クレタカホ

working for publishing company in japan.

クレタカホ

working for publishing company in japan.

マガジン

最近の記事

2023年下半期の読書記録とほんの少しのメモ

7月ヘンリー・ジェイムス『ワシントン・スクエア』(河島弘美訳、岩波文庫)@BOOKOFF ナボコフ『ロリータ』(若島正訳、新潮文庫)@古書防破堤 鵜飼哲『いくつもの砂漠、いくつもの夜』(みすず書房)@ジュンク堂書店池袋本店 『ワシントン・スクエア』は『テヘランでロリータを読む』からのsuggest。版元品切となっていた岩波文庫版をBOOKOFFでたまたまdig。なんだか退屈な恋愛小説だと思いながら読み進めていたら、最後の一文に打ちのめされた。  裕福な医者の一人娘キャ

    • 2023年上半期の読書記録とほんの少しのメモ

      1月 橋本治『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』(ホーム社)@伊勢治書店ダイナシティ店 オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(大森望訳、ハヤカワepi文庫)@BOOKOFF ジョージ・オーウェル『一九八四年』(高橋和久訳、ハヤカワepi文庫)@BOOKOFF 野呂邦暢『野呂邦暢ミステリ集成』(中公文庫)@ジュンク堂書店池袋本店 野呂邦暢『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』(岡崎武志編、ちくま文庫)@ジュンク堂書店池袋本店 『ふしぎとぼくらは〜』

      • そんな日もある

        大敗した日はひたすら惨めな気持ちになるものだ。 スタジアムから駅までの帰り道はいつもより長くて、平塚からの東海道線はさらに長い。 なぜわざわざそんな遠くまで観に行くのか?と聞かれることがある。なぜわざわざ弱いチームを、と。 駅前の崎陽軒でシュウマイ弁当を買う。晴れている日はスタジアムまでゆっくり歩く。小さな商店街はすぐに終わって、国道1号線を渡ればもうあと少し。いつもだいたい試合開始の1時間前にはスタジアムに着く。 古くて小さいスタジアム。いつもの固い椅子。 空の青さとピ

        • そんな日もある

          新橋で東海道線のグリーン車に乗り込む。そして、中公文庫で出たばかりの、小島信夫の本を後ろのほうから読む。 江藤淳の自死をめぐるエピソードから始まるこのテキストは語り起こしで、「そして、小説は生き延びる」というタイトルだ。小島信夫で、しかも語り下ろしなので、話はあれこれ変わってまとまりはないのだけれど、文節ごとにいろいろなことを考えさせられる語りがおもしろくて、2回読み返す。例えば、「一つの小説で印象に残る部分は、やっぱり謎の部分」とか。 そして、なぜ江藤淳の話から話し始め

        2023年下半期の読書記録とほんの少しのメモ

        マガジン

        • そんな日もある サッカー徒然草
          3本

        記事

          そんな日もある

          生きていることしか語っていなかった生者もやがて死者になっていく。そして、彼らの言葉だけが残される。死んだ者たちの言葉。かつて生きていた者たちの言葉。当たり前のことなのかもしれないけれど、本を読むことは死者たちの言葉、やがて死者となる者たちの言葉を読むことなのかもしれない。そんなことを考える。 冒頭の、「生きている者は生きていることしか語らない」と言ったのは埴谷雄高だった(と思う)。読んだのは中学生の頃だし、その本はもう手元にないので確認はできない。そして、元々の文脈だと、「

          そんな日もある

          2022年の読書記録とほんの少しのメモ

          1月 瀬戸内寂聴『いのち』(講談社文庫) アンドレアス・マルム、箱田徹訳『パイプライン爆破法』(月曜社) @往来堂書店 ニール・スティーヴンスン、日暮雅通訳『スノウ・クラッシュ 上下』(ハヤカワ文庫) @Amazon  宮沢章夫『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』(集英社) @Amazonマーケットプレイス 21年11月に瀬戸内寂聴が亡くなった。『場所』(新潮文庫)を読みたいと思ったのだけど、1月時点では紙版は版元品切。電子書籍で読む気にはなれないので、た

          2022年の読書記録とほんの少しのメモ

          歩いているのは誰か、語っているのは誰か(奥泉光『石の来歴 浪漫的な行軍の記録』)

          「語りを多声化すること」。そのために、この小説では、「夢」という仕掛けが用意されている。それは冒頭の一文から始まっている。  冒頭の一文について。加藤と奥泉は、大岡昇平の『レイテ戦記』の書き出しに言及している。その書き出しはこうだ。「比島派遣第十四軍隷下の第十六師団が、レイテ島進出の命令に接したのは、昭和十九年四月五日であった」。加藤は、大岡が訳したスタンダール『パルム僧院』の出だしと呼応していることを指摘し、「レイテ島」を叙事詩として描こうというある種の意思表示ではないかと

          歩いているのは誰か、語っているのは誰か(奥泉光『石の来歴 浪漫的な行軍の記録』)

          今、デッチアゲただけ(田中小実昌『ポロポロ』)

          「人は物語を作りたくなる」ーー。 『ポロポロ』の最後に収められている「大尾のこと」の中に、南京で見た映画の話が出てくる。米軍が見ているところにもぐりこんで見たというその映画は「ストーリィもよくわからなかった」とことわりを入れたうえで、こんな感じで紹介される。  大尾という同期兵との出会いから、その死について話している途中で、この映画の内容が唐突に挿入される。たぶん、意味はない。「よくわからなかった」と最初にことわっているのだから、この内容が正しいかどうかなんて、たぶん、どう

          今、デッチアゲただけ(田中小実昌『ポロポロ』)