1キロメートルのミライ
私が2年ほど生活をしていたフランス第5の地方都市ボルドー。フランス2大ワイン産地の一つとしても世界中にその名を広め、フランス人の住みたい街ナンバー1に挙げられるほどボルドーはとても魅力的な街。
街中を歩けば活気に溢れる雰囲気を肌で感じとることができる。
多くの人が観光するボルドー市内には、自然豊かな大きな公園、美しく整備された川沿いに、伝統的なヨーロッパの町並みの中に現れるモダンな建物も目を引く。
ボルドーはフランス国内で人口比率に対して最もレストランの多い街で、レストランは街中に所狭しとある。
おしゃれなカフェも容易に見つけられる。
もちろんワインで有名な都市なので、ボルドーワインを中心に揃えたワインショップにワインバー、2016年にオープンしたワイン博物館、シテ・デュ・ヴァンは世界中のワインの魅力や歴史を紹介しているボルドー新名所だ。
またこれは個人的な見解だが、私はフランス国内多く街を訪れてきたが、パリを除いてフランス国内のあらゆる産地のワインを一番入手しやすい街は、ボルドー以外にないと思う。
ブルゴーニュ地方とローヌ地方に挟まれるように位置する美食の街リヨンにも数年住んでいたが、周辺のワインが集中的に揃えられていた印象。
それに比べボルドーのワインショップはフランス全土のオーソドックスなヴィンテージのワイン、自然派ワインがとても充実していて、一般でも容易入手できる環境がより多くあった・・・・っと
ワインの話はキリがなくなるのでこれぐらいにしておいて、とにかくワインを愛してやまない人ならば訪れる価値のある街として非常にオススメ。
しかし私がボルドーに一番の魅力を感じる理由は他にある。それは市内の道が歩行者専用に整備されている場所が多く存在しているところである。
代表的な通りではサンカトリーヌ通りが最も有名。この通りは1.2kmにも及び両端にお店が連なる歩行者天国としてヨーロッパで一番と言われいる。
日用品から飲食店まで、一つ道を入ればもちろんワインショップはいくつも見つけることができる。
もう一つはオシャレなカフェや雑貨屋のある、サン・ジェームス通りも素晴らしい。
この通りには13世紀に造られてた高さ40メートルの塔があり、7,750kgの大きな鐘、大鐘楼(グロス・クロッシュ)を見ることができるボルドーを訪れたら必見の建物。
サン・ジェームス通りも歩行者専用の通りとして多くの観光客や地元の人達が行き交う場所。他にも紹介しきれないほどの歩行者専用、それ以外の通りや広場はいくつもある。
歴史あふれる街並みや雰囲気を味わいながら優雅に街中を散策ができる観光に適した街づくり、それがボルドーなのだ。
愛すべきフォンドデージュ通り
そんな魅力あふれるボルドー市内に私の住まいあった。中心地まで徒歩でアクセスできる職場も自宅から徒歩で6分と非常に恵まれた場所。
多くの店が並ぶ歩行者天国のサンカトリーヌ通りも、高級店が密集しているプラス・トゥルニューという名前の交差点を渡り徒歩で15分とかからない。
しかし私が本当の意味でボルドーが私を魅了する、いやむしろボルドーを愛すべき街にあげる理由は他にある。
常に人が行き来きかう交通量の多いプラス・トゥルニュからサンカトリーヌ通りへと向かう道を背に住宅街へと伸びる1kmの通りがある。
名前はフォンドデージュ通り。
この通りは私がボルドーに住んでいた2年間ほぼ毎日歩いていた通り。
買い物する時、日常の用事、休日に行くカフェ、遠い場所ならばカプサン市場まで自宅から3kmの道のりにフォンドデージュ通りを必ず歩いて出かけていた。
ただ当時この通りには1つ、いや2つも3つも問題点が存在していた。
この通りは私が暮らし始めてからの2年間、ボルドー市内から郊外へと伸びる4本目の路面電車(トラムD線)を通す道の整備が行われていた。
工事中でもプラス・トゥルニューからは市街地へと抜けるため平日には沢山の車が入ってくる。
その横の狭い歩道には歩行者や自転車が行き交い大変危険な道であった。
工事の騒音、砂煙、重機の往来は常日頃であり、道は凸凹でとても歩きにくい。これだけ聞くと全く魅力を感じず訪れてみたいとは全く思わないだろう。
工事に伴い改装中のお店や空き店舗の場所もいくつかあったが、1kmに及ぶフォンドデージュ通りには沢山の商店が並んでいる。
肉屋、魚屋、野菜にパン屋を始めとしオーガニック食品店にチーズ専門店、惣菜屋、オイスターバー、ショコラティエ、エピスリー、シャンパンバー、もちろんボルドーなので、ワインショップもある。
他にもスーパーマーケットにアジア食品店、アメリカンスナックを扱う店もあれば、ベトナム料理店は、私のお気に入りのレストラン。絶品のブォ・ブンを8,5ユーロで味わうことができる。
食品店以外にも、雑貨屋に自転車屋、マッサージ店、スポーツジム。私のかかりつけの医者に、歯医者、銀行、郵便局もこの通り沿いにすべて揃っていた。
まさに私の生活の生命線のような道、それがフォンドデージュ通りなのだ。
目を凝らして見えてくるミライ
ボルドーでの休日の過ごし方は、午後から決まって自宅で料理の試作をすることだった。以前に暮らしていた街からボルドーに移り職場の環境が変わると共に、より良質な食材、地域の特産物、また新しいレシピに触れる機会が増えてきた。
料理に飢えていた私にとって、休日でも料理をする欲求が高まってくるのは自然な流れ。
午前中に試作用の食材を購入してから調理に取り掛かる。1、2品で終えるときもあれば、多いときで6品と翌朝まで試作をすることも珍しくなかった。
凸凹で歩きづらいフォンドデージュ通りを歩きながら、購入する季節の食材、試作する料理、それに合わせるワインのことで頭はいっぱい。
頭の中で料理を作っては壊し、また組み合わせを変えては作りなおす工程を繰り返しながら食材を購入するためにこの道を歩く。
自宅に戻るときも、決して居心地が良いとは言えないフォンドデージュ通りを通りながら。
料理の魅力や私が伝えたい美食の本質を表現するため、そして何よりも料理を楽しみ本当の意味で私自身が豊かになっていくために・・・
私の美食の理想は誰かに期待されるでもなく頼まれたわけでもない
それでも私の進む未来への道は誰かを癒やし勇気づける事ができると信じているからどんな時でもどこでも料理を続けてこられている
内に秘める私にしか表現できない料理の理想や想いは、目を凝らして見つめる目の前に続くフォンドデージュ通りに照らし合わせながら歩いていた。
毎日のように通る歩きづらく当時は魅力を感じることのできないこの通りを見つめていると、1kmに及ぶこの道のミライの姿がぼんやりと見えてくる。
道が整いトラムD線の開通に伴い多くの人が行き交う姿や新しく住み始める人たちで賑わい立ち並ぶ多くのお店はより活気に満ちている様子。
輝きに満ち魅力に溢れる事で多くの人を引き寄せる姿を少しずつ感じ取ることができた。
近い将来に生まれ変わっていくフォンドデージュ通りのミライを想像していると、私が築きあげるべき理想の美食の道を触れてもらうことで多くの人の心が満たされている姿と重なってくる。
居心地は決して良いとは言えない道も、気づくと歩くたびに顔がニヤけてしまうほど歩くのが好きになっていた。
それくらい私の心を癒やし続け勇気を与えてくれた愛すべき道、それがフォンドデージュ通りだったのだ。
ボルドーを離れる時もこの通りの完成を見ることはなかったが、整備され、生まれ変わったこの道を散策して新しい発見をしてみたいと強く願っている。
その頃には私自身も、今よりも人と人を美食で繋げられるような魅力を輝かせていられるよう願いを込めて、私は新しい挑戦のためボルドーを、そして大好きなフォンドデージュ通りをあとにすることにした。
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Chef ichi
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