リフレインするきりたんぽ
2014年5月17日
ひと月ほど前、福井の道の駅で知り合った青年が言っていた。
「はやくきりたんぽ鍋が食べたいよ。」
彼は秋田から自転車で日本一周しており、地元の味を懐かしんでいた。
「はんごろしの米粒が嫌って言う人もいるけどさ、俺はあれが好きだな。」
彼は染み入るように言った。
「きりたんぽはうまいよ。」
そのとき私の頭のなかに、食べたこともないきりたんぽの香ばしい焦げ目や、少し甘みのあるはんごろしの米粒の食感が染み入ってきた。
そして、彼の発言が私の頭の中でリフレインした。
「きりたんぽはうまいよ。うまいよ。うま、、、」
「はんごろしの米粒が、米粒が、こめ、、、」
頭の中で繰り返される彼の言葉で、秋田に入ってからの脳内の一部はきりたんぽに占拠されていた。
どこかで食べようと地図でチェックはしたものの、天気が悪く、雨が降って有名店を通り過ぎることが多かった。
そうこうしているうちに、あと数kmで青森県というところまできてしまっていた。
残されたきりたんぽのお店は一つ。
矢立峠という峠の上に立てられた宿泊施設のレストランのみ。
名店の雰囲気は漂っていないがどうしても食べてみたかったので立ち寄ることにした。
9時半に到着した私は、開店時間の11時まで待っていた。
その時、あることに気づく。
「財布に1200円しか入ってへん。
ま、1000円くらいで食べられるやろ。」
レストランの営業が始まり、自動ドアをくぐって見ものは。
【比内地鶏のきりたんぽ鍋 1600円】
お金が足りない。
峠道に入ってからはコンビニも見当たらなかったので、つまりATMも無い。
秋田の彼の話できりたんぽに対する期待が大きくなりすぎた。
どうしてもあきらめきれずに店内を物色していると、一筋の光が差し込む。
【きりたんぽ鍋セット 1080円】
その晩、青森県の道の駅に張ったテントの中で一人きりたんぽ鍋を食べた。
味はともかく、秋田のどこまでも田んぼが広がる景色は素晴らしかった。
つづく
みなさまのご支援で伝統の技が未来に、いや、僕の生活に希望が生まれます。