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C12 一人ぼっちと孤独は違う

翌日は朝のミーティング後にボスは私をトラックタイプのミニクーパーで昨日とは違った現場に私を連れていきました。そこは、果樹の幼木を植えてある明るい農地でした。

荷台に積んである道具を下ろすと、太い針金の部品をいくつか手に取り、幼木のほうに歩いていきました。私も彼の後に続き、どんな作業になるのか少々不安ではありましたが、静かに彼が説明を始めるのを見守りました。「イキオ、これは、まだ小さなリンゴの苗木だ。見て分かるように分かれて出てきている枝が、すべて上を向いている。」なるほど。幹の大きさもまだ人差し指ぐらいの太さです。「これでは、枝から広がる葉が、効率的に太陽の光を十分に受けることができない格好だ。」なるほど…。そこで、イキオ。このS字型の針金製のフックを幹と枝に引っ掛けて、広がった状態に矯正するんだ。」ふむふむ。「見てごらん。まず幹にS字の部分を引っ掛けて、残りの部分を枝に引っ掛けると、ほら枝が広がっただろ。」「Yes, I got it. Boss」「じゃあ夕方になったら迎えに来る」と言い残して、私をひとり残して車で立ち去りました。私は半分唖然としながら、山ほどのS字フックが詰め込まれたコンテナとその部品が取り分けてあるプラスチック製のバケツの前にしばし佇みました。

改めて回りを見渡してみると、遠く水平線まで続くリンゴの幼木の畑に動いているのは私一人でした。空高くヒバリが鳴き、ときどき優しく風が吹きました。とりあえずアリが来ると困るので、S字フックの山の頂上に昼ごはん(昨日ドラッグストアで買ったパンとハムのサンドウィッチ)と水筒を置き、ノロノロと小分けしたS字フックのバケツを持って、初めの列の2本目の木にフックを掛けてみました。もちろん一本目には、ボスのフックがかかっています。実際にやってみると以外に難しく、ボスのように掛けたつもりでもなかなか枝が広がってくれません。何度も自分のフックの掛け方とボスの掛け方を見比べること30分。なんとなくやり方が把握でき、少しづつ掛け方もスムーズになってきました。

日差しは暑いのですが、風が吹くと汗が引きます。湿度が日本と比べると低いことが実感されます。生まれて初めての経験です。日本では想像できないくらいの快適さで、「日本の夏もこんなんだといいんだけどなー」と無駄なことも思い浮かぶ余裕も少しづつ出てきます。とはいっても、間違いなく身体の水分は蒸発していくのだからと、水筒をフックのバケツに突っ込んで、時々のどの渇きを潤しながら作業を続けました。本当に私以外の生き物は地上にいないのだろうかというくらい広々とした畑に動くものが見当たりません。一人ぼっちだけれど、寂しくなかったです。きっと向こうに見えるブッシュの中には、野うさぎが隠れているでしょうし、リスだってあの木の枝で忙しくエサを探しているでしょう。私が大好きな「太平洋一人ぼっち」(堀江健一著)のなかで、主人公の堀江青年は、ヨットによる太平洋の単独横断の途中でこんなことを考えています。一人ぼっちと孤独は違います。太平洋の真ん中に一人で漂っていてもそれが孤独というわけじゃありません。日本に自分のことを思ってくれている仲間や家族がいれば、たまたまその間の距離が遠いだけで心はつながっています。でも、周りにたくさんの人間がいても、心がひとつ孤立しているとすれば、それはとても寂しい事になります。それが孤独です。確かにそう思います。

今は、ヨーロッパを一人で旅して、辿り着いた場所はイギリスです。周りには知人がいるはずもないが、ちっとも寂しくないです。日本には、友達もいるし、家族もいる。まあ最近では、忘れられているかもしれないが、私は忘れていません。今はたくさんの経験をすることで、なにかしら新しい発見をできるように生活したいです。なにかしらの生き方の道しるべが見つけられれば幸いです。それが見つけられないにしても、貴重な経験をしていることには間違いないです。今ならこれまでの大変な経験も有難いと思うようになれた。定住するようになってたった一日なのに、心の持ち方が変わりました。不思議だけれど、これも貴重な経験なのだろうと思います。

補足情報:一人ぼっちの時に心を平静に保つ心得

一人ぼっちの時に心を平静に保つためには、いくつかの心得があります。まず、現在の状況を受け入れることが重要です。孤独を感じることは自然な感情であり、それを無理に否定するのではなく、その感情を受け入れ、自分自身と向き合う時間を大切にします。次に、自己対話を積極的に行うことです。自分の感情や考えをノートに書き出すことで、心の中の整理ができます。これにより、自分が何を感じ、何を望んでいるのかを明確にすることができます。

さらに、目標や趣味を持つことも有効です。何かに集中することで、孤独感を紛らわせることができます。例えば、読書、絵を描く、楽器を演奏するなど、自分の好きな活動に没頭する時間を作ることが大切です。また、体を動かすことも心の平静を保つために役立ちます。ウォーキングやヨガ、ランニングなどの運動は、ストレスを軽減し、心身のバランスを整える効果があります。

最後に、周囲とのつながりを大切にすることです。家族や友人とのコミュニケーションを忘れずに、定期的に連絡を取り合うことで、孤独感を和らげることができます。物理的な距離があっても、電話やビデオ通話を活用することで、心の距離を縮めることができます。このように、一人ぼっちの時に心を平静に保つためには、自分自身との向き合い方や周囲とのつながり方を工夫することが重要です。

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