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海外から治験を誘致するために日本の魅力をアピール!?
2024年3月14日に、「第11回 医薬品開発協議会」が開催されました。国内の幅広い創薬活動の推進に向けた検討体制を構築するために、それまでの「創薬支援ネットワーク協議会」を廃止して、新たに健康・医療戦略推進会議の下に儲けられたのが「医薬品開発協議会」。首相官邸のサイトには、内閣官房、文部科学省、厚生労働省、経済産業省などによる資料が公開されています。
岸田首相の発言とは?
Xでは、「岸田首相が『世界一治験しやすい国を目指す』と言った」というような内容のポストが多数見られます。これはおそらく、原口一博議員が国会で「岸田首相がおっしゃった」と言っている動画が拡散されているからだと思います。
(ワクチン関連30:13~)
「岸田首相は、日本は一番治験しやすい国にするとかおっしゃってるわけです」(上記は該当部分付近から始まります)
動画で、原口議員が忍者のようなワクチンだと説明しているものは、下記の自己増殖型(レプリコン)ワクチンのことです。日本ではすでに承認済みで、今年の秋冬から接種が始まる予定ですが、他国ではまだ承認されていません。
新型コロナウイルス感染症に対する次世代 mRNA ワクチン(レプリコン)
「コスタイベ筋注用」の起源株及びオミクロン BA.4-5 株に対応する2価ワクチンの国内第Ⅲ相臨床試験結果のお知らせ
先日下記の記事で取り上げた「第5回 超党派WCH議員連盟(仮称)総会」でも、岸田首相の発言として同じようなことが語られました。
アドバイザーとして参加している井上正康氏の発言より
「(多額の予算でワクチン開発が進められようとしていることについて)最近、サルの値段がものすごく上がってるんでね。日本人を使って治験大国にすると岸田さんがおっしゃっておりますが、こういうことを受けて厚労省がやっておられるんだと思います」(発言全体は43:00頃~)
原口議員と井上氏は微妙に言葉が違っていて、実際はどのような発言だったのか知りたかったのでかなり調べましたが、動画や議事録を見つけることはできませんでした。
Xでは「岸田首相が言っていた」と断言して拡散している人がたくさんいますが、岸田首相本人が語っている動画などを貼っている人は見当たりません。皆さん、自分で動画等で発言を確認したのでしょうか。
原口議員が国会で言っても誰も否定していないので、事実なのだとは思いますが、伝言ゲームのように、実際に発せられた言葉から変わってきている可能性もあります。自分が直接聞いたのではないなら、拡散する前に何月何日にどこでそのような発言をしたか、確認する必要があると思います。
実験用のサルが値上がりしているのは事実
岸田首相の発言は見つけられませんでしたが、実験用のサルについては下記の記事がありました。
実験用サルの価格、コロナ流行前の5倍に高騰…中国輸出停止の影響か「20頭で1億円以上必要」
2024/01/30 07:10 読売新聞オンライン
新薬開発や医学研究に必要な実験用サルの価格が高騰している。世界最大の供給国だった中国が、新型コロナウイルスが流行した2020年以降、輸出を止めている影響とみられ、日本製薬工業協会(製薬協)の調査では、コロナ流行前の5倍に跳ね上がった。厚生労働省の研究班が実態調査を開始した。
サルは、開発中の薬やワクチンの安全性や有効性を確認するため、人に投与する試験の前の段階で使われる。国内でのサルの繁殖は限定的で、ほとんどはアジア諸国からの輸入頼りだ。
製薬協の昨年の調査では、実験用として主に使われるカニクイザルの価格が、新型コロナ前の1頭数十万~100万円程度から、約3年で500万円前後まで上がった。眼科領域の治療薬開発を目指し、大学発ベンチャー(新興企業)を設立した研究者は「サルの試験のために20頭で1億円以上必要。資金が足りず、開発が進まない」と訴える。
(以下略)
第11回医薬品開発協議会
医薬品開発協議会の資料にも、実験動物に関することが書かれています。
令和6年3月14日(木)開催
資料2:医薬品の研究開発における論点と対応案について
(内閣府 健康・医療戦略推進事務局 厚生労働省)
![](https://assets.st-note.com/img/1711168479899-BDWJxd0d2M.png?width=800)
項目3:新規モダリティ等に対応するレギュラトリーサイエンス研究
2.近年の実験動物の国際的な不足や有事による供給不足に対応するための方策を検討すべきではないか。
① 動物代替試験法若しくは霊長類を利用しない動物試験法の開発(実験動物不足及び有事対応も考慮)<厚>
・実験動物を用いた研究体制の整備を進めると共に、ウイルス否定試験としての次世代シークエンサーの活用
実験動物が不足しているので、対策案として「霊長類を利用しない試験法の開発」が書かれています。
![](https://assets.st-note.com/img/1711168474355-FKYptMbh9B.png?width=800)
項目6:治験実施体制(特に、国際共同治験)の強化と環境整備
日本の治験状況について調査・解析の上、日本の治験の優位性を各国、海外企業等にアピール
治験実施体制の強化について、「海外企業にアピール」と書かれています。
赤字は令和5年11月20日開催に開催された第10回の資料から変更になった部分とのことですが、変更前の資料は下記のように書かれています。
資料2ー3:医薬品の研究開発における論点と対応案について
![](https://assets.st-note.com/img/1711192010350-VD5lrAcLwt.png?width=800)
① 被験者となる健常人を効率よくリクルートする方法の検討
「健常人を効率よくリクルートする方法」なんて、あまりにダイレクトな表現なので変えたのでしょうか。
さらに、決定資料として下記が公開されています。
決定資料
![](https://assets.st-note.com/img/1711168509505-HMgU9LvKmV.png?width=800)
薬事承認プロセスの迅速化と基準整備
• 新たな感染症に備えて、あらかじめ臨床試験の枠組みに関する手順を作成
• 緊急事態に使用を認めるための制度の在り方を検討
承認プロセスを迅速化し、緊急事態に使用を認めるための制度を検討すると書かれています。
特例承認より、さらに安全性の確認をせずに承認できる制度ということになるのではないでしょうか。
第10回の別の資料にも、治験誘致について書かれています。
資料2-1:国立がん研究センター中央病院 国際開発部門 中村健一部門長説明資料
![](https://assets.st-note.com/img/1711003037931-RJbRHaNGRT.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1711003302985-Rht4mSmNPa.png?width=800)
Coordinating center機能
「海外主導」の国際共同試験を日本で円滑に実施するために必要な機能
例:海外からの治験誘致、海外sponsorとの交渉・契約、国内施設の調整
![](https://assets.st-note.com/img/1711003310504-smR2V06je8.png?width=800)
これらの資料から、海外企業に日本で治験をしてもらえるように、積極的にアピールしようとしていることも事実だと読み取れます。
内閣官房のサイトにある「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」のページにも、下記の資料が公開されています。
資料3 藤原構成員提出資料
![](https://assets.st-note.com/img/1711003326528-pX6vKycAFi.png?width=800)
厚労省でも同様の会議があり、治験について話し合われています。
「第9回 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会」(2024年3月21日開催)
治験エコシステムとは、国民にいち早く治療薬を届けるため、製薬企業、医療機関、規制当局、被験者等あらゆるステイクホルダーが協力して効率的に治験を行うシステムである。
![](https://assets.st-note.com/img/1711179494497-2urILiougN.png?width=800)
このような話し合いが進められていることも、事実です。
コロナワクチンの安全性も検証せず、自己増殖型のワクチンが世界で初めて承認され、医薬品の安全性がどんどん軽視されています。そして、今よりもっとスピードやコスト重視で新しい医薬品が開発・承認されるように話し合われているのです。
岸田首相が言ったとされる言葉だけを拡散するのではなく、今何が起きているか調べて、そこに目を向けることが大切なのではないでしょうか。
<参考>
薬事日報 2023年09月15日 (金)
中井氏は、「日本を魅力ある治験市場にする政策に変えていく時代だ。そのためには、無理に薬事で規制するより、品目によるが、効率的な治験、国際共同治験を進めることが重要との方向性で議論を進めていく」との考えを示した。
※中井氏とは、厚生労働省医薬局の中井清人医薬品審査管理課長