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ヘルスケアとクリエイティブの本棚-医療環境を考える本-

現在、ヘルスケアの領域では、アーティスト、デザイナー、建築家などの芸術関係者と医療福祉関係者が協働して、新しい医療や福祉、健康や暮らしのあり方を考える取り組みが各地で起こっています。

しかし、臨床の場に身を置いていない人にとっては、ヘルスケア領域の本質や課題を捉えることはとても難しいことです。そこで、これまでチア・アートが医療施設でアートやデザインの実践を行うなかで、「何のために活動するのか」「どのように取り組めばいいのか」の手がかりにしてきた本をいくつか紹介したいと思います。今回は、哲学や建築の視点、そして実践から医療環境を考えるための本を紹介していきます。

1. ケアや医療の意味を考える
2. 医療環境とはなにかを考える
3. 医療×アートとデザインの実践から考える


1. ケアや医療の意味を考える

ヘルスケアの現場でアートやデザインを実践するとき、そこで起こっていることの意味を考え、何のために実践するのかを問い続ける必要があると思っています。そのためには、臨床をとりまく行為や言葉の意味を考える哲学的視点が大切だと考えます。これらの本やウェブサイトでは、やさしく私たちの考えをほぐしてくれます。

いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ/稲葉 俊郎
医師であり、芸術に造詣の深い著者が、「こころ」と「からだ」の関係性、「人間の全体性を取り戻す」という医療と芸術の本質的な意味について考えた本です。


「聴く」ことの力―臨床哲学試論/鷲田 清一
「聴く」「遭う」「迎え入れる」「享ける」とはどういうことなのか、ホスピタリティとは一体何か、臨床におけるふるまいや行為の意味を読み解き、示唆してくれます。


ケアを問い直す―「深層の時間」と高齢化社会 /広井 良典
生物学、医療経営、政策、科学哲学の視点から、「ケア」というものが人間にとってどのような意味を持つのかを問い直す本です。


2. 医療環境とはなにかを学ぶ

「制度」も「施設」も英語では「Institution」と呼ばれます。病院建築や医療施設の本質的な課題を捉えるためには、物理的な環境だけでなく、その環境が成立する背景や特性を理解することが大切だと考えています。また、最古の病院建築家と言われるナイチンゲールの視点は、現在の医療環境がどうあるべきなのかを考えるうえででも、とても参考になります。

01・建築 ナイチンゲール病棟はなぜ日本で流行らなかったのか (ナイチンゲールの越境 建築) /長澤 泰、西村かおる、 芳賀佐和子、 辻野純徳、尹 世遠
近代の病院建築の基礎とも言える考えを提唱したナイチンゲール。著書「病院覚え書き」やナイチンゲール病棟がどのようなものだったのか、日本での導入はどのようなものだったかが図面や資料とともに示されています。


医療環境を変える―「制度を使った精神療法」の実践と思想/多賀 茂、三脇 康生
医療環境のなかで無意識に生まれるルールや規範を含む「制度」。問題点を見直し、治療環境を治療するための「制度分析」について書かれています。


建築地理学―新しい建築計画の試み/長澤 泰、岡本 和彦、伊藤 俊介
なぜ病院は機能的なのか、施設らしさとは何か。病院や福祉施設を含む施設建築が持つ特性について、社会学の視点も含めて書かれています。


ビルディングタイプの解剖学/五十嵐 太郎、大川信行
学校や病院などの施設は、機能や制度の類似性から似た建物になり、「ビルディングタイプと」呼ばれます。各ビルディングタイプとの成立や変遷が、建築史の視点で紐解かれています。


3. 医療×アートとデザインの実践から考える

ヘルスケア領域でのアートやデザインの取り組みが国内外で広がっています。医療関係者、美術関係者、デザイナー、建築家など、多様な分野の人々が協働しあい、どのような理念にもとづいて、どのような実践に取り組んでいるのかを知ることができる本たちです。

治療では遅すぎる。―ひとびとの生活をデザインする「新しい医療」の再定義/武部 貴則
「病を診る医療」から「人を観る医療」へのパラダイムシフトの背景から、多様な学問領域が携わる新しい医療のあり方を提示し、先行事例や著者が取り組む活動が紹介されています。


ケアとまちづくり、ときどきアート/西 智弘 、守本 陽一 、藤岡 聡子
健康とは何か?まち全体の健康を目指すケアとまちづくりの実践事例やイギリスを中心に広がる「社会的処方」の考え方をふまえた実践方法について書かれた本です。


Arts in Health: Designing and researching interventions/ Daisy Fancourt
アートと健康に関する活動について、欧米での歴史と定義、実践理論、研究デザインを網羅した本です。著者は、WHOのレポート「健康とウェルビーイングの向上における芸術の役割に関するエビデンスとは/What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being? A scoping review」の執筆者でもあります。


病院のアート―医療現場の再生と未来 (アートミーツケア叢書)/森口 ゆたか、山口(中上) 悦子、アートミーツケア学会
日本の医療現場でアートやデザインの取り組みを行う医療関係者、アーティスト、アートディレクター、大学関係者ら多様なセクターの視点で、実践内容が紹介された本です。


進化するアートコミュニケーション―ヘルスケアの現場に介入するアーティストたち/林 容子、湖山 泰成
著者が病院や福祉施設で実施してきた実践や諸外国の事例から、アートセラピーとは異なる「アートコミュニケーション」の可能性について述べらています。


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紹介した本のなかには2019-2020年に出版されたものも複数あり、ヘルスケア領域におけるアートやデザインの関心が高まっていることがうかがえます。これからも、多くの人々の「知」を学び、みなさんと一緒に新しい実践に取り組んでいきたいと思います!

最後に、看護師でありデザイナーである吉岡純希さんが、デザインと医療・看護・ヘルスケアの領域を行き来するための足がかりになった本を紹介しており、こちらも大変参考になります。実は、本記事は、吉岡さんに触発されて書いたのです。

チア・アートを支えてくれる会員、一緒にプロジェクトや研究を進めたいという方など募集中です。お気軽にご連絡ください!

(チア・アート代表 岩田祐佳梨)


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