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真・邪道勇者その2(分割版)

無論、金にならない訳がなかった───法を守りさえしなければ。

エルフだのドワーフだのが何匹いようが関係ない。要は売り飛ばせる女が増えて、窃盗に加担させる男の数が増えるだけだ。何にしろ法律というものは政府を気取る利権集団の都合であって、あちらも犯罪者なのだから守る必要は別段あるまい。

超大陸だか何だか知らんが北に金持ちがいて西に異民族••••••主にエルフが美人でそれ以外に抱ける女がいるかは謎という地域があり、南は知っての通り犯罪者連中の巣窟で栄えていると思えばいい。

東は? あちらはあちらで、人間サイドの犯罪集団の巣窟だ。具体的に言うなら、リィン・ウィン・ツォンのような麻婆豆腐発祥の地から無機質極まる無表情美人が多くいて、汚い戦い方に長けている。思うに、連中は不感症か痛覚が存在しない。でなければ床上手なのは技術だけだ。ああいう女と一夜を共にしたことは幾度でもあるが、しかし満足に達したかと言えば甚だ疑問だ。

何せ、三回に二回は刺されるからな。

その点、エルフ女は素直だ。つい最近小間使い、というか子供の立場を利用しての犯罪行為への加担のために猫耳小娘を雇ったのだが、差別主義には強く反対するが犯罪への抵抗は一切無い。曰く「自分達を虐げる害獣の気持ちなんて知らない」とのことだ。

私も人間なのだが、やれやれ。何度言っても信じない。

無論、非人間である自覚はある••••••何せ、それを利用して戦いに勝ち抜き、将軍の座まで駆けたのだ。具体的には他の出世頭を何人、あるいは何十人、どころか、軍単位で見殺しにしたりしたかもしれないが••••••証拠は地下深くの墓の中だ。

エルフも人間もドワーフも人間も、政府関係者から貴族の夫まで殺して娘を頂いたりもしたが、一応人間側と言えなくもなくもない。そうは思ったもののどうもこの小娘は聡過ぎるようで、私を「利用出来る猛獣」の如き扱いをすれば故郷の復讐に使えると気付いたらしい。

賢明な判断だ。賢明すぎて、逆につまらないが。

やはりというか、もっと賢明さを失う民衆の嘆きの方が見応えがあるものだ。私の体験談で言えば会社の計画に穴を開けた挙句、好き放題利益だけを強奪して安全な場所から酒でも飲みながら眺めるのが正しい。大体が金なんぞ人間の作り出してる紙であって、一時のスリルに比べれば安いものだ。

死なない、と連中は思ってるらしい。常に死にかける私には、縁遠い感性だ。

さて、そんな南の街で、それも貧困街で何をするか? 当然、売春宿の見回りに、賭博方面の管理運営。果ては店の警備料の回収から敵対組織への啓発など様々だ。一番多いのは人間かエルフかドワーフかという差別問題の喧嘩、ではなく売春街で未払いの酔っ払いだの賭博に興じたが金は無かったと抜かす不届き者への制裁だ。

逆に、差別問題は恐ろしく少ない。
連中の組織も、ここにはあるからな。

エルフ連中は売春街を仕切りつつ違法魔術の独占に走ったし、ドワーフはといえば禁止されている古代技術の再発見に余念がない。おかげで政府には禁じられているものの有効な武器が安く買える。私自身も当然その恩恵を受けているし、魔術だのは知らないが武器弾薬に関しては軍より多い。

禁止魔術は知らん。私に知力ステータスがあるとでも? だから小娘を雇ったのだ••••••名前すら知らないが、適当に犬千代(たまたま見かけた歴史書に載っていた名前だ)と呼び捨てたところ、本人はそれを気に入ったようだ。

青い髪に猫の耳、スタイルは小娘らしく、会った時は布しか着てなかったが、今は稼ぎが良いからそれなりに良さそうな革製のサバイバルジャケットと硬いスボンを着ているので、お洒落よりも実用性が好みらしい。

私の知る限り、切れ味の良いナイフを懐に入れて、スボンに小銃を幾つか隠し持つお洒落など存在しない。余談だが、声を掛けた人間の男は下の方を切り取られた。その後、訴えると言い出した男は行方を知らない。

ここはそういう街だ。覚えておけ、この辺りでは人間の法律は存在しない。

それこそ歴史の面で言えば人間は勝利を収め、世界の覇者になった筈だ。しかし、依然として権力者というのは自分の事しか考えない愚か者の集団なので、統治下にあると言い張る地域はこんなもの。未だかつて数多くの歴史書を読んだが、政府に「平等な社会」とやらを提供された歴史を私は知らない。

なので、平常運転だと言えるだろう。無論、平時から世界はこんなものという意味だが。
「おい、これからどうするんだ」
青い眼に青い髪で睨みつけられるとギョッとするのは最初だけだ。私はもう慣れているが、慣れないのはこいつの反応だろう。というのも、ガキというのは何であれすぐにキレる───それが妥当な判断であっても。

この前など「お前の貧相な身体では無理だ」と真実を告げてやっただけなのだが、あろうことかナイフを突きつけ「捌いてやろうか?」と魚料理の職人もかくやな、熟練の腕を見せつけた。
なので、ここは慎重に応対しよう。
それだけでも金を払って欲しかったが。
「まだだ。中華連中の支払い徴収代行が残っている」
連中は東の方でそのような国を名乗り始めた。それが何の意味があるのかは知らんが焼き飯だの餃子だの飯が美味い事だけは確かだ。
無論、毒物に関しても多かった。
「あいつらの仕事なんて受けるのかよ」
と、やる気は無さそうに犬千代は言い放つ。身体全体で「やってらんねー」とでも言いたげだが、小娘のくせに文句の多い奴だ。大体がそのナイフ、一体幾らしたと思っている。

あれも中華製だ。塗っている毒もな。

「報酬は良い。流石アヘンをばら撒いているだけはある」
私はいつも通りの革ジャンに軍用ズボンだ。全身真っ黒でセンスは無い。それより実用性だけが肝要であり、具体的に言うと血が流せる。
防弾性、防刃性、共に最高峰だ。
異性を口説くのにもこの格好で行かなければならないのが悲しいが、また背後から刺されたくは無いからな。実際、お楽しみの最中ほど無防備だと噂が立てば、頼みもしない美人から声が掛かるものだ。
「薬物ねぇ••••••俺は賛同しないな」
「そうか?」
真っ当な感性だ。それでは早死にするぞ。
いつも言っているのだが、根がお嬢様なのかどうも垢抜けない。
「この辺では、いや、どの時代においても••••••政治資金は裏金で解決するもので成功者は薬物を好むものだ。その程度の常識に馴れなければ、人間への復讐なんぞ夢物語で終わってしまうぞ」
無論、私は別に、失敗しても構わないが。
小娘の復讐など、金にならないしな。
「わぁってるよ」
杜撰な話し方は板に付いてる。ナイフ裁きも同様だ。ただ、感性だけは違うらしい───これも育ちの違いだろうか?
私は別に、生まれた時からこうだったが。

対して、この小娘は違った。具体的に言えば貴族令嬢らしい淑やかな性格だったのだが、私がこの町で生き抜くならとエリート教育を施した結果として、今の人格があるわけだ••••••我ながら教育の才能もあったとは。

一ヶ月80万でいい。お子さんを預けてくれれば、数ヶ月で名の売れた悪党だ。

とはいえ、その必要は無いだろう。悪党の秘訣は独占するものであって、売り物ではない。第一、商売相手が増えたら困る。なので我々は東の国、主に毒物と料理に詳しい連中とも馴れ合いはしない。連中がどれだけ残忍か知っていればその気分にはならないだろう。と言うのも、生きたまま生皮を履く程度でなく脳味噌を直接にいじるのだ。

どうなるのか? 想像するのはやめておけ。

針を逐一差し込み「えっえっ」とか変な奇声を上げつつ拷問を受ける姿など、別に思い描いても嬉しくあるまい。それより、売春街の繁盛ぶりの方が賢明な読者には人気がある。教師や医者、時には鞭を用意するあらゆる中華美人は評判が高いので「過ぎ去った思春期」を「豊満な肉体」で再現して欲しければ東へ行け。
そこに、楽園がある筈だ。
無論、代金は安くない。生半可な金額では前払いにはならないので、無くなっては困る「何か」を売る羽目になる。具体的には庶民の年収程度は欲しい。それくらいの金があるなら、あちらでもお楽しみは続くだろう。

「それで、どうすんだよ」
「急かすな。我々はまず、繋ぎ人と会わなければ交渉できない」
要するに仲介人みたいなもので、あちらとこちらの通訳の代弁及び、報酬などでも橋渡し役を務める奴らだ。とはいえ、報酬をピンハネした輩がどうなるかといえば当然ながら時に切り落とされ、時に生きたまま火葬されるとだけ言っておく。
歩を進めて我々は南の街の中でもさらに物騒な地域へと足を運ぶ。この辺には魔性と呼ばれる鬼だの何だのという生き物も発生し、気まぐれに人間を襲うのも特徴だ••••••慣れているので片手間に斬り殺し、焼いて食った事もある。

なかなか、美味かったぞ!!

鬼というのは赤い肌にツノまで生えているので見た目はアレだが、やはりゲテモノほど食えば美味いらしい。私は頻繁に連中の肉を食うので、知らぬ間に影響を受けでもしたのか割と頑丈になってしまった。
ちなみに、犬千代はというと、「死んでもゴメンだ。お前みたいな化け物と一緒にするな」とキレられた。やれやれ、何がいけないというのか。
「おい、そろそろだぞ」
「わかってる」
我々は大概らしいが、向こうは向こうで相当だ。何せ、鬼を使役しエルフドワーフどころか、人間の政治家に神の一部まで眷属らしい。
そこまでの悪党は中々いない。どんな世界であれ、恐れられる奴はいるものだ。
それが英雄ではなくともな───我々は待ち合わせていた浮浪者に見せかけている繋ぎ人の中華人と交渉し、大きな屋敷に案内された。

いやこの場合、魔物の潜む城だった。




例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!