【笑ってくれないあさひくん】 #1
あらすじ
プロローグ
家が隣同士。
親が仲良し。
幼稚園からずっと一緒にいるから、好きなものや嫌いなもの、機嫌がいいときと悪いときの空気、考え事をしているときの癖、自分のことよりも相手のことの方が分かる気がする。
そんなことをあさひくんに言ったら鼻で笑われた。
んー、いまのは笑うに入らないか、なんて横目であさひくんを見る。
あさひくんはいつも無表情だ。
たとえ面白いことがあっても、さっきみたいに鼻で笑うだけ。いままで口を開けて笑ってる姿なんて見たことがない。
……少なくともわたしの前では。
少し前、あさひくんが学校の友達と一緒にいるとき、お腹を抱えて笑っている姿を見たことがある。それはそれは大爆笑である。
あさひくんってちゃんと笑えるんだ、と感心しながら見つめていたら、わたしと目が合った瞬間、スッと真顔に戻る。なんなの。
でも、薄々は感じていた。
あさひくんってもしかしてわたしの前だけ笑わないんじゃ……?
そんなことを思い、あさひくんを観察していた時期がある。
友達の前では、まぁ基本的にスンとしているけど、たまに笑うことがある。
先生の前では、無表情。
先輩や後輩の前では、無表情。
あさひくんがたまにボランティアで参加しているサッカークラブの子たちの前では、基本的にスンとしているけど、表情は柔らかい。
小さい子たちを前に無表情極めていたらそれはさすがにどうなのかと思ったけど、仲良く話しているところを見ると、うまくやってるみたい。
家族の前でも、無表情。
あさひくんママに「あさひくんって家では笑うの?」と聞いてみたら「あんまり笑わないかなぁ。そもそもなに考えてるのかすら分かんないわ」と言っていた。
そしてあさひくんと同じく、幼稚園からの幼馴染のちーちゃんと勇太くん。
わたしたちはいつもこの四人で一緒にいるけど、そんなわたしたちの前でもあさひくんはずっと無表情だったりする。
「ちーちゃんさ、あさひくんが笑ってるとこ見たことある?」
「んー、鼻で笑われたことはある」
「勇太くんの前では?」
「……あいつ、あの顔がデフォじゃん」
わたしの前だけじゃなかったのか。
結局、あさひくんを観察してても、笑った瞬間が見れたのはあの一回きりだった。
家族やわたしたちの前ですら見せないその一回は、とてもレアだったことに違いない。
そもそも幼稚園の頃からあんなに無表情だったっけ……?
幼稚園の頃から鼻で笑ってた……?
どうだったかな〜う〜んう〜んと悩んでいると、隣から「うるさ」と冷めた声。
少し短くなった髪に、新品で大きめの制服、相変わらずな無表情。
今日から高校生になるわたしたち。
高校生になっても、あさひくんは笑ってくれないかも。
登場人物
以下、笑ってくれないあさひくんに登場する人物たちです。
新しく登場するたびに書き足していきます。
あさひ :一ノ瀬 あさひ(高校一年生)
柚 :大井 柚(高校一年生)
千束 :和田 千束(高校一年生)
勇太 :朝倉 勇太(高校一年生)
陸兄 :久住 陸(高校三年生)
めぐちゃん:柚ママ
ハル :柚の家で飼っている柴犬
凪 :柚の弟
純也 :ちづの弟
かなちゃん:あさひママ
てるさん :喫茶店の店主(ゆずのバイト先)
サブさん :古本屋の店主
ブタさん :八百屋の店主
茨木悦子 :国語の先生