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モウレツな意地の張り合い

自転車が壊れ、押して歩いていたところを地元漁師の方に拾っていただき二日間泊めていただいた。

三日目の昼にまだ小雨が降っていたので、「もう一泊していっていいんだぞ。」と丸いメガネの奥の優しい瞳で漁師のお父さんが言う。

しかしさすがに申し訳ないので出発する事にした。

幸い、近くに無料のライダーハウスがあるようだった。
道の駅に併設された施設で、鉄道列車の客車を改装した味のある宿である。

漁師のお父さんの奥様がオニギリを持たせてくれていた。

先客の中にママチャリで日本25周目だというおじいちゃんがいた。
20年以上にわたって自転車旅の生活をしているらしい。
その愛用のママチャリのカゴには、カンパを募る文言を書いた板が張り付けられている。

おじいちゃんはグレーのスラックスに紫のジャンバーを着ていて、旅をしている風貌ではない。
歯の無い酔っ払いのような喋り方でやたらと声が大きい。
生粋の旅人というべきか、ホームレスというべきか。

夕方になって雨が振り出した頃、今度は短髪色黒のガッチリした自転車日本一周青年がやってきた。

彼の名はH君。
4月に神奈川を出発して、2か月間で南側を周って北海道まで来たというから驚きの早さである。

H君は超がつく程の体育会系で、負けず嫌いということもわかった。

例のおじいちゃんがアウトドア用のガスバーナーを使っているのを見て、自分のバーナーの話を始めた。

「そのバーナーのガス、アウトドア用品店に行かないと買えなくて不便じゃないっすか?
これなら家庭用のカセットボンベが使えるから、絶対こっちのほうが便利っすよ。」

するとおじいちゃん。
「いやぁ!知ってるけどよぉ!オレが行った店では売ってなかったんだよぉ!」

「俺はネットで買いましたけどね。まぁ、4、5000円だったかな。」

「もっとなぁ!安いのがあんだよぉ!」

「いや、こんぐらいの値段するのしかないっすよ!」

「オレぁ知ってんだよぉ!」

「あっそ、おじいちゃん、俺はね、コレが欲しかったんだよ!
その安いのが欲しかったんじゃないんだよ!
コレが欲しかったの!
わかる?」

「あぁ、そうかぁ、それならいいんだ、、、
でも安いのがあんだよぉ、、、」

その後も、お米のおいしい炊き方や、カニ漁のバイトについてなど、くだらないことでヒートアップした意地のはりあいが2、3回あった。

H君は超体育会系だ。

つづく

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