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開業前におさえておきたい「ひと」に関する手続き(法人編)

初めて他人を雇用するときには、「いくつ書類があるの?」「どこにいつまでに提出すればいいの?」という基本的な疑問から、「うちは関係ないと思ってたのに!」「こんなに大変だったの!」という想定外の苦労まで、様々なハードルが待ち構えています。
初めての起業でこれらに完璧に対処することはほぼ不可能ですが、それぞれの官庁の担当者は必ず相談に乗ってくれますし、ある程度の事前知識を獲得しておけば安心です。

まず大前提として、被雇用者との間に取り交わす書類は、法律で定められた最低限のものだけでは不十分だという認識を持ちましょう。日本の法律は諸外国と比べると特に労働者を保護するようになっているため(労働者にとっては良いことではありますが)、何らかのトラブルが発生して裁判となった場合、ほとんどのケースで事業者側が敗訴しています。この記事の後半で被雇用者と事前に取り交わすべき書類の一部を羅列しましたのでぜひご確認ください。

それでは雇用に必要な手続きを見ていきましょう。

社会保険

法人(株式会社、合同会社)は従業員の人数にかかわらず、社会保険の強制適用事業所となります。たとえ社員が社長ひとりでも社会保険への加入が義務付けられています。

場所:年金事務所
期限:設立から5日以内
提出する書類:
  ・健康保険・厚生年金保険新規適用届(最初だけ)
  ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(全員分都度)
  ・健康保険被扶養者(異動)届(扶養者がいる全員)

労働保険

労働保険料は前払いです。もし足りなかった場合は、不足分を翌年に払うことになります。多く払いすぎた場合は、余剰分を翌年に持ち越すか、還付を受けるか選択できます。手続きが簡単なのは翌年に持ち越す方法です。開業当初の現金は貴重ですので、確定している人数で申告することをお勧めします。

場所:労働基準監督署
期限:事業を開始した日から10日以内
提出する書類:
  ・保険関係成立届
  ・概算保険料申告書

雇用保険

雇用保険の手続きには労働基準監督署で提出した保険関係成立届の控えが必要なので、先に済ませておきましょう。適用事業所設置届、被保険者資格取得届を提出します。

場所:ハローワーク
期限:雇用した日から10日以内
提出する書類:
  ・適用事業所設置届
  ・被保険者資格取得届

ここまでは諸官庁に対する手続きでしたが、ここからは被雇用者に対する手続きについて記載します。

労働条件通知書

雇用にあたって契約書を用いる場合もありますが、「では、〇〇日からお願いします」という口約束であっても雇用契約は成立します。
労働基準法では、雇用契約が成立したら主要な労働条件を労働者に明示することになっており、慣例として使われているのが「労働条件通知書」です。法律上必須な項目が網羅されているので、特殊な場合を除いて活用しましょう。

就業規則

他人を雇うわけですから、会社のルールを定めた就業規則を準備しておく必要があります。勤務時間や有給休暇の取得方法、賞罰について細かく定める必要があります。
雇う際には被雇用者に必ず目を通してもらい、内容を理解したか、分からない点はないかなどの確認を取りましょう。

各種確認書

書類審査や面接でいくら気をつけても、雇ってみたら期待していたような人材ではなかったということは多々あります。「こんなはずではなかった!」と嘆いても日本の法律では解雇は大変難しいです。裁判では大抵使用者(会社)が負けて金銭的な解決に至っています。言った言わないの証拠では不十分なのです。
そんな時に頼りになるのが、各種確認書です。

就業規則に関する確認書

就業規則を読んだか、疑問に思う点がないか確認を取ります。確認ができたら就業規則を遵守する旨の確認書に署名してもらいます。

持病の確認書

よくあるケースとして、雇って1か月もしないうちに持病で入院。退院したらすぐまた入院。ノーワークノーペイの原則があるので、給与は発生しなかったが、退職を促して解雇。その後不当解雇で訴えられ、裁判で敗訴し金銭を支払うことに。
同様のケースは持病のほかに妊娠でも発生します。
もちろん持病や妊娠を承知して雇う場合は問題ありませんが、「聞かれなかったので言わなかった」という事態を避けるためにも、雇う前に必ず確認し署名してもらいましょう。入社前の健康診断を義務付けている会社もあります。

各種技能や免許

例えば社用車を運転させていたら、実は無免許だったというケースがあります。運転免許等の各種免許を取得しているか、期限が切れていたりしないか確認を取りましょう。

確認書を取得するメリット

確認書に署名してもらった上で、確認内容と異なる事実が発覚した場合は、雇用時に虚偽があったとして雇用契約自体を無効にできます。確認書を取得すれば裁判になった場合の有力な証拠になるだけでなく、雇用保険のペナルティを回避できるなど、大きなメリットがあります。デメリットは手間がかかる以外には特にないので、面倒くさがらずに取得するようにしましょう。

社会保険労務士の活用

以上の手続きは慣れている事務員の方でも大変な作業です。法改正も多いため、法律が変わったことに気づかず違法状態で運営していたという話も多く聞きます。そんな時に頼りになるのが社会保険労務士です。手数料はかかりますが、開業をひかえた慌ただしい時期に事業の準備に集中できるのは大きなメリットです。雇用という形で他人の人生を預かるわけですから、責任重大です。しっかり準備して万全の体制を整えましょう。

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