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マイスリーに溺れながらシュヴァンクマイエルを眺める
ストップモーションアニメーションの巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエル。
シュルレアリスムな表現、実写とストップモーションアニメが入り混じる映像、そして極端にグロテスクな食事の描写。
『アリス』(Něco z Alenky)は、1988年にスイス、イギリス、ドイツによって製作されたチェコスロバキア映画。ヤン・シュヴァンクマイエル監督で、同監督の初長編映画。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を原作に、シュヴァンクマイエル独自の世界観で脚色、映像化した作品。通常の不思議の国のアリスと異なり、ダークで陰気な雰囲気が全編を通して漂っている。生身の役者の演技と人形アニメーションとを組み合わせており、アリス役のクリスティーナ・コホウトヴァー以外はすべて人形である。1987年度アヌシー映画祭最優秀長編アニメーション映画賞受賞作。
(引用元 : https://ja.wikipedia.org/?curid=1622292 )
トリップムービーとしての相性が良く、マイスリーを飲んだ後はよくシュヴァンクマイエル作品を眺めている。
トリップムービーにおあつらえ向きである理由は、シュルレアリスムが掲げる概念と、そこから生み出される作品の不気味さ、非現実的な世界観などが挙げられるだろうか。
冒頭に掲載した映画『アリス(1988)』中のワンシーン。
この『アリス』は、『ふしぎの国のアリス(1865/ルイス・キャロル著)』を題材にした、実写とストップモーションアニメが入り混じるシュルレアリスム作品である。
ストップモーションアニメに用いられる不気味な人形たち
ルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』をテーマにした作品でありながら、グロテスクとも言える映像で物語は進んでいく。
ディズニーアニメーションが製作した『ふしぎの国のアリス(1951)』は、子供向け映画ということもあるのだろう、シュヴァンクマイエルの『アリス』ほどグロテスクな描写は見受けられない。
一方で、ディズニー版アリスにも奇抜な色使いや、おどろおどろしい話し声の入った劇伴など、直接映像として映らないもののグロテスクな描写がたびたび現れる。
これらの類似点を見るに、キャロルの原作からすでにアシッディーな印象を受けるアーティストが多いのではないか、と推測する。
ディズニー映画とアシッディーな描写
ディズニーでもたびたびトリップムービーと言えるようなアニメ映画を製作している。
例えば『ダンボ(1954)』では、ピンクの象が分裂を繰り返しながらダンボに迫るシーンがある。
ビビッドな色彩の象たちが、一歩また一歩とダンボに詰め寄っていくシーンは、トリップムービー以外に適切なカテゴライズが見当たらない。
『ダンボ』は、ディズニー映画ということもあってかおおむねハッピーエンドを迎える。
しかし、あの奇抜な描写が与える衝撃や、サーカス内での陰惨な生活ぶりが子供時代のトラウマになった方は私だけではないだろう。
"食への嫌悪"描写
さて、これは一体何でしょう?
答えは懐中時計にバターを塗っているシーンです。
マッドハッターが主催するお茶会の一参加者は、これを好んで食べ続けている。
『アリス』に留まらず、シュヴァンクマイエル作品ではわざと食事という行為をグロテスクに描き上げている。
こうした描写の理由のひとつとして、本人が「子供の頃から食べるということが好きではなかったからだ」と発言している(「シュヴァンクマイエルのキメラ的世界 幻想と悪夢のアッサンブラージュ」)。
(引用元: https://ja.wikipedia.org/?curid=33754 )
「食事が好きではない」という主張には、強い共感を覚える。
それを映像作品の中に演出として取り入れる手法には、食への嫌悪がカタルシスへ繋がるような、過去の経験を昇華したような、芸術家の強さと探求心が伺える。
シュヴァンクマイエルの短編作品『肉片の恋』や『フード』は、食への嫌悪描写がことさら顕著だ。
『肉片の恋』は、生肉を用いたストップモーションアニメで、生肉がさながら人間のように睦み合う。
『フード』は、朝食・昼食・夕食からなる3部作の短編作品。
これらに現れるどの食事も到底美味しそうとは言い難く、そして登場人物たちは悲惨な末路を迎える。
どちらもアニメーション作品としての技術力や、物語の発想力には感嘆させられる。
「食事への嫌悪感」という感情に共感を覚える人は、特にシュヴァンクマイエル作品へ没頭できるかもしれない。
そして、生命活動の根幹を成す食を何よりも醜く描くこと。
この描写自体に、一般的な世界観とは外れた視点が見いだされる。
シュヴァンクマイエル作品がトリップムービーとして心地よいのは、こういった部分も関係があるように思えてならない。
アート、またはトリップムービーとしてのシュヴァンクマイエル作品
何かしらでトリップする際、映像や音楽をセッティングに用いられる場合が多い。
ここまで散々述べてきたように、シュルレアリスムの世界観を全面に押し出したシュヴァンクマイエルのアニメーションは、アートとしてはもちろんのこと、トリップムービーとしても抜群だ。
ここではシュヴァンクマイエルの中で好きな作品から、入手難易度が低いものをメインに取り上げたい。
・アリス
冒頭でも取り上げた、シュヴァンクマイエル代表作の一つ。
誰もが一度は目にしたことがあるであろう、『不思議の国のアリス』を下敷きとしているので話の内容にもとっつきやすい。
2020年9月現在、Amazon Primeビデオでも配信されているため、最も手軽に視聴できる作品。
・悦楽共犯者
シュヴァンクマイエルの中でもストーリー性が高く、わかりやすい作品。
セリフが一切無いにも関わらず、物語の内容や登場人物同士の繋がりがすっと頭に入ってくる。
6人の人物がそれぞれ自分の欲求を満たすべく、自慰機械を開発するという筋書きだが、直接的な描写は一切無い。
また、特徴的なストップモーションアニメも他作品に比べて登場頻度が少なくなっている。
しかし、衝撃的なラストシーンにすべてが収束する流れには度肝を抜かれる。
・オテサーネク
シュヴァンクマイエルの出身地である、チェコの民話を基にした作品。
不気味なアニメーションがふんだんに挿入され、それがホラーなテイストを引き立てている。
人間のおぞましい部分が生々しく描かれていて、シュヴァンクマイエル作品の中でも特に不気味な物語。
上記2作品と比べると、ややストーリーが難解かもしれない。
・ルナシー
「これはホラー映画です。アート作品ではありません」
冒頭に、監督自身からこのようなメッセージが告げられる。
エドガー・アラン・ポー、マルキ・ド・サドから影響を受けたという、シュヴァンクマイエルいわく「ホラー映画」。
アニメーション描写は健在ながらも、長編作品の中では最もエンターテイメント性が高い。
主人公は精神病、その母親も精神病院で亡くなっており、主人公が出会う”公爵”も精神病を患っている、とあちらこちらに狂気が散りばめられている。
タイトルの「ルナシー(Lunacy)」は、これまた直球で、精神異常・心神喪失を意味する。
物語の中、主人公はたどり着いた地下室である奇妙な人物と出会う。
このシーンは『ルナシー』の中で最も印象に残っている。
傑作揃いの短編作品
これら長編作品以外にも、数多くの短編作品が発表されている。
限られた時間の中でありとあらゆる表現を用い、独特な発想から展開される短編作品はどれも傑作揃い。
シュヴァンクマイエルに魅了された方にはぜひ視聴してほしい。
残念なことに、短編作品集やコンプリート・ボックスはプレミアがついていて、入手困難な状況になっている。
特に『シュヴァンクマイエル コンプリート・ボックス』は発売時点の2倍ほどまで高騰中。
当時購入しなかったことを今でも悔やんでいるほど。
もし手に入れる機会に恵まれた際はぜひ彼の作品に耽溺してみたい。
アートアニメーションのススメ
シュヴァンクマイエルにとどまらず、アートアニメーションの世界には巨匠と呼ばれる監督が大勢。
ルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』は、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した名作だ。
映画の世界は広い。
ジャンル分けするだけでも多岐に渡り、一つのジャンルの中でもさらに細分化できる。
最近やっと『ミッドサマー』を観たのだが(そして噂に違わぬ名作だった)、これは「フォークホラー」というジャンルに分類されるらしい。
アートアニメーションは、他に比べまだ知名度の低いジャンルのように感じる。
トリップのお供に、または芸術かじってますアピールに、あるいはサブカルチャーに傾倒するあなたに、ぜひおすすめしていきたい。
まずはヤン・シュヴァンクマイエル作品、いかがでしょう。
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