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【笑ってくれないあさひくん】 #16


 翌日、学校終わりに駅裏のカフェに寄ってあさひくんと二人、わたしは抹茶のパフェ、あさひくんはチョコのパフェを頬張っていた。抹茶とチョコで悩んでいたわたしに「二つとも頼んでシェアすりゃいいじゃん」と魅力的な提案をされ、ありがたくそうさせてもらう。


「そういえば、昨日ちーちゃんにラインしたの?」
「ちづに?なんて?」


 放課後、あさひくんから職員室に行くから教室で待ってて、と言われたので、ちーちゃんと一緒に待とうとしたら、ちーちゃんは「柚ちゃん、じゃあね」とわたしの横を通り過ぎる。


「あれ?ちーちゃん帰るの?用事?」
「うん?柚ちゃんはあさひくんと用事あるんでしょ?昨日、あさひくんからライン来たけど」
「え?そうなの?」
「え?違うの?」


 「用事は……あるかも……?」と曖昧に答えたわたしに「うん?じゃあね?」と頭にハテナを浮かべながら去っていくちーちゃん。わたしもちーちゃんと同じ顔してたと思う。
 カフェ行く以外に約束してたっけ?
 忘れてたら怒られるよね?
 え、なんだなんだ、何の約束だ、と頭をフル回転させる。


「……ず……ゆず!柚!」
「っわ、びっくりした、早かったね」
「行ける?」


 という出来事を経て、今に至る。
 「なんか約束してたっけ」とあさひくんの顔を伺いながら聞いてみると「や、べつに?」と何ともあっけない返事にホッとする。
 でも……


「用事ないのに用事あるって言ったの?」
「あいつらいるとうるせぇから」
「今度はみんなで来ようよ」


 ふっと鼻で笑い、自分のパフェとわたしのパフェを交換。
 あさひくんは甘いものを食べてるイメージがない。なんなら苦手な方だと思う。普段飲むものもブラックコーヒーやお茶だし、寄り道して食べるクレープもしょっぱい系を選ぶ。
 パフェを提案したのは間違いだったかなぁ、なんて思ったけど(意外と)美味しそうに食べている。


「どっちの方が好き?」
「何が?柚と二人んときか、みんなでいるときか?」
「違くて、抹茶とチョコ」
「あぁ。どっちでもいい。柚は?」
「ん~、どっちも好きだけど、チョコの方が好きかな」


 はい、とチョコの方を渡される。


「柚は?二人んときとみんなといるとき、どっちが好きなん?」
「ん~、あさひくんといるときは楽しいっていうより落ち着くが勝つけど、みんなでいるときは楽しいが勝つかなぁ。どっちも好きだよ」
「俺は柚と二人んときの方が好きかも」
「え?」
「こうやって、柚とのんびり過ごしてる方が好き」
「……二人が聞いたら泣いちゃうよ」


 びっくりした。
 ドキッとした。

 あさひくんは普段から自分の意見をはっきりと口にするから、良い意味でも悪い意味でもドキッとする発言が多い。いまのは免疫がついているわたしでもドキッとした。
 危ない危ない、あさひくんじゃなかったらキュンとしてた、と心を落ち着かせる。

 それから、いつも通りのあさひくんといつも通りに徹したであろうわたし。
 パフェを食べ終えてレジに向かうと「ここは俺が出します」とあさひくんが財布を持つわたしの手を阻止する。


「いいよ、割り勘にしようよ」
「いいから」
「なんでよ」
「給料が出たので」


 流れるようにお会計をして店の外に出るあさひくんを追いかけて、しつこく話を聞くと、バイトして初めての給料が出たこと、初めての給料は一番に柚(わたし)のために使いたかった、とのことだった。


「なんでわたし?」
「なんとなく」
「そこはかなちゃんたちが一番じゃないの?」
「あの人らにもなんか買う」
「え~、じゃあもっといっぱい頼めばよかった~」
「また今度な」
「ちーちゃんや勇太くんには?」
「あいつらはすぐ調子乗るから」


 あ~、だから二人が良かったんだ。な~んだ。

 ……『な~んだ』って。
 何が『な~んだ』なんだ、わたし。

 ふとした感情に戸惑う。
 あれもこれもあさひくんがあんなこと言うから、変に意識してしまう。
 そんなことを考えているわたしに構わず、どんどん先を歩くあさひくん。あさひくんは幼なじみで、友だち。それ以上でもそれ以下でもない。いままでもそうだったし、これからもそう。


「柚」


 先を歩いていたあさひくんが、振り返ってわたしを待ってくれている。
 ごめん、と少し早歩きをしてあさひくんに追いつくと「また考え事?」なんていままで何百回も言われてきた言葉を聞いて、さっきの感情、『な〜んだ』に隠されたは勘違いだろう、と思うことにした。

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この小説は、小説家になろうで掲載している作品です。
創作大賞2024に応募するためnoteにも掲載していますが、企画が終わり次第、非公開にさせていただきます。

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悠木ゆに yune
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