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カフカ『変身』新潮文庫 1952

ある朝、気がかりな夢から目をさますと、自分が一匹の巨大な虫に変わっているのを発見する男グレーゴル・ザムザ。なぜ、こんな異常な事態になってしまったのか……。謎は究明されぬまま、ふだんと変わらない、ありふれた日常がすぎていく。事実のみを冷静につたえる、まるでレポートのような文体が読者に与えた衝撃は、様ざまな解釈を呼び起こした。海外文学最高傑作のひとつ。

この作品を読んで、疑問嫌悪感が多いのと同時に、かなり教訓めいたものを感じた。

大きな違和感を感じたのが、なぜ虫になってしまったのか、どうすれば元に戻れるかについて、全く言及していない点。
虫になったグレーゴル本人やその家族でさえ、誰もその理由や解決策を考えようとしていない。

グレーゴルもその家族も、理不尽すぎるその状況に理解が追いつかず、考えることを諦めてしまったのかもしれない。

また、家族の薄情な様子も印象的である。
特に印象に残ったのが、グレーゴルが死んだすぐ後に、家族総出で暇をもらうシーン。この時すでに、家族はこれからの足枷のない未来を想像しているように見える。

先の見えない不安に追い詰められた人間に残るものは、自分本意な面だけなのかも知れない。人間不信になりそうだ。

もともと不条理で悲劇的な話と聞いていただけあって、ネガティヴな印象が強くて笑える様な話ではなかった。
題材は面白いが、作品を俯瞰で読めず、主人公に感情移入してしまう私からすると、あまりにも救いがなかった。

しかし、介護や引きこもりの問題に対するメタファーだと読み取れば、この小説ほど今の日本に必要な本はないと思う。
この作品の感想は、読み手の解釈によって激変するのだろう。そういう懐の深さを感じさせるのは、さすが海外文学の最高傑作と言われるだけある。

この世は残酷で薄情。流れに身をまかせるだけではダメ。いつかどこかで勇気を出して行動しなければ、道が開かれることはない。

勝手にそう感じ取りました。絶望名人カフカはどんな気持ちでこの話を執筆したんだろう…

All human errors are impatience, a premature breaking off of methodical procedure, an apparent fencing-in of what is apparently at issue.
人間のあらゆる過ちは、すべて焦りから来ている。周到さをそうそうに放棄し、もっともらしい事柄をもっともらしく仕立ててみせる。
- Franz Kafka (カフカ) -
There art two cardinal sins from which all others spring: Impatience and Laziness.
人には他のあらゆる罪悪からなる二つの主な罪悪がある。短気と怠惰だ。
- Franz Kafka (カフカ) -

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