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#哲学

『ピュウ』 キャサリン・レイシー

『ピュウ』 キャサリン・レイシー

こんなに心に訴えかける本はなかなかない。とにかく読んでほしい一冊だ。

この物語の視点であり語り手は、ピュウと呼ばれる人物であり、これは、ピュウがある町に現れてからの一週間の物語である。

どこから来たのか分からない。人種も年齢も、性別も定かでない。何を聞いても一切言葉を発しない。そんな不思議な少年/少女が、ある町にある日突然姿を現し、住民たちは彼/彼女をピュウと呼ぶようになる。

ピュウ(pew

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『中学生までに読んでおきたい哲学』 松田哲夫(編)

『中学生までに読んでおきたい哲学』 松田哲夫(編)

あすなろ書房から出ている「中学生までに読んでおきたい哲学」というシリーズが素晴らしいので、ぜひ紹介したいと思う。

全8巻のシリーズで、それぞれ、愛、悪、死など哲学的なテーマが掲げられており、著名な書き手達による文章が、巻ごとのテーマに沿って選ばれ収録されている。
「日常の暮らしの中に潜んでいる哲学的な問いかけを探り当て、自分の頭で考えるきっかけとなるような文章を集めたアンソロジー」(編者松田哲夫

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『そんな日の雨傘に』 ヴィルヘルム・ゲナツィーノ

『そんな日の雨傘に』 ヴィルヘルム・ゲナツィーノ

「自分は、自分の心の許可なくここにいる」という気分を抱えて生きている男の物語である本書のカギは、「存在許可のない人生」、「無許可人生」という人生観だ。

初めから終わりまで、なにやら面倒な感じの中年男が町を歩きながらつらつらと心中で呟く独白が繰り広げられる。
町や河畔をひたすら歩き、時々アパートに戻り、またはカフェで食事をし。知人の姿を見つけると対面せずに済むようにこそこそ避けたりもする。
そうし

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リスボンへの夜行列車

リスボンへの夜行列車

『リスボンへの夜行列車』 パスカル・メルシエ

素晴らしい頭脳の持ち主だが、地味で面白みのないギムナジウム教師グレゴリウスが、ある日偶然出会った女性をきっかけに、突然、仕事を投げ出して出奔する。

大まかな筋だけ書くとまるでミステリーかファムファタルものか、エキセントリックなロードノベルのようだが、本書を一言で言うなら、哲学書である。それも、とびきり素晴らしい哲学書である。

たしかに、ミステリー

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