ってください。)

3「Grundgesetz」
<課題>
'Grundgesetz' Maxim Gorki Theater
演出:Marta Górnicka ワールドプレミア:2018年10月3日
https://www.youtube.com/watch?v=Xlnj129F8O4
(noteではトレーラーのみですー。)

上記リンクの舞台映像を見て、気がついたこと、発見したことを書いて、次回授業までに授業支援システムの「レポート欄」から送ってください。*演出上の取り組みや工夫*俳優(演者)のセリフや動き*舞台美術*衣装*音楽*観客の様子、などなど。(小さなことでもOK。演劇にディテールは重要です。)

★次回授業(5/11)までに時間がないので、書ける人だけでOK。今回は無理なく、楽しめる範囲でお願いします。レポート機能の動作確認も兼ねて出してみてください。
★いただいた中から、匿名でいくつかピックアップして次回の授業で取り上げ、話をしていきます。よって、書いた文章は、匿名ですが次回の授業で読まれる可能性があります。
★動画は録音したり第三者へ譲渡したりしないこと。授業用に視聴するのみでお願いします。

○鑑賞のヒントその1
セリフのほとんどが、ドイツ基本法からの抜粋。時々「Freiheit(フライハイト)!」と連呼されるが、これは「自由」の意味。
(以下、連邦司法省・消費者保護省のサイトのドイツ基本法。邦訳はインターネットにも載っているが、より興味のある人は専門書を参照してください。)
https://www.gesetze-im-internet.de/gg/index.html(ドイツ語)
https://www.gesetze-im-internet.de/englisch_gg/(英語)

○鑑賞のヒントその2
この作品を制作した「Maxim Gorki Theater」は、ベルリンの公共劇場の一つ。18世紀プロイセン時代に建てられたが、 ナチ時代を経て戦後、東ドイツの劇場となり、1952年にロシアとソビエトの芸術を扱う場所としてこの名を付けられる。(マキシム・ゴーリキーはロシアの作家。)壁崩壊後、2012年にトルコ系移民の女性であるShermin Langhoffが芸術監督になる。それ以降、移民の背景をもつ演出家や俳優を積極的に起用するようになった。

<ドイツは移民国家>
2018年の統計によると、約4人に1人が移民のバックグラウンドを持っている(そのうち半数がドイツ国籍を所持)。旧西ドイツは、戦後の経済復興のために60年代以降、トルコから労働力として移民を呼び寄せた。一方、旧東ドイツは社会主義国家であるベトナムから労働力を受け入れていた。(なので、ベルリンにはトルコレストラン、ベトナムレストランが無数にある。人気のあるケバブのスタンドには行列ができる。)

○鑑賞のヒントその3
この作品の初演は2018年10月3日にブランデンブルク門前で上演された。
1990年10月3日は、東西ドイツが統一され、現在の「ドイツ連邦共和国」になった記念日。→舞台背景に据えられた巨大な白黒の写真は何を現しているか、わかりますか?

***
<最後に宣伝>
拙著「戯曲 小鳥女房」を、授業の参考図書として大学生協のオンライン書店のラインナップに掲載してもらいました。2017年に上演した「小鳥女房」の戯曲だけでなく、スタッフ・キャストとどのように舞台を作っていったかがわかる演出ノート、活動経歴なども収録されているので、ぜひご一読ください。https://www.honyaclub.com/shop/g/g19287590/

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