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狭霧 織花
2024年7月31日 17:16
暑さから逃れるための方法として、何があるか、ということがふとした会話の中で、議題となった。 冷たい飲み物。アイスキャンデー。冷風機。アカデミーの外にあるミスト発生機(ただし常に満員状態)。口々にあげてはみたが、全員が薄々感じていることは同じだった。「なんか、違うんですよねぇ」 研究室の助手が事務書類を束ねながらうーん、と唸る。魔法の研究とあらば体調、奇行、雰囲気その他あらゆる諸々を気にしな
2024年7月23日 12:27
暑いね、と言いながら手にした飲み物を手に取る。グラスにびっしりとついた水滴が、持ち手を滑らせそうになり、慌ててストローを支えた。「暑いって言うと、余計暑く感じない?」 かもなぁと返すと、だよねぇと気怠げに相づちが来る。少しのいらだちを感じたのは、疲れと暑さのせいだろう。人間、疲れてくると余裕がなくなってくる。 かといってこの暑さに対する良い表現も思い浮かばず、沈黙が続いた。普段はお互いにお
2024年7月13日 14:50
「助手よ!」 朝から元気だな、と心底思った。なんで真夏の朝イチからあんなに腹から声が出せるんだろう、あの人。 向日葵もかくやと思わせるほどににこにこしながら両手を広げ、研究室に出勤してきたところを迎え入れられたが、初対面と同じくドアを閉めて去りたくなる。 それでも現時点で、この場に立っているだけで給料が発生し始めているということを思うとそうもいかず、しぶしぶと足を踏み入れた。背中でパタン、と
2024年7月11日 13:46
魔法は芸術にも等しいのだよ、と眼鏡の奥の瞳とともに告げられた。「美しく、力強く、万物にあふれる力に働きかける。なんて素晴らしいんだ!」 ぐつぐつと煮える鍋に棒を突っ込み、ぐるぐるとかき回しながら熱弁する様子は狂気を含んでいる。ありていに言えば、怖い。狂人じみている。 正直、就職先間違ったかなと思うには十分すぎるほどだった。どおりでやけに好待遇なわけだ、と。給料なんて前の仕事より倍以上になっ