支援職者としての原体験

はじめに

現在、私は支援職者として、企業領域における人材開発と組織開発のご支援に主軸をおいています。その中でも、組織の成功循環モデルでいう「関係の質」向上に焦点を当て、対話型組織開発によるミドルマネジメント層の人材開発に力を入れています。

「関係の質」向上でよく表現されるのは、エンゲージメントです。エンゲージメントは、2者の「間」の強さを表現したもので、私は支援職者として、この「間」を向上させることを大切に考えています。今回は、少し恥ずかしいこともありますが、現在のご支援の形に至った背景を紹介します。


現場で愚直に取り組んでいた日々

私は、新卒で総合人材サービス会社に入社し、人材派遣や人材紹介のエージェント、業務委託のPM&SV、キャリアコンサルタントとしての面談、社員研修、組織構築など、企業の人事課題における人材活用ソリューションを提供してきました。というと聞こえはなんだかかっこいいコンサルみたいですが、実際の現場は泥臭く、想定外のことばかり起きる日々。365日24時間稼働状態でトラブル対応も多かったですが、若さゆえ、愚直に、結構、直球気質に、様々な困難を乗り越えることができていました。


緩やかな状況にも関わらず襲われた心身不調

新卒で配属されかなりハードだった上記部署から異動になり、しばらくして、実は1度、心身不調によりダウンしたことがあります。その当時は、労働時間や求められるタスク、役割は多くはなく、見た目としては健全でホワイトな生活を送っていました。その時の心身不調の具体的な症状は、以下のようなものでした。

・寝つきが悪く、夜中に何度も覚醒し、睡眠の質が落ち、日中、眠い。
・食欲不振であまり食べられない。
・不安や恐怖感がさっとよぎり、激しい動機が頻繁にある。
・これまで普通にできていた業務でミスが多発する。
・とにかく誰かに頼りたい。 

また、自分の周囲の環境としては、以下のような状況でした。

・上層部から頻繁に意味不明なExcelやシステムに情報入力の指示が飛んでくる。
・上司が忙しすぎて、言葉を交わすことがほぼない。
・たまに話を聞くと、チームが訳わからない状態になっている。
・チームの中で自分が何をしていいのかわからない。
・現場のためを考えて取ろうとする行動を、会社として拒絶される。
・どこを向いて事業やサービス展開をしている会社なのか、失望する。
・何が何だかわからず現場対応のみしていたので、孤独感がすごかった。

今だからわかることもありますが、会社として、組織として、チームとして、普段の活動や業務が何の意味があるのかがわからなくなり、自分の考えとのギャップが大きくなってしまいました。つまり、思考や感情と、取っている行動のギャップが大きくなってしまったので、心と体のバランスが崩れてしまったのでしょう。当時の感覚としては、まさに「心ここにあらず」状態で、毎日を過ごしていました。


自分にとってつらかったこと

私にとって最もつらく感じたのは、周りのメンバーや上司、チーム、部門、会社が、何やら動きがあるのに、その動きをキャッチできず、知らされず、孤独感に襲われたことでした。そしてそれは、以下のような考えにつながっていきます。

・自分は何のために人材ソリューションをこの会社でやっているのだろう…
・そもそもみんな何しているのだろう…
・やばい!おいていかれる!ついていかなきゃ!
・自分はこの会社、この組織では、存在価値がないんだな…

私は支援職者として、「個人と組織の融合」をモットーとして掲げています。上司‐部下、個人‐チーム、現場‐経営などの「間」の支援にこだわっているのですが、それは自分が心身不調でダウンした経験からでもあります。そして、当時、私にとって足りなかったものを思い返すと、以下の理解だったのかな、と今では思います。

・会社&事業理解
会社として何を考え、市場に価値を提供しようとしているのか。
・組織&チーム理解
上記を受けて、自分の所属組織やチームは何を目指すのか。
・上司理解
自分の所属チームを上司がどのようにしたいのか。そのために自分は上司に何を期待されているのか。
・越境理解
他メンバーや他部署が何をしているのか。


潜在的孤独感を感じる人は多いのではないか

最近は、社会情勢の変化や雇用の流動化、働き方の多様化により、フリーランスや業務委託など、PJやチーム業務をタスクに切り分けて遂行することも多いでしょう。そして、それは効率的で、「自分の役割だけこなせばよい」「与えたタスクだけやってくれればよい」と考えがちな風潮もあるのではないでしょうか。

個人的には、それはその場限りで終わってしまい、未来に向けたイノベーションを生み出しずらいのではないかと感じています。そして、業務における契約関係のみでつながれ、潜在的孤独を感じる人もいるのではないでしょうか。労働人口が減少する中、企業は持続可能組織になるために、求職者や社員に「ここで働くことが幸せである」と感じてもらい、選ばれるようになる必要があるでしょう。そのために、採用活動の段階から社員定着や退職までの一連の体験価値を向上させる取組みの重要性が増しています。それが最近話題の人的資本やISO30414にもつながります。


心身不調からの脱却

私は支援職者としてやってきていたので、なんだかんだで乗り越えました。以下がその方法です。

・何よりも最初に体調回復を優先。全てを忘れて、よく寝て、よく食べて、運動する。
・人間は不思議なもの。自然にエネルギーが戻ってくる。
・自分の状況を上司だけでなく、先輩や後輩、同僚、他部署の人にも話しまくる(愚痴りまくる)
・意味づけできない業務には入り込みすぎない。

そして、結局、最後は「自分の存在価値は自分でつくることが大切だな」という考えにたどりつきました。たとえ誰からも必要とされないと感じても、「自分が自分を必要としている。それだけでいいじゃないか」と。それに気づくには、自分の感情と認知に触れた自己理解が必要でした。だから、自分自身を振り返る時間を定期的に取ることは大事だと、今も思います。


過酷な環境下でもいきいきできていた理由

ちなみに、新卒から配属されていた超過酷状況の部署では、日々、元気に楽しみを感じていました。その大きな要因だったのは、一緒に乗り越えた直属の上司の存在でした。彼は一見、お調子者で軽い印象をもたれていましたが、日常的にメンバーに声をかけ、くだらない話もし、自分も大変な状況にも関わらず、とにかくメンバーみんなを気にかけていたのが、当時の私でもわかりました。

私はその上司と毎晩のように喫煙所トーク(私は喫煙しないので、毎回缶コーヒーをいただいてました)をしていました。ここでは正直、上司の愚痴を聞く役になっていたのですが、自ら「会社でこんな非常識?なこと求められて…」「最近のメンバーどう思う?」「結構、俺、大変なんだよね。やばいよね」など、自己開示をとてもよくしてくれていました。その流れで、組織が、会社が今、どのような考えでいるのか、他メンバーや他部署が何をしていてどのような状況なのかを知ることができました。

それらを知った上で日常の現場業務をしつつ、先を見据えた一手や、メンバー育成&フォロー、他部署との折衝、役員や社長などの上層部との付き合いなど、うまく立ち回ることができていました。彼と一緒に挑戦できていた時が、今でも自分の中でかけがえのない財産になっています。

わくわく働きいきいき生きるためには、残業時間やハードタスクといった外的要因よりも、上司やメンバー、他部署や会社などとのつながり、つまり「間」の関係性が高いことが必要なのだと実感しました。当時、彼との「間」でできていたことは、以下のようなことだったと思います。

・上司からの自己開示と、自分の自己開示
・上司からの会社や組織、チーム方針の共有
・上司からの役割期待の提示とフランクな提案機会
・上司からの他メンバーや他部署の状況共有

結果的に私の思考の質は高まり、行動の質、チームとしての結果の質向上に結びついていました。


自己理解と「間」

私は、企業領域での人材開発や組織開発だけでなく、個人向けキャリアカウンセリングも行なっています。自分に向き合う。自分をもっとよく知る。そして、自分が自分を必要としている。そう思えることが習慣化される人は、レジリエンスも高まると感じます。

私自身は1人では激弱です。今も結構、「お前、意味わからないよ」「何言ってるんだよ」「状況読んでやってくれよ」「うっとおしいな 苦笑」などと思われ、周囲に迷惑をかけてしまっていることもあります💦きっと、この弱さは一生変わらないでしょう。しかし、自分の状態を知ることで、仲間や同僚の力を借りることはできます。きっと強く見える人は、そういうことに気づいて行動に移せているのでしょう。

また、2者の「間」が、ワークエンゲージメントやチームエンゲージメントにも影響を与えます。わくわく働きいきいき生きるために、この「間」の大切さに気づくことが、マネジメント層がメンバー育成や組織としての成果をあげるための一歩になると思います。また、個人を「孤独」から救い、メンタルダウンさせない環境や関係づくりにもなります。


まとめ

ブラック企業的な労務環境やハードタスクだけが、社員の心身不調を起こすとは限りません。残業が少なく、緩く、ホワイトに見える環境下であっても、組織では心身不調者は出ます。これは個人の問題ではなく、先述したそれぞれの2者の「間」に起因するものです。

社員を大切に、候補者や社員に選ばれる企業組織になるために、人的資本としてみなすためには、健康経営の観点からのストレスチェックや労務管理、福利厚生、働き方の多様化など、外的環境を整えることはもちろんですが、盲点になりがちな内的要因となる働きがいや意味づけ、関係の質の向上に意識を向けること。そのために「間」をケアすることの大切さを実感してきました。

不明瞭な時代、企業にとっては持続可能組織になるため、個人にとってはわくわく働きいきいき生きて幸せであるために。このような自分がダウンした経験から、充実した「間」の支援を事業として提供することこそが使命だと考え、今、ご支援させていただいています。

「わくわく働きいきいき生きる人と、そのための環境と関係を支援する」
Life Career Voyage


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