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~あのユニコーン企業は今?! vol.1~クリエイターエコノミーの雄、Patreon編

こんにちは。Z Venture Capitalでコマース領域を担当している内丸です!

この10年間で、斬新なアイデアを持つスタートアップが彗星の如く現れ、大型の資金調達を次々と実現してきました。

「あのスタートアップって今どうなってるの?」

ふとそのような疑問が湧いてきました。答え合わせにはまだ早いかもしれませんが、一世を風靡したスタートアップの現在について、何回かのシリーズに分けて探求していきたいと思います!

みなさんは「Patreon」というスタートアップを覚えていますでしょうか?
クリエイターエコノミーの走りとも言えるこの企業は、会員制プラットフォームの原型を作り出し、瞬く間にユニコーン企業になりました。
今回はPatreonに改めて焦点を当ててみます。

Patreonとは何か

概要

Patreonについて、知らない方もいると思いますので、簡単にご紹介します。

Patreonは「クリエイター向けの会員制プラットフォーム」です。
このプラットフォームでは、ライター/ ポッドキャスター/ ミュージシャン/ 写真家等のクリエイターが会員(パトロン)向けに自身のコンテンツを提供しており、会員は好きなクリエイターを探すことができます。

クリエイターの検索画面

好きなクリエイターを見つけたら、会員はプランを選択し、月額フィーを支払うことで、映像/画像/音声等の多岐にわたる限定コンテンツにアクセスすることができます。

会員プランの選択画面

ビジネスモデル

クリエイターに売上があがる(会員がつく)ことで初めて、Patreonも儲かるビジネスモデルとなっています。
具体的には、クリエイターがPatreonで得た月収に対し、選択したプランに応じて、5%/ 8%/ 12%の手数料を支払います。
加えて、支払い手数料も発生します。(3ドル未満の小額決済の場合は5%+0.10ドル、3ドル以上の決済の場合は2.9%+0.30ドルの手数料)

プロダクトの進化

Patreonは、プラットフォーマーとして事業をスタートしましたが、その後徐々に、クリエイター向けCRM領域へ事業を拡大していきます。

  • クリエイターが自身のパフォーマンスを評価/ 改善できる分析ツール

  • ワークショップ/ 専任のアカウントマネージャーなどを提供するプラン

  • Zendesk・Slack等の他ツールとの統合、等

また、M&Aを活用してスピーディーに周辺領域の取り込みも行っていきました。
2015年3月には動画配信サービスのSubbable2018年6月にはECのロジスティクスのバックエンドを提供するKit同年8月にはクリエイターが自身のファンサイトをホワイトレーベルとして立ち上げることを可能にするMemberfulを買収しました。
これらのM&Aによって、プラットフォーマーとしての立ち位置をより強固にしていきました。

Patreonの躍進

Patreonは、事業をスタートした2013年から2020年までの急速に成長していきます。クリエイターへの支払額は年々増大し、2020年11月には累計$2Bの大台に乗ります。

Patreonからクリエイターへの年次支払額

また、プラットフォームを利用するクリエイターの数も増加し続け、2016年1月時点では約2万5千人だったのが、2021年1月時点には約18万5千人まで成長しました

Patreon上のクリエイター数

この急速な成長を引っ張ったのが、Patreonが「Growth Loop」と呼ぶYouTubeなどのソーシャルメディアでのバイラル施策です。
(詳細はBRAINBALFOURのブログをご参照下さい)

Patreonの事業成長とともに、大型の資金調達も立て続けに実施していきます。
2020年9月のシリーズEラウンドでは、Pre-Valuation $1.3Bで$90Mの資金を調達し、ユニコーン企業となりました。
その後、2021年4月のシリーズFラウンドでは、Tiger Global Managementをリード投資家として、Pre-Valuation $4.1Bで$155Mの調達を成功させました。

Patreonの失速

このように、2021年まではまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しました。更には、2022年には会社規模を倍増させる計画を立てていました。
しかし、その計画は達成されず急速に失速します。
下記のグラフからわかるように、2021年以降クリエイターは微増しているものの、クリエイターへの支払額はほとんど横ばいになっています。
これは2021年以降、Patreonの売上も伸びていないことを意味しています。

Patreonからクリエイターへの支払額(緑棒)


Patreon上のクリエイター数

Patreon失速の原因

あれほどの勢いがあったPatreonに、一体何が起きたのか。
この原因を解き明かすためにも、Patreonの過去の成功要因を少し深掘りします。

そもそもクリエイターエコノミーでよく指摘される問題に「トップクリエイターへの富の集中」があります。
つまり、クリエイターの収益力は「べき乗則」に従うので、プラットフォームの収益の大半が一部のトップクリエイターに依存する状態になりやすいのです。
Patreonにおいても、この構造は例外ではないと推測されます。実際に、Patreonに登録しているクリエイターのうち2,000人以上の会員(パトロン)がいるのは0.3%に過ぎません

このようなクリエイターエコノミーの特性を踏まえると、収益拡大を目指すプラットフォーマーがとるべき戦略は非常にシンプルです。
それはとにかく「トップクリエイターを囲い込むこと」です。
そして、トップクリエイターをフックにして、ロングテールのクリエイターも獲得していきます。
ロングテールからトップクリエイターになるための育成も仕組み化できると、一部のトップクリエイターが離脱したとしてもプラットフォームの収益は安定します。

初期のPatreonの急成長はこの戦略が上手くハマりました。

しかし、2021年以降は「トップクリエイターの囲い込み」に苦戦したのではないかと思います。
コロナ禍をきっかけにして、Patreon以外の競合企業が台頭してきたことで、クリエイター獲得競争が激化したことが失速の要因だと考えています。

※トップクリエイターではなく、ロングテールのクリエイターをターゲットとする場合、とにかく低い獲得コストで面をおさえる(大量のクリエイターを獲得する)ことが必要になります。
※ちなみに元a16zのLi Jin氏は、プラットフォームの収益安定化のためにはミドルクラスのクリエイター獲得が重要だと説いています

台頭する競合企業

Patreonの競合は数多く登場しておりますが、今回は4社(Fanfix/ Fanhouse/ OnlyFans/ Ko-fi)を取り上げます。
一見同じサービスに見えますが、異なる戦略を持ってクリエイターの獲得を目指していることがわかると思います。

Fanfix

Fanfixは、「トップクリエイターの獲得」に特化した戦略をとっているという点でPatreonとは大きく異なる会員制プラットフォームつです。
FanfixではSNSでフォロワー数が10,000人以上の人気クリエイターだけが登録でき、人気度に関係なく誰でも登録できるPatreonとは対照的です。
また、Z世代のクリエイターをターゲットにしているため、アダルト・コンテンツを禁止し、Instagramに近いUI/UXを採用して画像・動画のコンテンツ配信に特化している点も大きな特徴です。
一方で、Fanfixの手数料は20%と、クリエイターへの収益還元率はそれほど高くありません。(Patreonは8~15%程度)

Fanhouse

Fanhouseは、「クリエイターファースト」をブランディングすることで、クリエイター獲得を進めています。
クリエイターがコンテンツをFanhouse上にアップロードした時点で全てに透かしが入る仕様にしており、誰がコンテンツを流出させたかをすぐに突き止めることができます。
また、Fanhouseのスタッフもが日常的にRedditのスレッドやDiscordのグループを調べ、コンテンツが流出されていないか調べています
手数料も10%と比較的低い水準にしています。

なお、Fanhouseは2021年12月のシリーズAラウンドでa16z(Andreessen Horowitz)等から総額$33Mの資金調達を行っています

OnlyFans

OnlyFansは自由なコンテンツポリシーを掲げることでクリエイター獲得を行っているプラットフォームです。
特にアダルトコンテンツのクリエイターに非常に人気があり、クリエイターの7割以上がアダルトコンテンツで収益を得ていると言われています
手数料(OnlyFans側の取り分)は20%であり、Fanfixと同様に比較的に高いです。

Ko-fi

Ko-fiはこれまで紹介してきた競合とは異なり、ロングテールのクリエイターを大量に獲得する戦略をとっています。
クリエイターから手数料を徴収しないことで、100万人以上のクリエイターを集めています
ただし、オンラインショップでデジタルダウンロードや物理的な製品を販売する機能を利用するためには有料プランに加入する必要があります。

終わりに

Patreonの現状を探る過程で、ますます激化するクリエイター獲得競争が見えてきました。まだまだこの領域は勝敗が決しておらず、今後も主要プレイヤーの入れ替わりが起きると思います。
今回は海外のサービスを深堀りしましたが、日本のクリエイターエコノミー領域にも大きな可能性を感じています。
この領域でチャレンジしたい・している起業家がいましたら、是非ともディスカッションさせて下さい。
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