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Generative AIがもたらすECの未来

こんにちはZ Venture Capitalの内丸です。
Generative AIの話題は今や毎日のように見ていると思います。
今回はGenerative AIによってECがどう変わるのかを考えていきたいと思います。

「Generative AIの何がすごいのか、何ができるのか」は他の記事で語りつくされているので、本ブログでは割愛します。
個人的にはSequoia Capitalの記事が非常にわかりやすくまとまっているので、一読をオススメします。

Generative AIがもたらすECの未来を考察するため、まずはスタートアップとテックジャイアントの足元の動向を見ていきます。

スタートアップの動向

CB Insightsによると、Generative AI関連のスタートアップの80%以上がシリーズAより手前のフェーズです。
つまり、まだ市場の黎明期であることがわかります。
今後もGenerative AI領域の新しいスタートアップが誕生すると思われます。
Y Combinatorが2023年の1stバッチとして採択した183社の企業のうち51社がAI関連です。そのうち32社がGenerative AI。とても注目されていることがわかります。

では、EC領域において、どのようなGenerative AI関連スタートアップが誕生しているのでしょうか?

「EC領域でサービスを展開している」かつ「総調達額が$1M以上」のGenerative AI系スタートアップを選定し、分析しました。
(データソースはPitchbook)

選定したスタートアップは参考としてブログの最後に載せていますので、気になるスタートアップがあればぜひ覗いてみてください!
※スタートアップの選定は手動で行っているため抜け漏れがあるかもしれません

EC領域のスタートアップは下記5種類に大別できます。

  1. チャットボット・ボイスボット
    (5社、調達総額$327M/ 平均値$65M/ 中央値$12M)

    • これまでも「チャットコマース」の領域は注目されてきました。Generative AIの登場によってそのクオリティは飛躍的に高まっています。

    • 例えば、Certainlyはまるで販売員/ コンシェルジュと話しているかのような高度なチャットボットを提供しています。
      また、AdaPolyAIは問い合わせやクレーム対応等のカスタマーサポート領域のチャットボット(ボイスボット)を提供しています。

  2. コンテンツ生成
    (13社、調達総額$289M/ 平均値$22M/ 中央値$10M)

    • 文章生成の技術を用いることで、高クオリティなコンテンツの生成も可能になります。

    • 例えば、JasperはECのトラフィックを向上させるためのブログやソーシャルメディア用の記事を生成するツールを提供しています。
      Copysmithは商品のキーワードから商品の説明文を生成するツールを提供しています。

  3. Webサイト生成
    (3社、調達総額$16M/ 平均値$5M/ 中央値$5M)

    • 文章生成/ 画像生成を組み合わせることでWebサイトの生成も可能となります。

    • 例えば、DurableThe.comはキーワードを与えることでWebサイトのフレーム/ コンテンツ/ イラストを生成するサービスを提供しています。

  4. 商品イメージ生成
    (4社、調達総額$119M/ 平均値$30M/ 中央値$12M)

    • 画像生成の技術を用いると、理想的な2D・3Dの商品イメージが生成できます。

    • 例えば、PhotoRoomは写真から対象物(商品)のみを切り取り、理想的なシーンに当てはめた商品イメージを生成できるアプリを提供しています。

  5. バーチャル試着
    (3社、調達総額$12M/ 平均値$3M/ 中央値$3M)

    • モデルとファッションアイテムの画像を組み合わせることで、着用後のイメージを生成することができます。

    • 例えば、Revery AIはEC上でバーチャル試着できるツールを提供しております。ZMO.AIはファッションブランド(B2B)向けに同様のツールを提供しています。

投資金額に注目すると、投資が集中しているのは「チャットボット・ボイスボット」「コンテンツ生成」「商品イメージ生成」の3領域となります。
一方で、「Webサイト生成」「バーチャル試着」の2領域は、調達総額/ 1社あたり調達額はともに小さいです。
調達額が大きい前述の3領域では、$50M以上の大型調達を行っている会社が4社(Ada/ PolyAI/ JasperTypeface)あり、共通点はEC以外の領域にもサービスを展開していることです。
当たり前ではありますが、TAMが大きいサービスに投資が集中してますね。

スタートアップにとってGPT-3のような大規模な基盤モデルを構築することは非常に難易度が高いため、既存の基盤モデルをいかに自社サービスに活かせるかがポイントとなります。今後は、Generative AIを特定領域にフィットさせるためのファインチューニングの技術やアプリケーション部分の磨き込みが重要になってくると思います。

テックジャイアントの動向

次に、EC領域のテックジャイアントはGenerative AIに対してどのような動きを見せているのでしょうか?

Amazon
まずはAmazonの動向を見ていきましょう。
実はAmazonは、テックジャイアントの中でもGenerative AIに対する方針を明示しておりません。
当然ながら静観している訳ではなく、虎視眈々とChatGPTへの対抗策を仕込んでいると思われます。
現にCEOのAndy Jassyはメディアの取材に対して下記のように回答しています。

「ChatGPTはとてもエキサイティングであるが、Amazonは長い間同様の技術に取り組んできた」

https://www.businessinsider.com/amazons-ceo-andy-jassy-on-chat-cpt-ai-2023-2

また、OpenAI(ChatGPT)の競合であるHugging FaceとAWSは、パートナーシップを拡大することを発表しています。この提携によって、Hugging FaceのサービスがAWS上で提供されることになります。

JD.com
中国のコマースの2大巨頭の一角を担うJD.comは、自社版ChatGPTであるChatJDを小売業や金融業等のエンタープライズ向けに提供すると発表しています。
ChatJDは、マーケティングコピー/ 商品説明の生成、チャットボットとして活用できるようになるとのことです。

Alibaba
AlibabaもJD.comと同様に、独自のチャットボットを開発中です。
社内で試験的な運用を始めたという報道が出たことで株価が3%上昇しており、市場の期待値の高さがわかります。
具体的な機能はまだ不明ですが、恐らくはChatJDと同じような用途で使用されることになると思います。

Shopify
Shopifyは、商品説明を自動生成する機能「Shopify Magic」をリリースしています。
この機能により、キーワードから、マーチャントの選択したトーンで商品説明を自動生成することができます。
商品説明の自動生成だけではなく、Generative AIを活用した機能が今後も追加されていくと思われます。

ECのマーケットプレイスを提供しているAmazon/ JD.com/ Alibabaの3社は自社版ChatGPT、つまりGPT-3のような基盤モデルの開発を進めていると考えられます。
一方で、ECイネーブラーのShopifyは、基盤モデルの開発を進めている報道は今のところありません。何を内製化し、何をShopify経済圏の他社アプリに任せるのかは今後も要注目です。その動向次第では、スタートアップにとっても大きなチャンスがあるかもしれません。

ECの未来

スタートアップとテックジャイアントの動向を見てきましたが、まとめるとECの未来はどうなっていくのでしょうか?
「今まさに起こっている変化」と「今後起こり得る変化」で考えていきます。

今まさに起こっている変化

これまでの内容をふまえると、Generative AIの普及によってECで今まさに起きている変化は下記2つといえます。

①購買体験の向上(消費者視点)
リアル店舗さながらの購買体験がオンライン上で実現しつつあります。
例えば、ハイクオリティなチャットボットにより、リアル店舗で販売員・コンシェルジュに相談するような体験が実現されています。
また、EC購買のネックであった「試着」はバーチャル試着の形で、オンラインでもできるようになっています。

②オペレーションコストの低下(マーチャント視点)
AIの活用により、確実にECのオペレーションコストが下がっています。
例えば、ブログ記事/ 商品説明文/ Webサイトなどの自動生成によって、制作費は確実に下がっています。
また、カスタマーサポートもチャットボットに代替することで人件費の引き下げも可能になっています。

今後起こり得る変化

今後、Generative AIがさらに発展・普及することで、ECにどんな変革がおこるのでしょうか?
私の願望・妄想も大いに含まれますが、2つの方向で飛躍的に発展していくと考えます。

①ハイパーパーソナライゼーション(消費者視点)
検索結果や表示広告が従来のAIによってパーソナライズされていることは、ご存知のとおりです。
今後は、購買に至るまで”目に入る全ての情報”がパーソナライズすると思います。まさにハイパーパーソナライゼーションと呼べる状態です。
具体的には、ECサイトの商品説明文/ 使用イメージ、サイトデザイン/ タグラインなど、全てが個人毎に最適化される未来がくるかもしれません。

②”究極の”ECの民主化(マーチャント視点)
Shopifyなどの登場によって、ECサイトの開設が容易になり、ECの民主化が起きたと言えます。
今後は、現状よりも圧倒的に簡単にかつ自分のイメージ通りのECサイトを作れる未来がくるかもしれません。
例えば、「NIKEのようなサイトを作りたい」と言えばLPや商品写真も含め、自動で作成できるイメージです。

また、ライブコマースの運営・作成コストも圧倒的に下がる可能性があります。ライブコマースが普及しない理由の1つに運営・作成コストの高さが挙げられていました。
Generative AIによって、コンテンツを自動設計し、アバターが自動でライブ配信を行う世界観が実現するかもしれません。

おわりに

いかがだったでしょうか?
後半はSF映画のようで、「そんな変化は起きない」と感じた方も多いかもしれません。
Generative AIの領域は毎月のように新しいサービス・技術が登場しており、目が離せない領域です。来月には全く新しい未来が見えている可能性もあります。既存の巨大企業をひっくり返す大きなチャンスかもしれません。
Generative AIがもたらすECの未来について、起業家の皆様とディスカッションをさせて頂きたいです!
少しでも気になる方はご気軽にご連絡頂けると嬉しいです。

Twitter:https://twitter.com/Uchimaru_ZVC
Facebook:https://www.facebook.com/kinmemai

どうぞよろしくお願いいたします!


参考

コマース領域の選定スタートアップ

チャットボット・ボイスボット

コンテンツ生成

Webサイト生成

商品イメージ生成

バーチャル試着


その他の注目スタートアップ


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