見出し画像

ローンチ1年でPMF、2年で6,800万ドルを調達。ブランドの在庫問題に挑むB2Bマーケットプレイス「Ghost」

こんにちは。Z Venture Capitalでコマース領域を担当している内丸です!

普段からコマース領域の情報発信やマニアックな事例研究を行っておりますので、是非ともTwitternoteのフォローして頂けると嬉しいです。
注目のスタートアップを通して、市場のチャンス・ビジネスアイデアのヒントを見つけたいと思います!


今回は、ブランドと小売店をつなぎ、過剰在庫を売買できるBtoBのマーケットプレイスを提供する「Ghost」を紹介します。

2022年に設立されたGhostは、2022年7月にシリーズAで2,000万ドル、2023年8月にシリーズBで3,000万ドルの資金調達をおこいました。
破竹の勢いで成長するGhostは、業界のどのような課題に着目し、どのようなソリューションを提供しているのか。
その裏側を探っていきます!



ブランドの在庫問題と解決策

ご存じのとおり、季節性がありトレンドの影響を大きく受けるブランドビジネスにおいて、「在庫管理」は競争力・収益力に直結する最大の経営アジェンダの1つです。

例えばSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)でトップを走るZARAは「在庫の最適化」を競争優位の源泉としている会社として有名です
ZARAは徹底した小ロット短サイクル生産によって、棚資産回転日数のKPIでもファーストリテイリング・H&M等の競合と差をつけています

ZARAのサプライチェーン

在庫の最適化に失敗すると会社として大きな損失を受けることになります。例えば、GAPは、2022年の物価上昇や消費者行動の変化で粗利率は8.2%悪化しましたが、そのうちの2.2%は値引き率の上昇に起因するものでした。

ではこれまで、ブランド各社は在庫問題にどう対処してきたのでしょうか?
アプローチは大きく2つに分類できます。
事前対策としての「生産量・流通の最適化」もしくは、事後処理としての「過剰在庫の最適化」の2つです。

①生産量・流通の最適化

1つ目の「生産量・流通の最適化」は、必要な時に必要なだけ製造して売りきることを究極の目標とするものです。
多くの大手ブランドは、店頭・倉庫の在庫データから需要を左右する市場のデータまであらゆるデータを集約し、AI等によって最適な生産量・流通を算出しています。

大手ブランドもM&Aによって、在庫管理や需要予測の技術を獲得しております。
NIKEは2019年に需要予測を行うAIスタートアップ「CELECT」を買収
GAPは2021年に同様に需要予測に強みを持つAIスタートアップ「CB4」を買収

小規模のブランドになると、大量の購買データの蓄積もない・大規模なシステム投資ができないので、有効な対策を打てていないのが現状です。
超大手のGAPですら在庫コントロールが難しいのですから、小規模ブランドにとって、尚更難易度が高いことは想像にたやすいと思います。

GAPが買収した「CB4」の需要予測ワークフロー

②過剰在庫の最適化

2つ目のアプローチは事後的な処置にはなりますが「過剰在庫の最適化」です。
具体的な方法としては、店頭・ECでの安売りやファミリーセールなど自社チャネルで解決する方法、そしてあまり皆さまには馴染みがないかもしれないですが「オフプライス小売店へ販売する」という方法があります。

オフプライス小売店は、ブランドの余った在庫を格安で調達し、自社の店舗で格安で販売するというビジネスモデルを採用しています。

この市場に目をつけ、オフプライス小売店として成功を収めた企業の1つが「T.J. Maxx」です。日本人にとっては馴染みの薄い名前かもしれませんが、米国では非常に有名な小売企業です。

T.J. Maxxの店頭写真

T.J. Maxxは、100か国以上/ 21,000以上のメーカ・小売店の過剰在庫を買い付け、元の価格の20~60%で販売しています。

そんなT.J. Maxxを傘下に持つ「TJXカンパニーズ」は、年間売上約500億ドル、時価総額は1,000億ドルを超える巨大企業となっています。

TJXカンパニーズの株価推移
TJXカンパニーズの財務成績


オフプライス小売店の問題点

アメリカの小売業者の在庫高は$5,000億ドル越え(2022年7月時点)であり、2021年から21.6%増加していると言われています。この市場拡大を受けて、T.J. Maxxは2023年に150店舗をオープンしています。
また、T.J. Maxxの同業である「Ross」は100店舗増、「Burlington」は80店舗増と同様に店舗拡大しております。

オフプライス小売店はこのように成長を続けています。ブランド側の立場でも過剰在庫を処理してくれる救世主のように思えます。
しかし、ブランドからしたら良い事ばかりではありません。

オフプライス小売店で販売することで、例えば、
・大衆的な店舗(T.J. Maxx等)で自社ブランド商品が販売されることになる
・自社ブランドが販売される市場価格のコントロールが効きにくくなる
(ブランドが販売したい価格から値引きされて販売されるため)
等の問題が発生し、ブランド価値の毀損するリスクがあります。
さらに、従来のオフプライス小売店では大きいロットでの取引が是とされるため、中小のブランドは相手にされないことが多いです。

そして、このような従来のオフプライス小売店が抱える課題を解決し、T.J. Maxx等のオフプライス小売店が持つ市場シェアを奪っているのが「Ghost」なのです。

Ghostの創業ストーリー

Ghostは、Dee MurthyとJosh Kaplanの2名によって2021年に設立されています。
Dee Murthyは複数のアパレルブランドを傘下に持つFive Four Groupの創業者であり、Josh KaplanもFive Four Groupでブランドの経営者として働いていました。

創業者のDee MurthyとJosh Kaplan

2人はアパレルブランドの運営を通して、ブランドビジネスの在庫問題を身をもって体験しました。その後、Equal Ventures等からシード出資を受けて、2021年10月にGhostをステルスでリリースします

そして、翌年2022年7月にステルスモードを脱するとともに、Union Square Venturesをリード投資家とするシリーズAラウンドで2,000万ドルの資金調達を行います。
このときには、既に「数百万ドルの売上(GMVではない)をあげて黒字化していた」とのことなので、驚異的な早さでPMFしたと言えます。

シードのリード投資 Equal Venturesもこのスピード感を以下のように評しています

Simply put, it has been amongst the fastest cases of product-market-fit I have ever seen.
私がこれまで見てきた中で、最も早くPMFしたケースである。

Introducing Ghost — a B2B marketplace to solve for >$1T of excess inventory

そして、更に1年後の2023年7月には、Cathay InnovationがリードしたシリーズBラウンドで3,000万ドルの調達を実現します。このラウンドでは、既存投資家のUnion Square VenturesやEqual Ventures等も参加しました。
シリーズBラウンド時点では会員数は1,000人を超え、GMVは前年比10倍以上、在庫数は5倍以上に増加し、驚異的なスピードで成長してきたいます。

Ghostの何が刺さっているのか

Ghostのどこが顧客に刺さっているのか?
ここからはGhostのプロダクトについて、深掘りしていきます。

サービスの流れ

Ghostは、ブランドの過剰在庫を売買できるBtoBマーケットプレイスであり、当然ながらユーザーとしては売り手と買い手がいます。

売り手としては、大手ブランドのみならず、T.J. Maxx等のオフプライス小売店には相手にされなかった中小ブランドがいます。
また、買い手は、大手リテーラー、地域のオフプライス小売店、サブスクボックスの運営者まで多岐にわたります。

この売り手と買い手を繋いでいるのがGhostです。
サービスの流れとしては、下記になります。

①まず、売り手側は、SKU情報/ 在庫状況/ 数量/ 説明文. 希望販売価格などの必要情報を記入し、販売したい余剰在庫を出品します。

売り手側:商品の出品画面

② 買い手側は、自分の希望する条件(商品の種類、値引き率、ロットサイズなど)を選択して出品されている在庫商品を検索ができます。また、商品情価格を見て、即時入札、もしくはカウンターオファー(値引き交渉)を行うこともできます。
Ghostは市場で出回っている商品データも収集しているため、商品の適正価格を表示する等のサポート機能も提供しています。

買い手側:商品条件の選定画面
買い手側:市場価格の適正値の表示

③最後に売り手側は、カウンターオファーを受け入れるかを決めて、売買が成立すれば、その後の決済・物流まで一貫してGhostが手配してくれます。
売り手は自社倉庫に販売品をおいておけば、Ghostがとりに来てくれるため、自分たちで出荷を手配する必要がありません。

また、売り手側が商品出荷後に即時に支払いを受けるサービスもGhostは提供しています。これにより一般的な支払いサイトである90日/ 180日も待たずにキャッシュ化できます。

以上が大まかなサービスの流れとなりますが、売り手・買い手にとってのGhostの提供価値を改めて下記の通り整理できます。

売り手にとっての価値

①ブランド規模によらず誰でも余剰在庫を販売できる
従来のオフプライス小売店(T.J. Maxx)では、取り扱ってもらえなかった中小規模のブランドもGhost上で商品の販売機会が得られます。

②ブランドイメージに合った買い手に販売できる
T.J. Maxxのような大衆的な店舗だけでなく、自社のブランドイメージにあった買い手に商品を販売することができるので、結果的にブランド価値も守ることができます。
※Ghost上では買い手の条件として「オンラインでは売らない」「特定の国で商品を販売しない」を設定することもできます。

③価格決定権がある
Ghost上では、売り手側で販売価格を決めることができます。カウンターオファーを受け入れるかどうかも自分たち次第です 。

④資金繰りが楽になる
商品発送後、即座に入金されるので、キャッシュフローが安定します。


買い手にとっての価値

①掘り起こしモノを簡単に発見できる
これまで手に入れることができなかったプレミアム商品/ 人気の高い商品、もしくは割安な商品にアクセスできるようになります。
また、買い手が調達したい商品をウィッシュリストに登録しておけば、それに似ているものを自動レコメンドしてくれるため、買い手にとっては貴重なブランドとの出会いの場になっています。

②新規取引の手間を軽減できる
新規のブランドを試そうと思うと、通常は契約書のやり取り等の煩わしい手続きが多くありますが、Ghostでは登録を完了するだけですぐに取引を開始できます。

おわりに

以上となります!今回はリリース1年でPMFし、成長を続けているGhostを深堀してみました。
Ghostがこれほどの初速でビジネスを立ち上げることができたのは、「強いFounder Market Fit」があること、そして「顕在化している大きなレガシー市場のリプレイス」を行っていることが要因だと思います。

・強いFounder Market Fit
創業者自身で経営していたビジネスでの課題感から事業の着想を得た。
⇒起業するドメインでの認知度・ネットワークが強い。これらを活かしてマケプレの課題であるコールドスタート問題も解決できた。

・顕在化している大きなレガシー市場のリプレイス
⇒既に顕在化している市場で、巨大なプレイヤーが数社いる。
⇒それらのプレイヤーはオフライン中心のレガシー企業であり、課題も大きい。

コマース領域では、どうしてもB2Cサービスに注目が集まりやすいですが、B2Bの市場規模は420兆円(2022年)と大きいうえに成長している市場です。
まだまだ、EC化率が進んでいない領域も数多くありますので、スタートアップとしても大きなチャンスがあると考えています。

この領域で挑戦したい起業家と是非とも情報交換・ディスカッションさせて頂きたいので、Twitter/ Facebookからお気軽にご連絡ください!

Twitter:https://twitter.com/Uchimaru_ZVC
Facebook:https://www.facebook.com/kinmemai

どうぞよろしくお願いします!




参考資料

https://www.nasdaq.com/articles/tjx-co.s-simple-business-model-works-2021-09-05?fbclid=IwAR1NQVtbWKmnHvpVPfh47UCtAfv6y2yMpMcy71Z9ANeRMCw6dZEOyzAZaHo


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?