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レプリコン(自己増殖型)ワクチン 「倫理的な問題」から参加者全員に治験薬とプラセボを交互に接種!?

PMDAのサイトで、レプリコンワクチン(Meiji Seika ファルマ)の審査報告書が公開されていました。報告書を見ると「特例承認に係る報告書」とは書いていないので、特例承認ではないようです。けれども通常より短期間で承認されており、特記事項に「優先審査」と書かれています。緊急事態ではないのに、なぜ「優先審査」をする必要があるのでしょうか。

「コスタイベ筋注用」審査報告書

前回の記事では、ベトナムでの臨床試験やそれを受けてのベトナム保健省の反応などについて書きました。

SNSではまだ勘違いしている人がいるようですが、レプリコンワクチンの接種が開始されるのは2024年秋冬の予定です(下記参照)。

審査報告書は下記のページで公開されています。右端にあるので、見つけにくかったです。

コスタイベ筋注用審査報告書

3ページ目に特記事項として、下記のように書かれています。

[特 記 事 項]
新型コロナウイルス感染症の発生に伴う当面の医薬品、医療機器、体外診断用医薬品及び再生医療等製品の承認審査に関する取扱いについて」(令和 2 年 4 月 13 日付け厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課、厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課事務連絡)に基づく優先審査

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

以下、令和 2 年 4 月 13 日付けの事務連絡を確認しました。

新型コロナウイルス感染症の発生に伴う
当面の医薬品、医療機器、体外診断用医薬品及び再生医療等製品の
承認審査に関する取扱いについて

新型コロナウイルス感染症又は関連する症状を対象とする医薬品等については、当該感染症が生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあり、承認された医薬品等がないことを踏まえ、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和 35 年法律第 145 号)第 14 条第7項、第 23 条の2の5第9項及び第 23 条の 25 第7項に基づき、他の医薬品等の審査又は調査に優先して行うこと。なお、「優先審査等の取扱いについて」(平成 28 年1月 22 日付け薬生審査発 0122 第 12 号、薬生機発 0122 第2号)第14による優先審査の適用の可否の決定に係る手続きは不要とするものであること。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000631085.pdf

2023年1月27日開催の厚生科学審議会感染症部会で、江浪結核感染症課長が「新型コロナウイルス感染症は、感染症法に基づく私権制限に見合った『国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれ』がある状態とは考えられないことから、新型インフルエンザ等感染症には該当しないものとし、・・・」と言っています(下記参照)。


すでに「当該感染症が生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあり、承認された医薬品等がない」状況ではないと厚労省も言っているのに、なぜ優先審査の必要があったのでしょうか。

技術的なことはわかりませんが、以下、審査報告書から気になった部分を引用します。

1.起原又は発見の経緯及び外国における使用状況に関する資料等
今般、海外第Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ試験(ARCT-154-01 試験、ベトナムで実施中)及び国内第Ⅲ相試験(ARCT-154-J01 試験)等において、本剤の初回免疫及び追加免疫による有効性、安全性及び免疫原性が確認されたことから、それぞれ製造販売承認申請 1)された。2023 年 10 月現在、本剤は海外では承認されていない。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

やはり2023年10月現在、ベトナムでは承認されていないということです。2021年8月2日付の記事には、「臨床試験が中間評価で成功したと評価されれば、年末までにベトナム保健省により緊急使用許可(EUA)が出る予定」と書かれていたのに(下記参照)、まだ承認されていないのです。なぜ承認されていないか、考える必要があると思います。


2.R.1 新添加剤について
製剤には、添加剤としての使用前例がない ATX-126筋肉内投与での使用前例がないソルビン酸カリウムが使用されている。また、コレステロール、DSPC 及び PEG2000-DMG は「特定の製剤や特定の条件下においてのみ使用が認められた添加物の取扱いについて」(平成 21 年 6 月 23 日付け事務連絡)で特定の製剤でのみ使用が認められているが、本剤の投与経路、一日最大使用量等は、既承認の感染症予防ワクチンの使用前例の範囲内である。機構は以下の検討から、ATX-126、コレステロール、DSPC 及びPEG2000-DMG は、感染症予防ワクチンにおいて使用されることは許容するが、一般的な添加剤の使用前例としては取り扱わないことが適切であると判断した。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

一般的な添加剤の使用前例としては取り扱わないことが適切であると判断したのに、感染症予防ワクチンでは使用されることが許容されています。

黒塗り具合は、ファイザー社やモデルナ社よりは少ない印象ですが、いろいろ気になります。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf
https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf
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3.2 安全性薬理試験
本剤を用いた独立した安全性薬理試験は実施されていない。申請者は、ウサギを用いた反復投与毒性試験における評価から、本剤の投与による心血管系、呼吸器系、中枢神経系への影響は認められなかった旨を説明している(CTD4.2.3.2)。

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3.R 機構における審査の概略
機構は、提示された効力を裏付ける試験の結果から、本剤の感染防御効果は期待できるものと考える。また、提示された安全性薬理試験の結果から、本剤の安全性について特に懸念事項はないものと考える。

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独立した安全性薬理試験は実施されていないのに、「本剤の安全性について特に懸念事項はないものと考える」と言っています。

4.非臨床薬物動態試験に関する資料及び機構における審査の概略
本剤を用いた非臨床薬物動態試験は実施されていない。本剤の薬物動態に関する資料として、mRNA-2002 を原薬とする LNP 製剤(ARCT-021)を用いたマウス及びウサギの生体内分布試験成績等が提出さ
れた。

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ARCT-021は、変異を含んでいないものです。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf


4.2.2 ウサギ反復筋肉投与における生体内分布(CTD4.2.3.2-02)
<ATX-126>
ATX-126 は、血漿、筋肉、腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓及び卵巣で検出され、その他の組織からは検出されなかった。40 μg 投与群の結果を表 7 に示す。57 日目に肝臓、脾臓、筋肉及び卵巣で検出されたが、いずれの組織においても毒性学的意義のある病理組織学的所見はみられなかった。

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4.3 代謝(CTD4.2.2.4-01~4.2.2.4-03、参考)
mRNA-2002 及び S タンパク質の代謝を評価する試験は実施されていないが、mRNA-2002 は小さなオリゴマー及びモノヌクレオチドに、S タンパク質はペプチド及びアミノ酸に分解されると予想される。
また、LNP の構成成分である DSPC、コレステロール及び PEG2000-DMG は、既承認薬で使用実績があることから、これら添加物の代謝を評価する試験は実施されていない。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

4.4 排泄
排泄に関する試験は実施されていない。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

4.R.1 本剤の非臨床薬物動態について
通常、投与された mRNA は、生体内の核酸と同様に速やかに代謝されるが、LNP に封入することでmRNA が代謝されることなく細胞内に取り込まれる。そのため、LNP に封入した mRNA の体内動態は、封入される mRNA ではなく、主に LNP の組成や粒子の大きさに依存する(Mol Ther Nucleic Acids 2019;15: 1-11、Nanomedicine (Lond) 2016; 11: 673-92)。
本剤及び ARCT-021 の成分は類似しており、LNP の組成及び LNP:mRNA 比は同じであるため、ARCT-021 の成分の組織分布及び消失の結果(4.1 及び 4.2)は、本剤に外挿可能であると考える。
なお、脂質の ATX-126 については、半減期が長く、長期にわたって残存する可能性が高いものの、ウサギ反復投与毒性試験において有害な病理組織学的所見は認められていない(5.2 参照)。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf


5.3 遺伝毒性試験
本剤に含まれる mRNA は天然型の核酸から構成され、新添加剤(ATX-126、コレステロール、PEG2000-DMG 及び DSPC)にも遺伝毒性の懸念がないことから(2.R.1.2 参照)、本剤を用いた遺伝毒性試験は実施されていない。

5.4 がん原性試験
本剤は臨床での使用が 6 カ月以上継続される医薬品ではないことから、本剤を用いたがん原性試験は実施されていない。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

レプリコンは世界初の技術なのに、いろいろ実施していない試験があります。「懸念」がなくても、万が一ということを考えて試験を行うように指摘するのが審査だと思っていましたが、そうではないようです。


以下の説明を読んで、前回の記事で気になっていた、プラセボ群についてわかりました。
※プラセボは生理食塩液と書かれています。

7.2.1.1 ARCT-154-01 試験パート 1、2、3a
18 歳以上の健康成人を対象27)
(目標例数:パート 1 100 例、パート 2 300 例、パート 3a 600 例、
各パートで本剤群又はプラセボ群の割合は 3:1)に、本剤の安全性及び免疫原性の検討を目的とした無作為化観察者盲検28)プラセボ対照並行群間比較試験がベトナムの 16 施設で実施された。

用法・用量及び割り付けは、パート 1 では、本剤 5 μg 又はプラセボ(生理食塩液)に 3:1 で無作為割り付けとし、28 日間隔で 2 回筋肉内接種された。また、2 回目接種から 2 カ月後(Day 92)に、プラ
セボ群には本剤を、本剤群にはプラセボを 28 日間隔で 2 回筋肉内接種された。パート 2 及び 3a では、本剤 5 μg 又はプラセボに 3:1 で無作為割り付け29)し、28 日間隔で 2 回筋肉内接種された。2 回目接種から 2 カ月後(Day 92)に、初回割り付け時に本剤を接種された被験者は、本剤 5 μg 又はプラセボに 3:1 で無作為に割り付けられて 1 回筋肉内接種、さらに 28 日後にプラセボを筋肉内接種し、初回割り付け
時にプラセボを接種された被験者は本剤 5 μg を 28 日間隔で 2 回接種された。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

7.2.1.2 ARCT-154-01 試験パート 3b
18 歳以上の健康成人を対象(目標例数:16000 例32)
(本剤群 8000 例、プラセボ群 8000 例))に、本剤の有効性及び安全性の検討を目的とした無作為化観察者盲検プラセボ対照並行群間比較試験がベトナムの 16 施設で実施された。

用法・用量は、本剤 5 μg 又はプラセボ(生理食塩液)に 1:1 で無作為割り付けし、28 日間隔で 2 回筋肉内接種された。また、2 回目接種から 2 カ月後(Day 92)に、本剤群にはプラセボを、プラセボ群には本剤を、28 日間隔で 2 回筋肉内接種された。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

プラセボ群も2回目接種の2ヶ月後には、「本剤」を接種されているのです。理由は下記に書かれていました。

7.R.2 有効性について
7.R.2.1 主要評価項目について
2021 年夏には COVID-19 ワクチンのベトナムでの使用が認可され、2021 年 9 月に集団接種キャンペーンを開始し、2022 年 3 月までに約 8000 万人に接種することが可能となった。COVID-19 ワクチンが集団予防接種キャンペーンによって入手可能になった状況で、高齢者や COVID-19 の重症化リスクが高い合併症を持つ被験者を含むプラセボ対照臨床試験の長期追跡調査を実施することは倫理的に問題があった。以上より、有効性サーベイランスの期間を 2 カ月に制限し、試験参加者全員に治験薬(本剤又はプラセボ)を交互に接種することを決定した。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

多くの国民が接種できる状況になったのに、コロナ感染のリスクが高い高齢者などにワクチンを接種しないことは「倫理的に問題がある」と判断したようです。

ベトナムでの臨床試験はボランティアだったようなので、それも関係しているかもしれません。

The clinical trials will be carried out in three phases with the participation of 21,000 volunteers, including 100 in phase one, 300 in phase two and 20,600 in phase three.

https://en.vietnamplus.vn/vietnam-to-start-clinical-trials-of-mrna-covid19-vaccine/206364.vnp

当初の予定より人数も少ないので、条件等は変わったかもしれませんが、レプリコンワクチンについてどこまで説明がされたのか気になります。


Day1~Day92 における死亡例は、本剤群 5/8059 例(0.1%、低血糖、膵炎、肺の悪性新生物、咽頭癌転移、COVID-19 各 1 例)、プラセボ群 16/8041 例(0.2%、COVID-19 9 例、リンパ節腫脹、肝硬変、肝癌、
大動脈解離、肺炎、アシネトバクター性肺炎、敗血症性ショック各 1 例)であり、いずれも治験薬との因果関係は否定された。

Day92~Day210 における死亡例は、本剤-プラセボ群 9/7458 例(0.1%、事故死、他の特定できない死亡各 2 例、急性心筋梗塞、敗血症性ショック、外傷、口唇がん/口腔がん、悪性肺新生物各 1 例)、プラセボ-本剤群 4/7349 例(0.1%、COVID-19 2 例、頭蓋脳損傷、脳血管発作各 1 例)であり、いずれも治験薬との因果関係は否定された。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

「本剤-プラセボ群」(92日までワクチン群)と「プラセボ-本剤群」(92日までプラセボ群) と、ややこしい書き方をしていますが、このように書いていても、Day92~Day210はもう「プラセボ群」とはいえないと思います。

また、因果関係の否定というのは、どのような判断なのでしょうか。「他の特定できない死亡」とは何なのか気になりますし、急性心筋梗塞はファイザー製などの接種後に多数起きてます。

販売開始後に接種して健康被害が起きたら「因果関係の評価不能」となるのに、こんなに簡単に「否定」できるものなのでしょうか。

Day1~92のプラセボ群でCOVID-19による死亡が9例もあることが気になっていたのですが、それについても詳細は書かれていません。

これで納得してしまうなら、審査の意味などないのではないでしょうか。

7.R.3.2 注目すべき有害事象について 
(略)
機構は、以下のように考える。
初回免疫の臨床試験において本剤群で認められた有害事象は、既承認 RNA ワクチンと概ね同様であり、追加免疫の臨床試験における対照薬コミナティとの比較では、有害事象の種類及び発現割合に大きな差異は認められていない。また、多くが軽度又は中等度の有害事象であったこと、年齢による安全性プロファイルの差異は認められなかったこと等から、18 歳以上の者における本剤の安全性については忍容可能と判断した。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf


ファイザー社のワクチン(コミナティ)に関する安全性の検証もきちんとされていないのに、それと同様といわれても説得力がありません。

7.R.3.3 特別な背景を有する集団における安全性について
(略)
機構は、以下のように考える。
ARCT-154-01 試験及び ARCT-154-J01 試験において、基礎疾患を有する被験者で全体集団と比較して特に注意を要する安全性上の懸念は認められないことを確認しており、現時点において基礎疾患を有する者に対して特段の注意喚起が必要な状況にはない。ただし、基礎疾患を有する者に対する本剤の接種経験は限られており、接種時にはより注意を要すると考えることから、類薬と同様に注意喚起することが適切と判断した。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

基礎疾患については、臨床試験参加者募集の除外基準も確認しておく必要があると思います。

以下、機械翻訳による一部引用です。詳細は上記サイトでご確認ください。

ベトナムでの臨床試験参加者の除外基準(一部)

  • 妊娠中または授乳中。

  • 免疫抑制または免疫不全状態、無脾症、再発する重度の感染症、または HIV 陽性であることがわかっている。

  • 臨床的に重要な急性または慢性の基礎疾患または身体検査所見で、治験責任医師の意見では、参加が参加者の最善の利益にならない(例:健康を損なう)、または予防、制限する可能性がある、またはプロトコルで指定された評価を混乱させる可能性がある。

  • スクリーニング前の6か月以内に、細胞傷害剤または全身性コルチコステロイドを含む免疫抑制療法(例えば、癌または自己免疫疾患)による治療を受けている、または研究全体を通じて予定されている治療を受けている。

  • 最初の研究ワクチン投与前の3か月以内に全身免疫グロブリンまたは血液製剤を投与されたか、または研究中にそのような製品を投与する予定がある。

除外されているということは、これらの人が接種したデータはないということです。

https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/780009000_30500AMX00282_A100_2.pdf

前述しましたが、このワクチンが承認されているのは今のところ「日本だけ」です。それが何を意味するのか、考える必要があると思います。

コスタイベ筋注用審査報告書