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2022年の読書記録とほんの少しのメモ

1月

  • 瀬戸内寂聴『いのち』(講談社文庫)

  • アンドレアス・マルム、箱田徹訳『パイプライン爆破法』(月曜社) @往来堂書店

  • ニール・スティーヴンスン、日暮雅通訳『スノウ・クラッシュ 上下』(ハヤカワ文庫) @Amazon

  •  宮沢章夫『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』(集英社) @Amazonマーケットプレイス

21年11月に瀬戸内寂聴が亡くなった。『場所』(新潮文庫)を読みたいと思ったのだけど、1月時点では紙版は版元品切。電子書籍で読む気にはなれないので、たまたま手に入った『いのち』を読んだ。

あいかわらず月曜社の新刊は全てチェックしている。『パイプライン爆破法』の1月時点での感想はその後の世界情勢ですっかり上書きされてしまって、憶えていない。2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、9月にバルト海の下を走るノルドストリームが爆破された。実際にパイプラインを爆破したのは、エコテロリズムではなくて、前時代的な地政学に基づく戦争だった。

『スノウ・クラッシュ』は「metaverse」という言葉を生み出したことで有名なサイバーパンクSF。長らく版元品切だったが、新装版として復刊していた。metaverseよりも「企業国家」という設定のほうが面白かった。社会インフラのほとんどが複数の企業によって所有され、法も秩序も企業によって細かくセグメント化されている一方で、ネット空間だけは企業支配から自由を保っているのは、90年代の夢まぼろしか。

『ボブ・ディラン〜』は「この30年の小説、ぜんぶ」からのsuggest。版元品切で電子書籍化もされていないかったため、Amazonマーケットプレイスで購入。2001年9月1日から9月10日にかけての、歌舞伎町ビル火災の発生「後」から10日間の物語。9月1日夜の記憶を亡くし、足に怪我を負って目覚めた中古レコード屋の店長は、バイトに「ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集」を店内で探すように指示するが…という話。アメリカ同時多発テロ事件が起きる「前」の10日間の話でもある。読者だけはそれを知っている。この10日間が終わると、世界は暴力に支配されてしまうことを。そして、それは今も続いていることを。わたしたちはいつも何かが起きた「後」と何かが起きる「前」の時間を生きている。

2月

  • 瀬戸内寂聴『場所』(新潮文庫) @BOOK COMPASS エキュート上野

  • 新章文子『沈黙の家』(光文社文庫) @BOOK COMPASS エキュート上野

  • ジョルジュ・アガンベン、高桑和巳訳『散文のイデア』(月曜社) @池袋ジュンク堂本店

  • 高橋源一郎『これは、アレだな』(毎日新聞社) @池袋ジュンク堂本店

Jリーグが開幕すると、平塚への乗り換えのために利用する上野駅構内の書店に立ち寄る機会が増える。『場所』の紙版はそこで購入した。帯には「追悼復刊」とあった。荒川洋治の解説を先に読んでしまったので、それに引っぱられてしまった。

『沈黙の家』の新章文子は、瀬戸内寂聴が京都の小さな出版社で働いていたときの元同僚。『場所』にもほんの少しだけ登場する。新章文子が気になって、光文社文庫の紙版で入手可能な2冊を購入した。

2月24日、ロシアによるウクライナ侵攻。

このころ、アガンベンは確かに読んだはずなのだけれど、何も憶えていない。たぶん、ずっと別のことを考えていたのだろう。

『これは、アレだな』は「サンデー毎日」に連載されているコラムをまとめたもの。このタイトルは秀逸だと思う。世界は「これは、アレだな」で溢れている。

3月

  • 新章文子『名も知らぬ夫』(光文社文庫) @ジュンク堂書店 池袋本店

  • 早瀬耕『彼女の知らない空』(小学館文庫) @BOOKOFF

新章文子は2冊目。どちらからも「時代」を感じた。それが何なのかを言い表すのは難しいのだけれど。

『彼女の知らない空』は、小学館文庫だから、という理由で買う気にならず未読だったが、BOOKOFFでdig。戦争は日本で暮らしていても無関係ではいられないし、戦場はわたしたちの日常の中にもあるって感じの連作短編集。2022年の実時間で読むとリアリティがあって良かった。化粧品会社で働く夫婦の話が残った。

4月

  • はやせこう『庶務省総務局KISS室政策白書』(ハヤカワ文庫) @三省堂書店成城店

  • 高橋源一郎『5と3/4時間目の授業』(講談社文庫)

多忙のため、軽い本しか読む気にならず。

5月

  • 高橋源一郎『「読む」ってどんなこと?』(NHK出版) @BOOKOFF

  • いとうせいこう、奥泉光『小説の聖典 漫談で読む文学入門』(河出文庫) @池袋ジュンク堂本店

引き続き多忙のため、軽い本しか読む気にならず。

6月

  • 小沢健二『春空虹之書』 @paypayモール

  • 上間洋子『海をあげる』(筑摩書房) @BOOKOFF

  • 奥泉光、加藤陽子『この国の戦争 太平洋戦争をどう読むか』(河出新書) @三省堂書店成城店

『春空虹之書』は2018年のライブツアーで販売していた書籍。彼の本はおそらく全て読んでいるけれど、これは唯一未読だった。彼の書く文章が好き。

『海をあげる』は2021年の本屋大賞ノンフィクション賞受賞作。本屋大賞ノンフィクション賞は信用している。新刊で買おうか迷っていたところ、BOOKOFFでdig。すごく良かった。聞き書き文学について考える。

6月15日、森崎和江が亡くなる。

『この国の戦争』は、成城学園前の上島珈琲店で一気に読んだ。今年は私用で成城学園に何度も行った。

7月

  • 田中小実昌『ポロポロ』(河出文庫) @丸善お茶の水店

  • 奥泉光『石の来歴 浪漫的な行軍の記録』(講談社文芸文庫)

  • 【再】川村湊他『戦争文学を読む』(朝日文庫) @池袋ジュンク堂本店

  • 【再】大江健三郎「芽むしり仔撃ち」(『大江健三郎全小説1』所収)(講談社)

  • 高橋源一郎『失われたTOKIOを求めて』(集英社インターナショナル新書) @三省堂書店成城店

  • 小島信夫『ラブ・レター』(夏葉社) @古書信天翁

  • バーナード・マラマッド、小島信夫・浜本武雄・井上譲治訳『レンブラントの帽子』(夏葉社) @古書ほうろう

7月8日、安倍晋三銃撃事件。

『ポロポロ』と『石の来歴 浪漫的な行軍の記録』は『この国の戦争』からのsuggest。『ポロポロ』は何年か前に丸善お茶の水店にて「MJ限定重版」を購入したままになっていた。傑作。『石の来歴』は文春文庫版を学生時代に読んでいたはずが、内容を全く覚えてなくて愕然とした。これがnoteを始めるきっかけとなった。

その流れで、『戦争文学を読む』も再読。こちらも学生時代にハードカバーで読んでいる。この本をきっかけに、当時、『レイテ戦記』を読んだはず。何年も前に文庫版を買い直したまま読み返すことはなかった。やはり良書だと思った。『レイテ戦記』をもう一度読む気にはならなかったが、「芽むしり仔撃ち」を再読。

『ラブ・レター』は「この30年の小説、ぜんぶ」からのsuggest。いまはもう閉店してしまった古書店で、新刊で購入したままになっていた。今年はそんな本を読む機会が多かった。「戦争」から少し離れたくて読み始めたが、「戦争」を扱った「記憶」「ある話」が残った。

その『ラブ・レター』の中で、「あれはいい小説」という言及があったのが『レンブラントの帽子』。表題作はもちろん良いのだけれど、2022年の実時間の中で読むときっと誰しも、表題作より「引き出しの中の人間」のほうが印象に残るのではないか。冷戦下のソ連でアメリカ人の作家が、あるロシア人から原稿を託される話。キッチンの流しで原稿を燃やすラストシーンが印象的。

8月

  • 高橋源一郎『ぼくらの戦争なんだぜ』(朝日新書) @往来堂書店

  • 小山田浩子『工場』(新潮文庫) @三省堂書店成城店

  • 金原ひとみ『マザーズ』(新潮文庫) @BOOKOFF

『ぼくらの戦争なんだぜ』は太宰治のパートが良かった。Kindleで太宰治の短編をいくつか読み直した。今年は「戦争」で食傷気味。

『工場』と『マザーズ』は「この30年の小説、ぜんぶ」からのsuggest。どちらも痛々しい。

9月

  • 多和田葉子『カタコトのうわごと』(青土社) @三省堂書店成城店

  • 古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』(新潮文庫) @BOOKOFF

『カタコトのうわごと』は2022年の「書物復権」タイトルのひとつ。

『馬たちよ〜』は「この30年の小説、ぜんぶ」からのsuggest。忘れていた震災直後の東京を思い出す。例えば、街の暗さを。3月11日は金曜日だった。翌週末、関西で友人の結婚式があった。だから、わたしは作家と入れ違うように京都に行っていたことになる。そんな記憶を呼び起こしながら読んだ。約11年前の記憶。そして、震災にも「前」と「後」があったことを思う。コロナにもあった。そして、これから起きる戦争にもあるのだろう。

9月12日、宮沢章夫が亡くなる。

9月13日、JLGが亡くなる。

10月

  • 古川日出男『聖家族 上下』(新潮文庫) @BOOKOFF

『馬たちよ〜』だけを読んでもよく分からなかったので、『聖家族』を読む。これも紙ではもう手に入らなかったのでBOOKOFF。ところどころ、良い。正史の影にはいつも裏面史がある。裏面史に追いやられた土地の、追いやられた者たちの物語。そして、現在進行形で作られつつある正史にも抗おうとしたのが『馬たちよ〜』だったのかなぁと思う。

11月

  • 森崎和江『からゆきさん』(朝日文庫) @池袋ジュンク堂本店

  • 森崎和江『まっくら』(岩波文庫)@池袋ジュンク堂本店

「現代思想 総特集 森崎和江」をきっかけに入手しやすい2冊を立て続けに読む。聞き書き文学について再び考える。兄から『異族の原基』を読むべきと言われる。とても気になる。

12月

  • ニール・ポストマン、今井幹晴訳『愉しみながら死んでいく 思考停止をもたらすテレビの恐怖』(三一書房)

  • 「アラザル 14」

人から薦められた本は全部読むようにしている。これは英会話の先生が薦めてくれた。テレビ(映像ショービジネス)がもたらすのは『1984』のビッグ・ブラザーが支配する管理社会ではなく、『すばらしい新世界』の快楽によって人間が自ら堕落していく社会ではないかという仮説。面白い。

「アラザル 14」は防破堤日記を興味深く読んだ。いつか行ってみたい。

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