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国民に問うことなく勝手に決定!? 国際保健規則(IHR)の基本情報

2024年5月のWHO総会で、国際保健規則(IHR)の改正案とパンデミックに関する法的文書(通称:「パンデミック条約」)が採択される予定となっています。2022年5月にも、IHRはすでに一部改正されました。国民が知らないうちに重要なことが決められていることを知ってもらおうと、SNSでこれらに関する情報が多数発信されています。けれども、いろいろな情報が混ざってしまっているようです。まずは自分でも調べて、「事実」を確認することが必要なのではないでしょうか。

国際保健規則(IHR)

事実を確認するために、まず厚労省のサイトを掘り起こしました。国際保健規則(IHR)については、厚労省のサイトにも資料があります。以下は、健康危機管理部会のページで公開されている資料です。

第12回の資料に、国際保健規則(IHR)とはどのようなものか、シンプルに書かれた資料がありました。

参考資料3)国際保健規則(2005)について

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000509667.pdf

特に、*のところがポイントだと思います。

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000509667.pdf

留保や拒否を表明しないと、「国際保健規則(IHR)の拘束下にあるとみなされる」と書かれています。

では、留保や拒否は誰が決めているのでしょうか。これまでに、国民に問われたことはありません。

例えば、2022年5月に開催された第75回WHO総会でIHRの一部改正がすでに採択されましたが、採択される前に国民に意見を聞くことはありませんでした。厚労省のサイトには、下記のように書かれていますが、ただの事後報告です。何も知らずにこのページにたどり着く人はいないでしょう。公開しているだけで、知らせようとする気がないのです。

第75回WHO総会結果(概要)
1 概要
期間:2022(令和4)年5月22日(日)~5月28日(土)
対面会議
日本政府代表団:後藤茂之厚生労働大臣、日下英司国際保健福祉交渉官等
本会議では、7日間にわたり、全72議題について協議。18の決議と18の決定を採択。
※WHO総会は、全加盟国代表で構成される最高意思決定機関。毎年5月に開催され、保健医療に関する重要な政策決定を行う。

3 主な成果
(4)健康危機:2024年5月のWHO総会でのIHR改正案の採択に向け、交渉を行う加盟国作業部会及びIHR再検討委員会の設立を決定した。また、IHR第59条の改正に関する決定案が全会一致で採択された。
※ IHR(International Health Regulations: 国際保健規則)は、世界保健機関(WHO)憲章第21 -22条に基づく国際規則であり、その目的は、国際交通に与える影響を最小限に抑えつつ、疾病の国際的伝播を最大限防止することである。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kokusai/tp210607-01_00002.html

「IHR第59条の改正に関する決定案」は、国民に知らされることなく、全会一致で採択されたのです。

第59条には、どのようなことが書かれているのでしょうか。国立国際医療研究センターのサイトに資料がありました。

2022年 5月22日から5月28日にかけて開催された第 75回世界保健総会(World Health Assembly)において、疾病もしくは公衆衛生に関連した議題で採択された決議(Resolution)・決定(Decision)の日本語訳(仮訳)を掲載します。なお、この日本語訳は参考のための仮訳であり、正確には原文をご参照ください。
原文(英語)は、WHOの以下のURLからダウンロードすることが可能です。http://apps.who.int/gb/e/e_wha75.html (2023年2月10日アクセス)。

https://kyokuhp.ncgm.go.jp/library/who/2022/WHA75.pdf

第75回世界保健総会 決議・決定(仮訳)

以下、一部引用です。

第59条:発効、拒否または留保の期間
1.本規則の拒否または留保についてWHO憲章第22条の執行により規定された期間は、保健総会によるこれらの規則の採択が事務局長により通知された日から18ヵ月とする。その期間の満了後に事務局長が受領した拒否または留保は、いかなる効力ももたない。

附則1 WHO憲法第22条の執行により規定された、本規則の改正の拒否または留保の期間は、保健総会が本規則の改正の採択が事務局長により通知された日から10ヵ月とする。その期間の満了後に事務局長が受領した拒否または留保は、いかなる効力ももたない。

https://kyokuhp.ncgm.go.jp/library/who/2022/WHA75.pdf

「本規則の拒否または留保の期間」は18ヶ月、「本規則の改正の拒否または留保の期間」は10ヶ月と書かれています。

日本語だと思い込みもあり、何度読んでもよくわからなかったのですが、原文を確認してやっと「改正」に気づきました。

https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/WHA75-REC1/A75_REC1_Interactive_en.pdf#page=1

この資料だけでは改正前がどうだったのか書かれていないので、確認しました。おそらく、厚労省のサイトで公開されているものが現時点での最新版(改訂前)だと思います。

第五十九条 発効、拒絶又は留保のための期限
1.本規則又はその修正に対する拒絶又は留保のため WHO 憲章第二十二条の執行上設けられる期間は、WHO が本規則又は本規則の修正を採択した旨事務局長が通告する日から十八箇月とする。かかる期間の満了後事務局長が受取る拒絶又は留保はいずれも効力を有しない。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

「本規則又はその修正に対する拒絶又は留保」の期間は、18ヶ月と書かれています。

2022年5月の改正では、「本規則(18ヶ月)」と「本規則の改正(10ヶ月)」に分けられたということのようです。改正に関しては、拒否や留保できる期間が大幅に短くなっていますが、なぜ「改正」だけ短くする必要があるのでしょうか。2024年5月の改正は、何としてでも施行したいということなのかもしれません。

施行に関しても、改正前のものを見ると24ヶ月後となっていますが、改正後は「本規則の改正は12ヶ月後となっています。

改正前

2.本規則は、本条第一項に掲げる通告の日から二十四箇月後に効力を生ずるものとする。但し、次の場合はこの限りではない。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

改正後

2.本規則は、本条第1項に規定された通知日から24ヵ月後に施行し、本規則の改正は、以下の場合を除き、本条第1項の附則1に規定された通知日から12ヵ月後に施行する。

https://kyokuhp.ncgm.go.jp/library/who/2022/WHA75.pdf

これは2022年5月に採択されているので、まだ施行されていないはずです。つまり、拒否できる期間は18ヶ月であり、施行されるのは24ヶ月後です。これを拒否しなければ、その後の改正に関しては拒否できる期間が10ヶ月、施行が12ヶ月後に変わってしまうということだと思います。

だから、「拒否できるのは2023年11月末まで!」という情報が拡散されているのでしょう。けれども、拒否する内容に関する情報が2024年5月に採択されるものと混ざっている発信がたくさんありました。

外務省の「パンデミックの予防、備え及び対応(PPR)に関するWHOの新たな法的文書 (いわゆる「パンデミック条約」)の交渉」(令和5年10月10日)というページに、下記の資料があります。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ghp/page23_004456.html

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100559301.pdf

一番下の段には、IHR改正のスケジュールが書かれており、第59条改正の「発効」は2024年5月となっています。

けれども、この資料には拒否・留保できる期間について書かれていません。まるで、拒否しないことが前提のようです。

いずれにしても、このようなことが国民に知らされず、国民が選んでもいない人たちが勝手に決めていることが問題です。

今までは、ほとんどの国民が知らなかったので、勝手に決めることができていたのでしょう。けれども、今は少しずつですが気づいた人が増えています。今必要なことは、「国民が知っている」ことを「決めている人たち」に知らせることではないでしょうか。

追記:
「2022年5月に採択された改正(※)への拒否」(拒否期限は2023年12月1日)については、2023年12月12日に開催された「超党派WCH議員連盟(仮称)第2回総会」にて、厚労省から下記の回答がありました。
※「IHR改正の拒否または留保の期間」が18ヶ月から10ヶ月に短縮され、改正の施行が24ヶ月後から12ヶ月後に短縮。

結論から申し上げますと、改正したものに対して拒否または留保はしていません。理由は、できるだけ早く世界がパンデミックに対応できるようにというような趣旨です。

厚労省回答


詳細は、下記で取り上げています。


2024年5月の改正

いろいろな情報が混ざっている原因の1つは、2024年5月に大きな改正案が採択される予定だからだと思います。厚労省のサイトにも、作業進捗の資料がありました。

資料4 国際保健規則(IHR)に基づく活動について


https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001075053.pdf

これだけでは何をしようとしているかわかりません。改正案の原文は公開されています。英語が得意で法律に詳しい方は、ぜひ原文から読み取れることを発信してください!

「国際保健規則(IHR2005)」の改定案 原文

日本語に訳して発信してくれている人もいますが、まずは「原文を見る」ことが大切だと思います。そうしなければ、それが「事実」なのかわかりません。

私にはこれを正確に理解して、情報として発信する力はないので、厚労省のサイトで公開されている関連情報を掘り起こしました。

下記は、2023年5月13日(土)~14日(日)に長崎で開催されたG7保健大臣会合に関する資料です。

別紙2 G7長崎保健大臣宣言(抄訳)

下記に出てくる「WHO CA+」は、「パンデミック条約」と呼ばれているもので、IHRの改正とはまた別のものです。この2つが同時に進められていることも、情報が混ざってしまう原因となっていると思います。

【パンデミック条約及び IHR 改正】
17. 我々は、国際的な規範・規則の強化は、パンデミック PPR にとって不可欠であり、ワンヘルス・アプローチに則った国、地域、世界レベルで、ヒト、動物、植物、環境、さらには社会や経済に対する健康危機への負の影響を最小限に抑えるために、重要な役割を果たすことを再確認する。我々は、2024 年までに WHO CA+の交渉を終了させるべく、すべての関係者とともに、WHO CA+の草案作成と交渉のための政府間交渉における議論、また、国際保健規則の更新と強化を目的とした改
正案に関する補完的な作業に貢献し、そのモメンタムを持続させるという確固たる決意を改めて表明する。WHO CA+及び国際保健規則に係る交渉は、補完性を確保しつつ、ギャップや重複を避けるために、密接に関連させる必要がある。どちらのプロセスにおいても、世界中の国々によってその能力及びパフォーマンスを評価するために用いられてきた、既存のレビューとモニタリングの仕組みや、実施に関する技術支援、そして最近改訂された国際保健規則モニタリングと評価のための枠組みツール(JEE、SPAR、NAPHS、行動内・事後報告、シミュレーション
訓練等)を認識すべきである。

18. WHO CA+が効果を発揮するためには、パンデミック PPR の全サイクルを適切な形でカバーする必要がある。このような背景から、我々は、強固な公衆衛生対策を促進するために、人や動物から発見された病原体や遺伝子配列データを、生物学的安全性の担保された方法で、かつ、責任ある方法で迅速に共有することの重要性を強調する。この仕組みにおいて、予防は重要な柱でなくてはならず、我々は、パンデミックの脅威を早期に検知し、パンデミック PPR に対するワンヘルス・アプローチを定着させるために、多分野との協力と連携の強化を通じて、システムと能力の強化にコミットしている。パンデミックを防ぐためこの取組は、効果的かつ効率的な方法で AMR 対策にも取り組むべきである。加えて、遺伝子配列データを含む公衆衛生に係る情報及びデータの迅速な共有を強化することは、リスクを伝え、エビデンスに基づくアプローチを発展させるために重要である。

https://www.mhlw.go.jp/content/10500000/001096404.pdf

PPRとは、Prevention, Preparedness, Response のことで、パンデミックの予防、備え及び対応を指すようです。

キーワードとして「ワンヘルス・アプローチ」が気になります。下記は、広報誌「厚生労働」2023年11月号で紹介されているようです。厚労省のサイトから、一部引用します。

動物からヒトへ、ヒトから動物へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)は、すべての感染症のうち約半数を占めています。また、抗菌薬の不適切な使用を背景としたヒト、動物、食品、環境等における薬剤耐性(AMR)を持つ細菌の出現が、国際社会で大きな課題となっています。

ワンヘルス・アプローチとは、こうしたヒト、動物、環境の健康(健全性)に関する分野横断的な課題に対して、関係者が協力し、その解決に向けて取り組むことを指します。この動きは世界的にも広がっています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202311_005.html

ここでさらに、「薬剤耐性(AMR)」が気になります。

WHOのサイトには、「Vaccines could avert half a million deaths associated with anti-microbial resistance a year」28 July 2023(ワクチンはAMRに関連する年間50万人の死亡を回避できる可能性がある)という記事があります。

A new study published in the BMJ Global Health has found that over half a million lives could be saved each year with the effective use of existing vaccines and the continued development of new vaccines to tackle priority pathogens. The study highlights the importance of preventive measures including vaccination in slowing and containing the spread of AMR.

https://www.who.int/news/item/28-07-2023-vaccines-could-avert-half-a-million-deaths-associated-with-anti-microbial-resistance-a-year

「BMJ Global Health」に掲載された新しい研究によると、既存のワクチンを効果的に使用し、優先病原体に対処するための新しいワクチンの開発を継続することで、毎年50万人以上の命が救われる可能性があることが判明したとのこと。

同じくWHOのサイトに、「Urgent call for better use of existing vaccines and development of new vaccines to tackle AMR」12 July 2022(AMR に対処するために、既存のワクチンのより効果的な使用と新しいワクチンの開発を緊急に求める)という記事もありました。

「抗菌薬耐性菌の静かなパンデミックは、公衆衛生上の大きな懸念となっています」「ワクチン接種による感染症の予防により 、AMR の主な要因の 1 つである抗生物質の使用が減ります」などと書かれています。

AMRについては、厚労省のサイトにも資料があります。

資料1-2

https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000923952.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000923952.pdf


薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン
National Action Plan on Antimicrobial Resistance
2023-2027

新たな予防法の研究開発の推進
ヒト及び動物の感染症の罹患を減少させる新たなワクチンの研究開発の推進

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/ap_honbun.pdf

どう考えても、ワクチン開発とつながっています。

新型コロナウイルス感染症を振り返ると、2019年12月に中国の武漢市で確認され、WHOは2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だと宣言しました。その後、世界的な感染拡大の状況などから3月11日にテドロス事務局長が新型コロナウイルス感染症をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明。つまり、WHOが宣言したらパンデミックとみなされるのです。

国のトップはどのような考えなのか、ランセット誌への寄稿文(令和5年1月21日)を見てみましょう。以下、首相官邸のサイトから一部引用です。

また、パンデミック対策として、国際的な規範や規制を強化することも重要である。この観点から、日本政府は、国際保健規則(IHR)の改正とあわせて、WHO(世界保健機関)のパンデミックへの対応に関する法的文書(WHOCA+)の作成を重視している。G7メンバーの議論が、これらの国際的な規範や規則に関する重要な要素について方向性を見いだす一助となると信じている。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/discourse/20230121contribution.html

これでは、IHR改正やパンデミック条約と呼ばれる文書の作成に、反対するとは思えません。

このまま黙っていたら、これまでのように勝手に決められてしまうでしょう。「増税メガネ」と呼ばれるのがイヤで減税しようとしているぐらいなので、多くの人がSNSで発信すれば力となるかもしれません。選挙に当選することだけを考えている議員には、IHRを黙って受け入れるなら次の選挙では「投票しない」と意思表示するのもよいかもしれません。そもそも、IHRのことを知らない国会議員もいるようです。そんな人たちに、日本を任せられるでしょうか。

いずれにしても、発信される情報が正確でなければ、「国民はまだわかっていない」と思われて、うまく丸め込まれてしまうでしょう。

まずは国民一人ひとりが、「事実」を調べる努力をする必要があるのではないでしょうか。

<参考資料>


https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000509667.pdf

大臣官房 厚生科学課



厚労省の研究成果データベースより

国際保健規則(IHR)の強化とパンデミックに関する新しい国際文書に関して国際法学の見地から検討・分析
保健関連国際文書の交渉プロセス並びに法整備に関する研究 獨協大学法学部 鈴木淳一

WHO 関連会議に参加し、各国の発言を記録・整理・分析
WHO検証・改革に当たるWHO加盟各国のスタンスの整理・分析に関する研究 研究開発法人国立国際医療研究センター国際医療協力局 横堀雄太

医薬品開発協議会 2022年2月28日 より

資料1-2:石井参考人(東京大学医科学研究所感染免疫部門・ワクチン科学分野教授)提出資料 「これからのワクチンデザイン」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/iyakuhin/dai7/siryou1-2.pdf


100 日ミッション達成に向けた G7 への提言
2023 年 G7 グローバルヘルス・タスクフォース
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