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【第5話】村山美澄、もう一人の私との共同生活を始める~もう一人の私との出会い~


なんだか満たされない毎日を送る村山美澄(27)。
日々の些細なストレスを抱え生活するうちに
自分の姿をした幻覚が見えるようになってしまう。

「私の幻覚」は美澄の心の声そのものだと言い、
美澄が自分らしい人生を生きれるよう共同生活を始めることに。

どんな時も側にいて理解してくれる存在と暮らす中で、
美澄の毎日が少しずつ変化していく。


これまでのお話


夏感じる花火

今日は土曜日。
昨日休暇を取ったから来週月曜が不安だが、一旦全て忘れて目の前のことに集中しよう。

朝目が覚めてキッチンに行くと、私が何かを作っている。
ジュー
「お、おはよ」
「あ、おはよう!フレンチトースト食べる?」
「え、あ食べます」
「好き?」
「うん、好きです」
「だよね!持っていくから待ってて!」

リビングで戻って床に座る。作ってもらっているぶん申し訳なく寛ぐことができない。テレビをつけることもなくボーとクローゼットの扉を見つめる。

扉の塗装が剥げてる。
この家も傷がついてきたな。
もう3年か。狭いし、特に気に入っている訳ではないが他を調べることもなくナーナーなまま契約更新している。

「はーい、できました!甘党の私達の大好物、フレンチトースト!」
そういってリビングに入ってくる私。
「ありがとう、、」
「うん!温かいうちに!」
私はフレンチトーストにかぶりつく。
あ、チャイの味だ。
「好きでしょ?チャイ!」
「うん。ありがとう、おいしい」
私はニコッと笑って私を見る。
「今日は何したい?」
「え、んー。」
夏だし花火したいな。でも1人で花火っておかしいかな
「花火とか?」
「え!なんで分かったの?」
「おお、いや何となくだよ!アハハ。まああなたは私だしね!」
「でも恥ずかしくない?1人で花火」
「そーゆーとこだよ!自分の心の声に素直にならないと!少なくとも私と一緒にいる間は」
なるほど。去年の夏も結局花火してないし、まあありか。

そういって私たちは日が傾き始めてきた頃、お台場の湾岸がみれる小さな公園にきた。
途中のコンビニで買った花火を持って。

「ここなら人はあんまりいないし、湾は見えるしいいよね!」
「うん。ここ去年私が穴場スポットで見つけたとこだよね?」
「うん、そーだよ!だって私が調べたんだもん」
「あ、そっか。私が知ってることは私も知ってるのか」
「そう!夕日もちょうど沈みかけてきた!パーとやろう!」
「うん」
いつも通りぶっきらぼうな態度しかとらないが、私は内心とてもはしゃいでいた。

素足に感じるサラサラとした白砂。
暗くなってきて誰かに顔をみられることもない。
向こうでユラユラゆれるレインボーブリッジのライト。

「ね!ハート型に花火してみよ!」
「えー、大学生じゃないんだからさー」
「何いってるの?ずっと青春っぽくて憧れてたじゃん!」
「えー!アハハ。本当にやってるじゃん!」
「そりゃあやるよ!やりたいことやりに来たんだもん!」
「私もやっちゃおー」
「アハハハ。今ね、あんま綺麗にハートなってなかったよ!」
「えーうそー!」

私たちは小さい頃から知ってる親友みたいになっていた。
私の幻覚だけあって私のことを理解してくれる、このまま私との共同生活は楽しいものになる予感がしていた。

ひとしきり花火をし終えると、私たちは砂浜に座り何も話さずに水に浮かぶ光を眺めていた。



「ねえ!提案があるんだけど」
静かにしていた私が口を開いた。私は視線を向ける。
「なに?」


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