宇宙杯選者の一人、亀山こうきの特選6句の発表(亀山賞)
投句数458句。参加者179人という相変わらずの規模の、我らが「みんなの俳句大会」。なんかもう凄すぎて、このペースでいけば俳句界における一大ムーブメントになり得るのでは?等と妄想している次第であります。
俳句を始めた時は、俳句は限られた人間の文芸だから…と信じこみ、外への活動を諦めていました。しかし間違いでした。みなさんのおかげで私は俳句の凄まじさを再認識しています。俳句は詩であり、日常であり、一部の限られた天才達とも肩を並べ楽しめる、唯一無二の文芸です。俳句を信じさせてくれて皆さん本当にありがとうございます。
そんな中で、ご投句いただいた句から、小生が気になった句を上位6句+予選6句の計12句を紹介させていただきます。やはりすべての句についてコメントしたいのですが、尋常ならざる量になってしまうのでご容赦ください。
それでは早速、
・春の亀山賞(特賞)
生春巻に透く春や海老ニつ
作者 プッククン さん
結構な量の俳句を読んできていると自負している私ですが、記憶する限り類句・類想句が一つも思い浮かびません。それだけオリジナリティに溢れた独特な句だと思います。
しかも、句としても完成されていて、歳時記の季語「春」の良い例として載っていても何ら不思議でないレベルです。
17音しかない俳句において、自分の湧き上がる気持ちを伝えることは容易ではありません。「楽しい」といえば「楽しさ」は相手に伝わるでしょう。しかしそれ以上は伝わりません。心の細部にある、自分らしさというか、「自分が一体何に楽しいと思ったのか」という、本当に相手を理解する上で大事なことは伝わりません。
その問題を解決するため、高浜虚子という俳人は「客観写生」を俳句の技法の基礎と捉えました。見たまま、あるがままを、主観を排除して言葉にする。冷徹なまでに写生をやり抜けば、自ずからその一場面を切り取った人の心持ちは、17音から溢れ出す。そう考えたのです。
この句がまさにそうです。春。ベトナム料理を食べた。それは生春巻きに透ける二つの海老だった―それだけのことを伝えます。
しかし伝わってきますね。春の喜びが。一匹ではなく二匹だったというささやかな驚き、喜びが。透ける春巻きと、きらきらとした春の喜びが絶秒にマッチしています。また、「はる」という韻が小気味良く、句にリズムを作っています。
嬉しい。楽しい。言わなくても言葉を的確に捉えられれば。しかるべき順に配置さえすれば。たった17音でも、すべて伝わるんです。
「春」を用いた季語の句としては、正岡子規の『春や昔十五万石の城下かな』と並んで私の中に記憶されるに違いない句。いつの日か亀山こうき選の歳時記を編む際には是非使わせていただけたらと思います。
素晴らしい句をありがとうございました。
・亀山賞次席(2位)
時計の音きこえてもう春終わるって
作者 青海エイミー さん
『「そうだね」と私は返事をした。でも終わるのはきっと「春」ではなくて、私たちの関係なのだろう。リビングの時計の音が静かに、それでも嫌にはっきりと聞こえてきて、もう本当に駄目なんだなと思った―』
などと、柄にもなく句の続きを妄想してしまうほどのリアリティを持った一句。
この句の凄いところは、時計がその場にないことですよね。時計を見ながら、「もう春が終わる」と言われても「ふうん」ぐらいにしか思いません(私だけでしょうか?)
時計は聞こえてくるだけなんです。「春が終わる」と言っている人は時計を見ていない。何か別の物を見ています。そして普通「春終わるって」なんて言いません。話をはぐらかしたかったのか、話題を変えたかったのかはわかりませんが、ただ緊迫感は伝わってきます。
この句は「春以外の季語」でも成り立つのかもしれませんが、私は春という舞台だからこそ選びました。朧夜のような、どこか妖艶とした雰囲気の中で、恋人、あるいは思い人にそう告げられる。そんな舞台設定に支えられているからこそ、滅びへと向かう関係性の美しさがより一層際立っているように感じたのです。
飾らない、ありのままの一句をありがとうございました。
・3位
兄に手を引かれ登校チューリップ
作者 キラキラヒカル さん
芝不器男という伝説的な俳人の句に『卒業の兄と来てゐる堤かな』というものがあります。私はキラキラヒカルさんの句を見て、すぐさまこの句を思い出しました。
素敵なお兄さんだったのでしょう。小学校に上がりたての私の手を取って、いろいろ教えてくれた。この葉っぱは吸うと甘い。この道を行くと近道になる。この家には大きな犬がいるから気をつけろ。
家では意地悪で、喧嘩も多いお兄さんがこの時ばかりは、とても頼もしく見えたことでしょう。「何か困ったことがあれば、兄ちゃん言え。兄ちゃんが助けてやる」。入学したての喜びと不安に満ちた、私の支えとして兄と、チューリップが見事に決まっています。
芝不器男の句は、この句の数年後のお話だと今では思っています(笑)
暖かい一句をありがとうございました。。
・4位
馴れ初めを祖母は語らず桃の花
作者 めろ さん
馴れ初めを語らないということは無口なおばあ様だったんでしょうか。もしかすると、おばあ様はもう亡くなられていて、お話を聞ける状態にないのかもしれません。
しかし、桃の花。馴れ初めは語られないけれど、きっと幸せな結婚生活を送ってこられたのだと思います。少なくとも、作者から見たおばあ様は幸せな人生を送ってきたと、十分感じられているのではないでしょうか。
宇宙杯みんなの俳句大賞受賞も納得の作品です。おめでとうございます!
・5位
春雷やgodzillaの脚が都市を踏む
作者 Foliage Poet さん
中七下五のインパクトがすさまじいですね。ここではいろんな解釈ができそうですが、私は昔のゴジラの特撮現場。着ぐるみゴジラがミニチュアの街を破壊していく様を思い浮かべました。緊迫感のある現場に春雷が鳴り響く。クリエイティブに生きる人たちの緊張感や覚悟を感じ取り、頑張らねばと思った次第です。
『シン・ゴジラ』を何十回と見ている私。石原さとみさんの、独特のゴジラの発音でこの句、読んで楽しんでいました。
・6位
喫茶席おかれたままの春日傘
作者 蒸しエビ さん
情景がありありと浮かびますね。おかれたままというのは、忘れ去られたということでしょうか。春は夏程に日差しが強くはないですが、それでも気を遣う女性。そんな女性が、忘れてしまうほど深刻な話をしていたのかもしれませんね。
寂しい。悲しい。空しい。喫茶席におかれた日傘を見て、作者は悲しみを噛みしめていたような、そんな気がします。
・その他最終候補6句の紹介
死に場所はそこでええんか石鹸玉
たまごまる さん
やわらかな爆弾抱いて春の恋
蟹沢ちゃむ さん
争いもなかったことに四月馬鹿
春野惠 さん
行く春にシャッター下ろす写真館
レモンバーム さん
ベトナム料理店ライスに混ざる春夕焼
プッククン さん
*特賞の人。凄すぎて嫉妬すらする(笑)
春遅遅の悔いや夢精の生乾き
菊池洋勝 さん
・次回のみんなの俳句大会『鶴亀杯』について
みんなの俳句大会、夏もやります。もう一周年なんですね。凄いです。
そして、僭越ながら、つるさんと一緒にホストを務めさせていただきます。
私は俳句でしか、物を語れない人間です。至らぬ点も多々あるかと思いますが、精一杯務めさせていただきます。
運営の皆様。ご参加くださる皆さま。何卒よろしくお願いいたします。
・他の先生方の選者賞のリンク
・ご投句一覧
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