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新米教師が子どもに助けられた話 1年生の算数『なんばんめ』 番外編1

「先生、どうしたの?お勉強しないの?」
ゆうき君が言った。授業始まりの挨拶後、黙ったままでいる私に子どもたちが首を傾げている。
「困ったな」と思いながら、正直に打ち明けた。

「みんなと勉強したいことあるんだけど、いい言葉が見つからないの。」

初任校で、初めて1年生を担任した時のこと。そう、「先生」と呼ばれるようになって数年目。私はまだ若葉マークが取れたばかりの初心者だった。

算数『なんばんめ』の授業、第1時。集合数と順序数の違いを理解させて、使い分けさせる。大ざっぱに言えば「数量をかぞえるときは『なんこ』を使う、順番をかぞえるときは『なんばんめ』を使う」そんな内容。
全然難しいことではない。どちらかと言えば簡単。大半の子どもたちは日常生活でなんとなく理解して、既にできている内容だ。

簡単過ぎるからか、調べた授業書にも授業例が載っていない。頭の中でグルグルしているのは「集合数」「順序数」という言葉。でも、それは子どもたちに使う言葉じゃない。簡単なところで、なぜか煮詰まってしまった私の脳味噌。簡単に思えることほど教えるのは難しい。
「どう教えようか」と決まらないまま数日が過ぎ、前夜となり、朝が来た。そして今、目の前には子どもたち。何してるんだ、私!

「先生、先生がどんなこと言いたいのか教えて。僕たちも一緒に考えるよ。」
ほんの少しの間の後、ゆうき君が言った。 

「あ、ありがと。あのね……。」
ゆうき君の言葉に促されて、黒板に図を書いた。
煮詰まった脳味噌で「この《違い》を勉強したいの」とだけ話した。

覚えているのは、その後の1分程度の沈黙と「先生は何を言いたかったのか」を真剣に考えていた子どもたちの表情。私は申し訳ない気持ちで子どもたちを眺めていた。1分程度のはずだけど、長い時間に感じた。

「先生、それって、もしかして、こういうことかな?」

ゆうき君が話した。
「今までのが『全部で何個』とか『端から何個』とか『いくつ』の話で、今度のは『最初の1個』とか『最後の1個』とか『何番目でも、とにかく1つだけ』ってこと?」

「そう、それ!そういうこと!すごい!」
なんてピッタリなんだろう。なんて分かりやすいんだろう。
そう、『4番目』の4は『1つだけの4』なのよ。(って私が言い直すと分かりにくいから言えないけど。)

ゆうき君の言葉を聞いて、えりこちゃんが言った。

「それってカレンダーのことかしら?」

子どもたちからは、たくさんの順序数の例がでた。

・学年や組、出席番号
・自動車のナンバー
・車両の番号や座席番号
・電車のホーム(何番線)
・建物の1階、2階、3階
・かけっこの1等、2等
・くじびきの番号
・住所番地や、郵便番号
・電話番号
・テレビのチャンネル番号
・時間割の1時間目、2時間目
・月日時分などの日付や時刻


途中で面白いこともあった。

「テレビで言ってる『せんちゃく○名様』ってやつは?」
「それは、あっち(黒板左側)でしょ。」
「そっか、違うか。」

私は「なるほど」「それもかぁ」と言いながら黒板に書くだけだった。

そして、子どもたちが発見したのは「番号って言ってたのは『なんばんめ』のこと」だった。

この日、私は、子どもたちに考えさせたのではない。
どうやって教えようかと悩んだまま何も思いつかずにいて、それを「僕たちも一緒に考えるよ」の言葉に助けてもらった。
「もしかして、こういうことかな?」と子どもに考えてもらった。
「これがそうかしら?」とたくさんの具体例を考えてもらった。
私は「なるほど」と言いながら黒板に書くのが楽しかった。
そして「こんな風に『一緒に考える』授業っていいなぁ」と思った。

この授業で、私は子どもたちから大事なことをふたつ教わった。

そのひとつめが、
子どもに教えたい内容を教師が説明したらダメということ。
教師がピッタリした説明を探すのではなく、それを子どもにさせる。
教えたい内容の理解につながる活動を子どもたちにさせる。教師は「子どもに何をさせる」かを考える。

私は、日頃、口では活動重視と言いながら、まだまだ説明して分からせようとしていた。教師の説明は少ないほどいい。子どもの活動が大切。活動の結果、子どもたち自身が納得した答えを見つけだすことが大切。

ふたつめ、
例えば、今回のように「該当する事例を探す」でもいい。「分かったことを絵に表す」でもいい。
授業では、何かの形でどんどんアウトプットさせることだ。
そうすれば、先の「それは、あっちでしょ」のように子どもどうしで学び合うこともできる。これが集団で学習することの魅力なんだ。

せっかくの授業、子どもたちが関わりあう活動をしたい。

実は、この数週間前にも、私は、ゆうき君から大事なことを教わっている。そして、そのことをnoteで記事にしている。

初めて担任した1年生。その教室にゆうき君がいた。
3月半ば生まれで、クラスの男子では一番小柄な子だった。
通知表の成績では特別な何かが現れる子ではない。明るく、元気で、優しい、笑顔が心に残る子どもだった。
今頃は、もう30代半ば。立派な大人だ。
どんなに大きくなったことだろう。
もしも、どこかで彼に会えたなら、その時には「ゆうき君にはとっても大事なことを教わったよ。本当にありがとう。」と言いたい。

頼りなく子どもに助けられながら授業をしていた私。
「子どもに助けてもらった分は、次の子どもに返すぞ」
そんな思いもあって、2回目の1年生のときは頑張りました。
「何事も経験、大人も子どももそれは同じ」と、どうかお許しを……。

子どもたちとの出会いの中で、たくさんのことを教わった日々。
その日々を終えた今も懐かしく思い出しています。
みんな、どうもありがとう。いつかどこかで会えますように。


次回、『なんばんめ』【番外編2】お楽しみに。


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子どもに教えられたこと

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