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娘の夢

夢のきっかけ


次女の夢は舞台役になること。

その夢のきっかけとなったのは、娘が小学校2年生の時。

私と長女が出演した市民ミュージカルを観劇したことが、きっかけでした。

市民ミュージカルとは、平成16年に市町村合併で新しい市になったことを記念して始まった企画で市民から出演者を募集し、ミュージカルを上演するというもの。

素人集団とはいえ、市内の大きなホールで本格的な舞台美術、音響を使用した、素人とは思えない立派な舞台です。

小学校4年生から上は80歳代まで、いろいろな職業、いろいろな経歴の人たちで作り上げる舞台で2年に一度、開催されています。

私と長女が出演した舞台を観て以来、自分も市民ミュージカルに出たいと
ずっと思ってきた次女が、始めて出演できたのは、小学校6年生の時でした。

長女が出演した時は、小学生の出演者は2名しかいませんでした。

しかし、次女が参加した時は、多くの小学生が前回のミュージカルから参加しており、

初出演の娘は、出演経験者の子供たちのなかで、少し居心地が悪そうでした。

キャスト(配役)はオーディションで決まります。

演出の方が、オーディションの様子を見て、その人に最適の役を決めるのです。

配役の発表をしながら、本読み(台本をその役の人が順番に読んでいく稽古)が始まりました。

「和子役○○ちゃん。さとこ役△△ちゃん・・・」などと、発表があり、その場面の稽古が始まります。

いつまでたっても、娘の名前は呼ばれません。

だんだん、うつむく娘。

(初出演だから、忘れられているのだろう)と私は思いました。

よっぽど「うちの子の名前が呼ばれていません。」と言おうかと思いました。

でも、もう6年生。自分で言わなければ、と我慢しました。

稽古の場面が進み、子供たちの中での主役「のぶ」が出てくる場面になりました。

「のぶ役・・」そこで呼ばれたのは、娘の名前でした。

初出演で主役!

私も、周りのお母さん方も、他の子どもたちもとても驚きました。

その中でも一番驚いていたのは、娘本人でした。

娘は、のぶ役を見事に演じました。

その後、高校を卒業するまで、市民ミュージカルには4回出演しました。

どんな脇役の時でも、楽しそうに、嬉しそうに演じている娘を見て、

私もとても嬉しく思っていました。

舞台役者の道へ

進学の時、

「舞台役者になりたい」と舞台芸術学院という舞台役者を育てる専門学校に進学することになりました。

2020年春。

世の中は、コロナ禍。

4月に予定されたいた入学式は延期となり、娘が上京したのは、6月でした。

当時、病院に勤めていた私は、娘と一緒に東京に行き、生活する部屋を整えてあげることができませんでした。

幸い、私の姉が東京にいたので、姉に娘の引っ越しの手伝いを頼みました。

見慣れた地元の駅のホームで、娘を見送りました。

コロナになるかもしれない、東京で事件や事故に巻き込まれるかもしれない、私にとっては、娘を戦場に送り出すような気持ちでした。
今度会えるのは、いつになるだろう。

でも、笑顔で見送りたいと、一生懸命涙をこらえて、見送りました。

電車が小さくなった頃、抑えきれずに流れ出た涙をぬぐいながら、駅を後にしました。

上京する朝、私は娘のバックに手紙を忍ばせました。

電車の中か、どこかで読んでほしいと。

夢を持って旅立つ娘に向けた、はなむけの言葉。

多分、こんな内容だったと思います。

「あなたは、舞台の上でいつもとても輝いています。

私は、あなたの第一号のファンとして、

一番熱烈なファンとして、ずっとあなたを応援し

見守り続けます。

あなたの夢が叶うことを、心から祈っています。」

その夜、娘から電話がありました。

娘「お母さん、手紙ありがとう。

新幹線の中で、号泣するかと思った。

でも、さすがやな、お母さん。」

私「なにが?」

娘「ちゃんと、笑いをぶち込んできて」

私「笑いなんて、入ってた?」

娘「夢が叶うの、叶うって漢字、線が一本多かったよ。
  夢が叫う。ってなってた。(笑)
  あれがなかったら、ほんとに号泣してたわ。
  ちゃんと笑いを入れてくるあたりが、さすがやな。」

笑いを入れたつもりは全くなく、もちろん、ただの書き間違い。

叶う(かなう)、と書いたつもりが、叫う(叫ぶ)になっていたのです。

感動の手紙に、しっかりオチをつけてしまったのでした。

でも、娘が新幹線で号泣せずにすんだのだから、結果オーライです。

そんな娘も学校を卒業し、この春からは、準劇団員としてアルバイトをしながら、舞台役者の道を進んでいます。

卒業前、ありがたいことに、卒業公演を見に来ていたプロダクションから
スカウトしていただきました。

役名もない、その他大勢の中の一人だったにも関わらず、です。

「どうして私を選んでくださったんですか?」

と娘がプロダクションの方に尋ねたところ

「うーん、どの場面でチェックしたのか覚えてないけど、とにかく、君は楽しそうだった」

と言われたそうです。

せっかくのお話でしたが、そのプロダクションは映像がメインのお仕事だったので、舞台にこだわる娘は、劇団を選びました。

その劇団、東演の舞台が11月20日から上演されます。

お近くの方は、ぜひ、ご来場ください。

ここまで読んできて、なんだ結局宣伝なのか、と思われた方。

申し訳ありません。

遠く離れた母親が、娘にしてやれるささやかな応援ですので、
どうかお許しください。

公演詳細

https://t-toen.com/stage/163.html

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