メルク社の「Vioxx」(非ステロイド性抗炎症薬)は1999年にアメリカで承認されましたが、18ヶ月以上の服用で心血管疾患のリスク増加が認められたため、2004年9月に市場から撤退しました。日本では承認されていなかったのであまり話題にならなかったようですが、この薬害から多くのことが学べます。メルク社は、HPVワクチン「ガーダシル」や「シルガード9」の製造販売元(日本での製造販売元はメルク社の日本法人「MSD株式会社」)です。
臨床試験でわかっていた危険性
今回は、先日の記事で少し触れたVioxxの薬害について取り上げます。
「Vioxx(バイオックス)」は日本では承認されていなかったのでネット上で日本語の資料はあまり見当たりませんが、『子宮頸がんワクチン問題』(みすず書房)に詳しく書かれていました。
以下、一部引用です。
さらに詳しく知りたい方は、ぜひ『子宮頸がんワクチン問題』をご一読ください。
以下は、未来を実装するメディア「WIRED」(2005年07月28日)より、一部引用です。
Vioxx服用患者の方が心疾患が多いのは、Vioxxがそのリスクを高めているというより、「ナプロキセンが心疾患を予防しているためだ」と主張したと書かれています。
けれども、2004年には「ナプロキセンの長期投与によって、心血管疾患や脳血管疾患イベントの発症リスクが増加する可能性がある」という記事が出ています。
そもそも、プラセボ群に薬の成分が入っていないものを使っていれば、このような言い訳もできなかったでしょう。本来は、本当の意味での「偽薬」を使って比較するのがプラセボ群のはずです。
メルク社ではこのようなやり方が当たり前になっていることに、なぜ医師たちは疑問を持たないのでしょうか。HPVワクチン「ガーダシル」や「シルガード9」でも、ほとんどのプラセボ群に生理食塩水を使っていません(下記参照)。
また、下記の論文には、Vioxxの訴訟で公開された内部文書から「種まき試験」の計画や実施も明らかになったことが書かれています。
The ADVANTAGE Seeding Trial: A Review of Internal Documents
19 August 2008
「種まき試験(seeding trial)」とは、新薬が市場に出て芽が出るように種をまくための臨床試験。科学研究を装った営業をすることで、多くの場合、関与させた医師は製薬会社から経済的支援を受けています。
下記の論文には、「種まき試験」について詳しく書かれています。
以下、一部引用です。
Seeding trial の発見と PROBE 試験の危うさ(齊尾 武郎 フジ虎ノ門健康増進センター)
下記はVioxxに関する2003年の記事ですが、ここに書かれている「ADVANTAGE」研究が「種まき試験」だったのです。
下記の論文では、「メルク社の内部文書からADVANTAGE研究 が科学として枠組み化されたマーケティングの一例であることを示している」と結論づけています。
製薬会社がこのような試験を行っていることは以前から知られていたようですが、Vioxxをきっかけにより注目されるようになりました。
和解金を支払っても責任は認めていない
下記の記事には、2007年11月にメルク社のVioxx訴訟は和解の合意に至ったと書かれています。
和解していますが、メルク社は責任を認めたわけではないということです。
アメリカの非営利メディア「NPR」の記事では、Vioxxに関するニュースを時系列でまとめています。
Timeline: The Rise and Fall of Vioxx
November 10, 20072:40 PM
2006年のところに、下記のように書かれています。
医学雑誌「ランセット」に掲載された研究によると、88,000人のアメリカ人がVioxxにより心臓発作を起こし、そのうち38,000人が死亡したと推定されている。
これほど多くの被害者が出ているのに、責任を認めない製薬会社を信用できますか? しかも、HPVワクチンの臨床試験についてもVioxxと類似点があるのです。
今起きている紅麹サプリメントの問題で、「メーカーの回収が遅かった」などという意見がありますが、メルク社は撤退が遅かっただけでなく、もっと悪質です。リスクがわかっていたのに、それを隠して販売を続けていたのですから。
<参考資料>
COX-2 阻害薬Vioxxの市場撤退をめぐって(1)水谷民雄
COX-2 阻害薬Vioxxの市場撤退をめぐって(2) 水谷民雄
Failing the Public Health — Rofecoxib, Merck, and the FDA